ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の活用
それでは具体的に命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の活用を見ていきましょう。命令法の語幹は、事実法[直説法]・原因能動態・現在形の語幹と同じです。命令法の第1式[現在]と第2式[未来]は従来、現在形と未来形という誤った名称で呼ばれていますが、実際には第1式・第2式と呼ぶべきもので、事実法[直説法]の時制のような概念はありません。
第1式[現在]と第2式[未来]の違いは第1式[現在]が命令する相手に対して、直接、命令や要求を示すのに対し、第2式[未来]は法律文書や格言などで使用される特殊な用法で、「一定の時間的余裕をもった上で実行せよ」と表現したり、間接的な命令を表現するときに使用します。間接的な命令とは、たとえぱ、「国王が大臣に対して、家臣の一人であるAさんに何らかの内容を実行せよと命じる」というような場合に使用する命令です。このとき、国王は家臣のAさんに直接命じるわけではありませんので、第1式[現在]は使用することができません(こうした場合、命令法ではなく、反実法[接続法]を使用する場合もあります)。
また、第1式[現在]には第2人称単数形と第2人称複数形しかありませんが、第2式[未来]には第2人称単数形の他に、第3人称単数形と第3人称複数形があります(第2人称複数形はありません)。
ラテン語の定形動詞の活用形の種類と幹音との関係
活用の種類 | 命令法の幹音 (命令法の語幹の最後の音) |
語幹の作り方 |
第1活用 | -ā(長音のa) | 現在不定形から-reをとったもの |
第2活用 | -ē(長音のe) | 現在不定形から-reをとったもの |
第3正則活用 | -子音 | 現在1人称単数形から-ōをとったもの |
第3変則活用 | -i(短音のi) | 現在1人称単数形から-ōをとったもの |
第4活用 | -ī(長音のi) | 現在不定形から-reをとったもの |
ラテン語の定形動詞の活用形の種類ごとの事例
実際に語幹と語尾を組み合わせて、活用形を作ってみましょう。
ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の第1活用の事例
下記の表の中にある「第1法則」等の説明は一番下の囲み枠をご覧ください。
人称と数 | 命令法の語幹 | 命令法の語尾 | 命令法の活用形 |
第1式第2人称単数形 | amā | -re | amāre |
第1式第2人称複数形 | amā | -minī | amāminī |
第2式第2人称単数形 | amā | -tor | amātor |
第2式第3人称単数形 | amā | -tor | amātor |
第2式第3人称複数形 | amā | -ntor | amāntor→amantor(第3法則適用) |
ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の第2活用の事例
下記の表の中にある「第1法則」等の説明は一番下の囲み枠をご覧ください。
人称と数 | 命令法の語幹 | 命令法の語尾 | 命令法の活用形 |
第1式第2人称単数形 | monē | -re | monēre |
第1式第2人称複数形 | monē | -minī | monēminī |
第2式第2人称単数形 | monē | -tor | monētor |
第2式第3人称単数形 | monē | -tor | monētor |
第2式第3人称複数形 | monē | -ntor | monēntor→monentor(第3法則適用) |
ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の第3正則活用の事例
人称と数 | 命令法の語幹 | 命令法の語尾 | 命令法の活用形 |
第1式第2人称単数形 | reg | -ere | regere |
第1式第2人称複数形 | reg | -iminī | regiminī |
第2式第2人称単数形 | reg | -itor | regitor |
第2式第3人称単数形 | reg | -itor | regitor |
第2式第3人称複数形 | reg | -untor | reguntor |
ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の第3変則活用の事例
人称と数 | 命令法の語幹 | 命令法の語尾 | 命令法の活用形 |
第1式第2人称単数形 | percuti | -re | percutere(例外:percutireとはならないので、注意すること) |
第1式第2人称複数形 | percuti | -minī | percutiminī |
第2式第2人称単数形 | percuti | -tor | percutitor |
第2式第3人称単数形 | percuti | -tor | percutitor |
第2式第3人称複数形 | percuti | -untor | percutiuntor |
ラテン語の命令法・自発受動態・第1式[現在]と第2式[未来]の第4活用の事例
下記の表の中にある「第1法則」等の説明は一番下の囲み枠をご覧ください。
人称と数 | 命令法の語幹 | 命令法の語尾 | 命令法の活用形 |
第1式第2人称単数形 | audī | -re | audīre |
第1式第2人称複数形 | audī | -minī | audīminī |
第2式第2人称単数形 | audī | -tor | audītor |
第2式第3人称単数形 | audī | -tor | audītor |
第2式第3人称複数形 | audī | -untor | audīuntor→audiuntor(第3法則適用) |
ラテン語の定形動詞の活用形の3つの法則
参考までに定形動詞の活用形の3つの法則を挙げておきます。
ラテン語の定形動詞の活用形の3つの法則
(例:ē+ōはe+ōになります。ただし、ā+ōはa+ōを経て、最終的にōになります)
(ここで直前とは、活用形の最後の文字から左側に向かって、さかのぼる形で見ていったときに、子音に出会うまでの母音すべてを指します。たとえば、amatであれば、最後の文字からt、aと調べていって、最初にぶつかる子音のmまでの間にある母音であるaを直前の母音と言います)
(また、audiamであれば、最後の文字からm、aと調べていって、最初にぶつかる子音のdまでの間にある母音であるiaを直前の母音と言います)
(ここで直前とは、活用形の中にある該当する文字から左側に向かって、さかのぼる形で見ていったときに、子音に出会うまでの母音すべてを指します。たとえば、amantであれば、最後のntから順に調べていって、最初にぶつかる子音のmまでの間にある母音であるaを直前の母音と言います)
(また、audiunturであれば、ntからu、iと調べていって、最初にぶつかる子音のdまでの間にある母音であるiuを直前の母音と言います)
(注)「どこにあっても」は正確には語の先頭以外ということですが、第2法則と混同しやすいため、「語中または語尾」などと言うよりも、こちらのほうが覚えやすいと思います。
【事実法[直説法]・原因能動態】現在完了形 過去完了形 未来完了形
【事実法[直説法]・自発受動態】現在完了形・過去完了形・未来完了形
【反実法[接続法]・原因能動態】第1非現在 第2非現在 第1非過去 第2非過去
【反実法[接続法]・自発受動態】第1非現在 第2非現在 第1非過去 第2非過去
【命令法・原因能動態】第1式[現在]・第2式[未来]
【命令法・自発受動態】第1式[現在]・第2式[未来]