英語の反実法[接続法](Fictive Mood/Subjunctive Mood)の時制は一般に現在・過去・過去完了の3つがある(さらに未来を入れて4つとする場合もある)と言われていますが、事実法[事実法](Factive Mood/Indicative Mood)のそれぞれの時制とは全く異なるものですので、同じ名称にすることは意味がないだけでなく、無用の混乱を生み出すもとになっています。特に間接話法における<時制の一致>(The consequence of the Tense/The correspondence of the Tense)というデタラメな説明を生み出す要因の1つになっているとも言えます。
反実法[接続法]の時制(Tense)
反実法[接続法]の時制は以下のように名称を変更すべきであると思います。
反実法[接続法]の活用形(Form)
英語の反実法[接続法](Fictive Mood/Subjunctive Mood)の形式は以下のように整理することができます。下記の表から明らかなように反実法[接続法]で過去完了形になっているからと言って、元の形が過去形だとは限りません。
反実法[接続法]の活用形 | 種類 | 形式 | 備考 |
反実法[接続法]非現在 | 第1式 | 事実法の過去時制と同形(注1) | 従来の<仮定法過去> 現在形→過去形 現在進行形→過去進行形 現在完了形→過去完了形 現在完了進行形→過去完了進行形 |
第2式 | would(should,could,might) +現在不定詞(注2) |
従来の<仮定法過去> | |
第3式 | 現在不定詞(注2) | 従来の<仮定法現在> | |
反実法[接続法]非過去 | 第1式 | 事実法の過去完了形(過去完了進行形)と同形 | 従来の<仮定法過去完了> 過去形→過去完了形 過去進行形→過去完了進行形 過去完了形→過去完了形 過去完了進行形→過去完了進行形 |
第2式 | would(should,could,might) +完了不定詞(注2) |
従来の<仮定法過去完了> |
(注1)be動詞の場合、特に一人称単数形と三人称単数形で"were"を使用する場合がある。
(注2)to不定詞(to-infinitive)ではなく、原形不定詞(bare infinitive)を指す。
反実法[接続法]の3つの話法(Discourse)
反実法[接続法]の話法は以下のようにすべきであると思います。従来の「仮定法」は<非現実話法>だけに該当します。ここで、「話法(Discourse)」とは、人間の認識を類型化させたものです。人間の認識にはさまざまありますが、そのままでは文法理論にはなりません。そこで、人間の認識を類型化した仮説を立てることで、文法理論の基礎概念とすることができるようにします。一方、反実法[接続法]の「法(Mood)」は定形動詞の階層構造の1つですから、「話法(Discourse)」と「法(Mood)」は本来全く異なる概念で、「話法(Discourse)」は「法(Mood)」の下位概念ではありません。しかし、以下に示す3つの「話法(Discourse)」は反実法[接続法]で表現されることが多いので、ここで解説します。
間接話法(Indirect Discourse)
<間接話法(Indirect Discourse)>は、従来<時制の一致>という誤った名称で呼ばれていたものです。「間接話法では主節の動詞が過去時制の場合に限り、従属節の定形動詞が現在形は過去形に、過去形は過去完了形にバックシフトする」などと書かれていますが、実際には上記の表で示したように過去形も現在完了形も間接話法では過去完了形になってしまいますので、従来の説明では不十分です。また、「間接話法は伝達された内容なので、話し手が発話するより前、すなわち過去のことについて言及しているので、過去形を使用している」などとする文法書もありますが、これも誤りです。
<間接話法>での過去時制は<表現対象を事実であるとも、事実でないとも表明しない>ことを表しています。定形動詞の階層構造には必ず<法(Mood)>が含まれますので、<反実法[接続法]>でなければ(命令法もありますが)、一般には<事実法[直説法]>ということになってしまいます。このため、間接文の内容をもし仮に<事実法[直説法]>で表現した場合、<伝達されたものかどうかにかかわらず、話し手がその内容を事実であると思う>ということになってしまいます。言い換えれば、間接文の内容について話し手が責任を取らなければならなくなってしまうのです。こうした事態を避けるために間接文の内容は<反実法[接続法]>で表現することになります。話し手が責任をとるのは、あくまでも主節の定形動詞の部分だけで、間接文の中の定形動詞で表現された部分については通常責任を持つことはないのです。
また、<間接話法>での過去時制は<表現対象を事実であるとも、事実でないとも表明しない>ことを表しているため、間接文が<直接話法>で表現されていたときに過去時制が含まれていると、過去時制を<過去の事実を表現する>形式としては使用できなくなってしまいます。このため、過去時制を完了相で代用することになります。<直接話法>の過去形が<間接話法>では過去完了形になり、<直接話法>の過去進行形が<間接話法>では過去完了進行形になるのはこのためです。しかし、<直接話法>の過去完了形や過去完了進行形はすでに完了相を含んでいるため、過去時制を完了相で代用することができません。完了相の「大盛り」を表現する形式が英語にあればいいのですが、そんな言語表現は英語にはありませんので、<直接話法>の過去完了形や過去完了進行形は<間接話法>になっても形を変えないのです。
主節が現在時制の場合には、間接話法でも<反実法[接続法]>にしませんが、これは歴史的な経緯の中で<反実法[接続法]>がしだいに使用されなくなったためです。また、主節が現在時制の間接話法は実際には通訳をする人が使用する場合など限られた事例でしか使用しませんので、<事実法[直説法]>でも問題ないとも言えます。現在でもドイツ語やフランス語では主節が現在時制であるかどうかにかかわらず、間接文においては<反実法[接続法]>を使用しています。
間接話法で<反実法[接続法]>にしない場合の例外がいくつかありますが、<伝達されたものかどうかにかかわらず、話し手がその内容を事実であると思う>場合に該当するか、または後に示す<非現実話法>になっている場合のいずれかの場合です。なお、法助動詞や準法助動詞について過去時制が存在しない場合も<反実法[接続法]>にはなりません。具体的には以下のような場合が挙げられます。
ただし、上記の例に当てはまれば、必ず<事実法[直説法]>にするわけではない点には注意が必要です。すなわち、上記の例に当てはまる場合でも<事実法[直説法]>で表現することもありますし、<反実法[接続法]>で表現する場合もあって、どちらも間違いではないということです。具体的には以下のような場合が挙げられます。下記の例はいずれも事実法[直説法]を使用している場合は、伝達されたものかどうかに関係なく事実だと思っていることを示しています。また、反実法[接続法]を使用している場合は、伝達された内容が事実であるとも事実でないとも表明しないことを示しています。
表現形式としては、直接話法の時に現在時制を使用していれば、間接話法では<反実法[接続法]非現在>を、直接話法の時に過去時制を使用していれば、間接話法では<反実法[接続法]非過去>を使用します。また、原則的にはそれぞれ第1式を使用しますが、直接話法で現在形を使用して未来の事象に言及している場合は非現在第1式(事実法の過去時制と同形)を使用するとわかりにくくなる場合もありますので、そうした場合は非現在第2式(法助動詞の過去形+現在不定形)を使用します。また、直接話法で現在完了形を使用している場合、間接話法にすると過去完了形になり、もともと現在完了であったことがわかりにくくなる場合がありますので、そうした場合には非過去第2式(法助動詞の過去形+完了不定形)を使用します。
非現実話法(Fictive Discourse)
<非現実話法(Fictive Discourse)>は、従来<仮定法>という誤った名称で呼ばれていたものです。本来、"Subjunctive Mood" は<接続法>を意味するものですので、<仮定法>という訳語は誤りなのですが、日本の英語学界では、以前は<非現実話法(Fictive Discourse)>の<条件節>に使用されている法(Mood)を<仮定法>、<非現実話法(Fictive Discourse)>の<帰結節>に使用されている法(Mood)を<帰結法>または<条件法>(Conditional Mood)と呼んでいたのが、<条件節>の法(Mood)も<帰結節>の法(Mood)も<仮定法>と呼ぶようになって今日に至っているようです。
非現実話法は、一般に非現実的な仮定を示す<条件節>と非現実的な結論を示す<帰結節>の2つで使われます。<条件節>で現在の事実に反する非現実な仮定を表す場合は、反実法[接続法]非現在第1式を使用し、過去の事実に反する仮定を表す場合は、反実法[接続法]非過去第1式を使用します。また、<帰結節>で現在の事実に反する非現実な結論を表す場合は、反実法[接続法]非現在第2式を使用し、過去の事実に反する結論を表す場合は、反実法[接続法]非過去第2式を使用します。表にまとめると以下のようになります。
非現実話法の使用場面 | 反実法[接続法]の形式 |
現在の事実に反する条件節 | 反実法非現在第1式 |
現在の事実に反する帰結節 | 反実法非現在第2式 |
過去の事実に反する条件節 | 反実法非過去第1式 |
過去の事実に反する帰結節 | 反実法非過去第2式 |
上記の形式を見てもわかるように、現在の事実に反する条件節の中の定形動詞が反実法非現在第1式であり、事実法の過去形と同形であるという点には注意が必要です。というのは、事実法の条件文で過去の事実に関する条件と定形動詞を見ただけでは区別がつかないからです。したがって、if 以下の条件節の中に、現在を示す副詞(句)があるかどうか、帰結節も含めたときに、反実法と判断できるかどうかを見る必要があります(過去を示す副詞(句)があれば、事実法の条件文であると判断できます)。
英語を学習する側の都合でいえば、全く異なる形をしていた方がいいように思いますが、英語だけでなく、他の言語でも、こうした一時しのぎとしか思えないような表現形式が存在する場合があります。
If we had a storm in Tokyo now, we could not come home.
今、東京が嵐だったら、家に帰れないよ。【反実法】
If we had a storm in Tokyo yesterday, we may had stayed a nearby hotel.
昨日、東京が嵐だったら、近くのホテルに泊まったかもしれない。【事実法】
要求話法(Request Discourse)
<要求話法(Request Discourse)>は、現在では祈願文など、ごく一部でしか使用されていません。助動詞"may" を使った用法になっていることもよくあります。表現形式としては非現在第3式(現在不定形の原形(bare infinitive))を使用します。要求話法は命令法で表現されることがありますが、命令法は第2人称に対する要求を表現するのに対し、反実法[接続法]では第3人称に対する表現します。また、助動詞"may" を使った用法のように事実法[直説法]で表現されるものもあります。
God bless you!
神様の祝福がありますように。
God save the Queen!
神様が女王陛下をお守りくださいますように!
Long live the Queen!
女王陛下万歳!
Eternal rest grant unto them, O Lord, and let perpetual light shine upon them. May the souls of the faithful departed, through the mercy of God, rest in peace. Amen!
主よ、永遠の安息を彼らに与え給え。絶えざる光で照らし給え。別れを告げる信者の魂が神の恩寵を通して安らかに眠りますように、アーメン。
反実法[接続法]の話法と形式との対応
英語の反実法[接続法](Fictive Mood/Subjunctive Mood)の話法と形式との関係は以下のように整理することができます。ただし、以下の表はあくまでも特定の話法が特定の形式で表現されることが多いというだけで、すべてこのような対応をしているわけではありません。
反実法[接続法]の話法 | 反実法[接続法]の形式 | 説明 | 備考 |
間接話法 | 反実法非現在第1式 または非現在第2式 |
事実法[直説法]で現在時制で表現している場合 | 原則的には第1式を使用するが、将来の予測に関するものを表現する場合には非現在第2式を使用することがある。 |
反実法非過去第1式 または非過去第2式 |
事実法[直説法]で過去時制で表現している場合 | 原則的には第1式を使用するが、事実法[直説法]での現在完了形は反実法[接続法]非過去第2式を使用することがある。 | |
非現実話法 | 反実法非現在第1式 または非過去第1式 |
条件節を表現する場合 | 現在の事実に反すると思っている条件は非現在第1式、過去の事実に反すると思っている条件は非過去第1式 |
反実法非現在第2式 または非過去第2式 |
帰結節を表現する場合 | 現在の事実に反すると思っている結論は非現在第2式、過去の事実に反すると思っている結論は非過去第2式 | |
要求話法 | 反実法非現在第3式 | 祈願文などを表現する場合 | mayを使った用法になることも多い。 |