■日本人のための英文法

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「日本人のためのラテン語文法入門」
「日本人のためのラテン語文法入門」
「日本人のための古代ギリシア語文法入門」
「日本人のための古代ギリシア語文法入門」

I-B.日本人のための英文法入門

英文法を初めとする西洋の言語の文法はラテン語の文法が元になっています。最近では、こうした文法教育はあまり役立たないという批判も多いようですが、その考えは誤りです。言語の習得に役立つのは、伝統文法または規範文法と呼ばれるものだけです。規範文法は、従来あまりにも規範性を強調しすぎたり、いい加減な定義をしていたために、批判されましたが、本来は規範性と慣用のバランスを適度に取ることができる点で、言語の学習に適しているのです。渡部昇一著『秘術としての文法』(講談社学術文庫)にも「新言語学は、構造言語学であれ、生成文法であれ、確実な意味がすでに研究者にわかっている文章のみを分析研究する。」(16ページ)とあるように、生成文法などで<意味のわからない>文章を理解することは不可能ですし、そもそもそのような目的はないのです。

それではなぜ、このような批判がでてくるのでしょうか? こうした批判の原因はいろいろとありますが、以下のような原因が考えられます。

まず第1に「言語そのものに対する研究がソシュールの段階で思考停止状態に陥っている」ためです。フェルディナン・ド・ソシュールが言語学の対象を通時言語学と共時言語学に二分し、さらに共時言語学において言語を社会的側面の<ラング>と個人的側面の<パロール>に分けたのはいいのですが、共時言語学の対象を<ラング>としたため、現在では、言語=<ラング>と考えられるに至っています。しかし、この状態は「<ラング>=言語規範だけが言語である」言い換えれば「絵に描いた餅だけが餅である」ということになってしまい、実際に発話したり、表現したりしたときに発生するさまざまな問題は言語学の対象とはされなくなってしまいます。

第2に「語学学習特有の難しさについて理解されていない」ためです。よく学習の方法として「高校生向けの文法書を通読せよ」というようなことが言われることがありますが、言語学習においては、<理解すること>と<慣れること>が相互依存の関係にあるので、理解できないものを通読することはほぼ不可能なのです。

第3に「語学学習の全体構造が十分に把握されていない」ためです。語学学習の全体構造を示していないので、「<単語>と<文法>さえ学習すればよい」という考えも見受けられるようですが、これだけで語学学習が十分とは言えません。

まず第4に「文法体系そのものが十分に批判・検討されていない」ということがあります。たとえば文法用語の定義が不十分だったり、定義そのものが誤っている場合があります。

たとえば、代名詞の定義は文法書にもよりますが、「名詞の代わりをする言葉である」という定義が多いようです。しかし、これはもともと"pronoun"という言葉の語源を説明したものだったようで、定義と考えるのは誤りです。なぜなら、定義となるためには必要十分条件を満たす必要があるのですが、「代名詞とは名詞の代わりをする言葉である」は必要十分条件を満たさないからです。

第5に「なぜそうなっているか」についての解説がほとんどない点も問題です。

たとえば「時制の一致」の説明は、従属節の定形動詞の時制を現在から過去へ、過去から過去完了へ変換することと、いくつかの例外事項が存在することを述べるだけで終わっているものが大半です。なぜ、そのような変換を行うのかについては全くといっていいほど説明されていません。私はこうした英文法の説明方法を<お花畑文法>と呼んでいますが、これでは英語が理解できるはずがありません。風景画かスナップ写真であれば、ある側面から見て美しい描写を行うのもいいのでしょうが、その場限りのような、他の箇所と矛盾する記述を行っていても何とも感じていないような解説と都合のいい例文を並べるだけでの文法では全く意味がありません。こうしたことは欧米人の英文法の参考書を見るだけでは解決することはできませんし、それぞれの国の人々が自国語の視点から考える必要があるのです。したがって日本語を母国語としているわれわれは日本語の視点から考えなければ解決できません。

第6に「英文法の全体構造」を解説しているものがほとんどありません。このため、個々の文法事項を説明されても、全体から見たとき、どのような位置づけなのかがわからないため、理解ができないのです。

たとえば、定形動詞は他動詞で6階層、自動詞で5階層の階層構造を持っていますが、こうした階層構造について解説してある本はほとんどありません。「法」(Mood)の定義も不十分なものが多いですし、「時制」(Tense)は「相」(Aspect)と混在させて解説しているものがほとんどで、「時制」と「相」をきちんと分けて解説しているものは全くといっていいほどありません。また、文型についても多くの場合、5文型を指摘するに留まり、それ以上については不定詞や動名詞などの項目で分散して指摘されているので、文型の全体像がわかりにくい内容になっています。

第7に「音声や文字などの言語表現を起点として、意味という終点にたどり着く」という誤った言説に基づいた文法観を持っているので、訳のわからないものになってしまうのです。言語を学習する初期段階では「音声や文字などの言語表現を起点として、意味という終点にたどり着く」という方法もやむを得ないところはありますが、学習がある程度進んだ段階でも、このような文法観を持ち続けているので、「何を解説しているのか全くわからない内容になってしまう」のです。

例えば、「過去形」を使用しているからといって、常に過去の出来事を表現しているわけではありません。いわゆる「仮定法」や「間接話法」は過去の出来事を表現していない場合でも、過去形を使用することがありますが、こうしたことが十分認識できていない説明が多いのです。本来は、認識論に踏み込んだ文法、すなわち「表現したい内容を起点として、音声や文字などの言語表現を終点とする」観点で解説しなければ、文法は理解できる内容になりません。しかし、音声や文字などの言語表現を起点とした解説が多いため、表面的な説明に終わるか、意味不明な説明に終わってしまうのです。その結果、全体として何をどう習得して良いのかわかりにくいものがかなりあるのです。

こうしたことは文法だけでなく、さまざまな分野の学問についても同じようなことが言えます。

そこでこの「日本人のための英文法入門」では、理解できる英文法を目指して、ときには従来の文法用語とは異なる用語を使いながら、説明していきたいと思います。



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