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I-B-4.英文法の全体構造

主語とは何か?/主題とは何か?

英語では、よく「主語」が必須であると言われることがありますが、「なぜ、英語では<主語>が必須なのか」についてはあまり論じられていないように思います。なぜ必須なのかを考えないまま、<主語>を「主題を表すものである」と定義していることが多いので、何となく<主語>と<主題>は同じもののように考えてしまっているようです。しかし、<主語>と<主題>はきちんと分けて考える必要があると思います。私は<主語>と<主題>を以下のように考えています。

「(純粋)主語」とは「定形動詞の階層構造のうち、人称と数の2階層だけを独立させたものである」

「主題」とは「(定形)動詞が何について述べているかを表現したものである」

ということです。定形動詞の階層構造の一部を代行しているため、<主語>は節(Clause)単位に必須なのです。これに対し、<主題>は必ずしも必須ではありません。英語では通常この2つは1つの語や句・節などで表現されますので、英語の主語とは以下のように言うことができます。

主語(Subject) = (純粋)主語(Pure Subject) + 主題(Theme)

ただし、<純粋主語>と<主題>が分離して表現される場合があります。いわゆる<仮主語>と<真主語>というのがこれに該当しますが、この場合、<仮主語>が<純粋主語>に相当し、<真主語>が<主題>に相当します。

それでは、なぜ定形動詞の階層構造のうち人称と数の2階層だけを独立させる必要があるかというと、定形動詞の階層構造が弱くなり、定形動詞1語で6階層(または5階層)の階層を表現できなくなったために<主語>が必要になるのです。したがって、<主語>にあわせて「定型動詞」の形を変えるという言い方をすることがありますが、これは誤りです。もし「主語にあわせて動詞が変化している」とするのであれば、<主語>の人称と数に応じて、定形動詞がすべて異なる形になるはずですし、異なる形になっていれば、世間一般で使われている<主語>は必要ないことになってしまいます。

例えば、英語やフランス語、ドイツ語には<主語>がありますが、これは定形動詞の人称変化が衰えてきたことを補うために<主語>が必要になったと考えるべきものです。かなり複雑な人称変化を現在でも残しているフランス語の人称変化が「衰えた」というと異論のある方もあるとは思いますが、例えば、事実法[直説法]・能動態・現在形の人称変化を考えてみると、aimer「愛する」の人称変化は文字に書くとそれぞれaime(第1人称単数形),aimes(第2人称単数形),aime(第3人称単数形),aimons(第1人称複数形),aimez(第2人称複数形),aiment(第3人称複数形)などと異なりますが、発音してみると、第1人称から第3人称までの単数形と第3人称の複数形がすべて同じ発音になります。ここから<主語>が必要になったとも言えますし、定形動詞の階層構造のうち、人称と数を独立させたとも考えられるのです。

このように定義した場合、スペイン語やイタリア語では<主語>は存在しないということができます。参考書の中には省略されていると書いているものもありますが、これは誤りです。動詞の活用と<主題>について<人称>と<数>が呼応していることは言うまでもありませんが、スペイン語やイタリア語では<人称>と<数>によって、動詞の活用はそれぞれに異なっているため、<主題>が必要になることはあっても、<人称>と<数>を代行する<主語>は必要ではないのです。

日本語から見たときに、<主題>について英語で特に注意すべき点は、抽象名詞を使用する傾向が高い点です。英語の原因能動相(態)の主題は原因を表しますが、ここに抽象名詞を使用する点は日本語にはあまりない点ですので、注意が必要です。こうした傾向は英語だけでなく、フランス語・ドイツ語、さらにはラテン語などにも見られる特徴です。

また、<主題>は聞き手が知っているはずの(知っているはずと話し手が思っている)情報すなわち<既知情報>であることが前提になります。命令文や呼びかけをする文などでは<既知情報>のない場合もありますが、多くの文では<既知情報>となる<主題>が必要になります。さらに能動態の場合の<主題>は動作・行為の<原因>になりますが、必ずしも<原因>が<既知情報>にならないことがあります。そうした場合、能動態では表現できないので、受動態で表現することになります。ラテン語で<異態動詞>(形式受動態動詞・能動態欠如動詞)と呼ばれるものがこれに該当します。



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