定形動詞の階層構造は、他動詞の場合は6階層、自動詞の場合は5階層の構造を1語の中に圧縮した形で持っています。
他動詞の定形動詞の階層は以下のように6階層になっています。なお、以下の相と時制は組み合わされて、1つの形を形成しているため、あたかも時制のように扱われることがありますが、この考え方は誤りです。
- 法(Mood)
- 態(原因/非原因を軸とする相)(Voice または Aspect on Cause)
- (時間を軸とする)相(Aspect on Time)
- 時制(Tense)
- 人称(Person)
- 数(Number)
また、自動詞の定形動詞の階層のように5階層になっています。
- 法(Mood)
- (時間を軸とする)相(Aspect on Time)
- 時制(Tense)
- 人称(Person)
- 数(Number)
したがって、定形動詞の意味を把握するには、上記の階層構造を分析しなければならないことになります。
定形動詞の階層構造を表にまとめると以下のようになります。
階層 | 内容 |
法(Mood) |
表現対象に対する話し手(情報発信者)の態度(主観から見た態度)。以下の3つに分かれています。 1.事実法(Factive Mood)[直説法(Indicative Mood)] 話し手が表現対象を「事実だと思っている」ことを表す。 2.反実法(Fictive Mood)[接続法(Subjunctive Mood)] 話し手が表現対象を「事実だと思っていない」または「事実かどうかの判断を留保している」ことを表す。 3.命令法(Imperative Mood) 話し手が表現対象を現在は事実ではないが「事実にしたいと思っている」ことを表す。 |
態(Voice) 原因/非原因を軸とした相(Aspect) |
表現対象に対する客観的な観点の1つ(主題に原因が来るかどうかを軸とするもの)。以下の2つに分かれています。なお、この階層は「他動詞」の場合にしかありません。 1.原因能動相(Causal Active Voice)[能動態(Active Voice)] 主題[主語]となる表現対象が定形動詞から見て、「原因と考えられる」ことを表す。 2.自発受動相(Spontaneous Passive Voice)[受動態(Passive Voice)] 主題[主語]となる表現対象が定形動詞から見て、「原因と考えられない」ことを表す。 「原因と考えられない」もののうち、(定形動詞とは限らないが)「動詞の対象」となることばが主題[主語]となる場合は、受動の意味が強くなる。 |
相(Aspect) 時間を軸とした相(Aspect) |
表現対象に対する客観的な観点の1つ(表現対象を時間的にどう捉えるかを軸とするもの)。従来は「時制」の中の一部であるかのように混同されていたもの。 1.単回遂行相(Single Implemented Aspect) 表現対象の動作や行為が一瞬のうちに始まり、終了してしまったかのように表現する。 2.状態相(Stative Aspect) 表現対象の動作や行為が継続している(中断できない)状態にあることを表現する。 3.開始相(Inceptive Aspect)[起動相] 表現対象の動作や行為が「ある期間の中で」始まった状態にあることを表現する。 4.進行相(Progressive Aspect) 表現対象の動作や行為が「ある期間の中で」継続している(中断できる)状態にあることを表現する。 5.完了相(Perfect Aspect) 表現対象の動作や行為が「ある期間の中で」完了している状態にあることを表現する。 |
時制(Tense) |
表現対象に対する主観的な観点と客観的な観点との関係を示します(従来は相(Aspect)と併せて「時制」であるかのように思われていたもの)。 1.現在時制(Present Tense) 表現対象の動作や行為の時間軸と主観的な時間軸が一致している(または「近い」)関係を表す。 2.過去時制(Past Tense) 表現対象の動作や行為の時間軸が主観的な時間軸から見て、過去に向かって「遠い」関係を表す。 3.未完了時制(Imperfect Tense) 表現対象の動作や行為の時間軸が主観的な時間軸から見て過去にあるが、主観的な時間軸を現在から過去へ移動させて、表現対象の動作や行為の時間軸と一致させた上で一度認識し、主観的な時間軸を過去から現在に戻して、実際には一致していないことを再認識した関係を表す。 4.未来時制(Future Tense) 表現対象の動作や行為の時間軸が主観的な時間軸から見て未来にあるが、主観的な時間軸を現在から未来へ移動させて、表現対象の動作や行為の時間軸と一致させた上で一度認識し、主観的な時間軸を未来から現在に戻して、実際には一致していないことを再認識した関係を表す。 |
人称(Person) |
話し手から見た表現対象に対する関係を示す。 1.第1人称(First Person) 話し手[情報発信者]から見て、話し手[情報発信者]を表現対象とする場合に用いる。 2.第2人称(Second Person) 話し手[情報発信者]から見て、聞き手[情報受信者]を表現対象とする場合に用いる。 3.第3人称(Third Person) 話し手[情報発信者]から見て、話し手[情報発信者]でも聞き手[情報受信者]でもないものを表現対象とする場合に用いる。 |
数(Number) |
話し手から見た表現対象の「数」を示す。 1.単数(Single) 表現対象が単独であることを表す。 2.複数(Plural) 表現対象が複数であることを表す。 |
従来の時制と本来の時制との関係表
ラテン語の時制は、従来、現在・未完了・未来・現在完了・過去完了・未来完了の6つとされてきましたが、これらはすべて活用形(Form)であって、時制ではありません。活用形は時制(Tense)と相(Aspect)が組み合わされて1つの形になっていますので、意味を分析する場合には、時制と相に分けて分析していく必要があります。
従来の時制(Form) | 相 | 本来の時制(Tense) |
現在形 | 単回遂行相 | 現在時制 |
状態相 | ||
進行相 | ||
未完了形 | 開始相[起動相] | 未完了時制 |
進行相 | ||
現在完了形 | 単回遂行相 | 過去時制 |
完了相 | 現在時制 | |
過去完了形 | 完了相 | 過去時制 |
未来完了形 | 完了相 | 未来時制 |
未来形 | 単回遂行相 | 未来時制 |
状態相 | ||
進行相 |