ラテン語の反実法[接続法](Fictive Mood/Subjunctive Mood)の時制は一般に現在・未完了・現在完了・過去完了の4つがあると言われていますが、事実法[事実法](Factive Mood/Indicative Mood)のそれぞれの時制とは全く異なるものですので、同じ名称にすることは意味がないだけでなく、無用の混乱を生み出すもとになっています。特に間接話法における<時制の一致>(The consequence of the Tense/The correspondence of the Tense)というあやしげな説明を生み出す要因の1つになっているとも言えます。
反実法[接続法]の時制(Tense)
反実法[接続法]の時制は以下のように名称を変更すべきであると思います。
上記のうち、話し手が事実と<思っていない>度合いは、非現在よりも非過去のほうが大きくなります。また、同じ非現在や非過去の同士では、第1より第2のほうが、話し手が事実と<思っていない>度合いが大きくなります。したがって、事実と<思っていない>度合いは第1非現在が最も小さく、第2非過去が最も大きくなります。ただし、第2非現在と第1非過去を比較したときにどちらが事実と<思っていない>度合いが大きいかについては一概に言えません。反実法[接続法]のそれぞれの用法によって変わってきます。
上記の点から考えても、接続法の時制として従来のような現在・未完了・現在完了・過去完了という名称を使用するのは不適切であると思います。
反実法[接続法]の10の用法
反実法[接続法]の話法は以下のようにすべきであると思います。従来の「仮定法」は<非現実話法>だけに該当します。
目的を表す副詞節(Adverbial clauses of purpose)
目的を表すにはスピーヌムを使うこともありますが、特定の文脈でしか使われないので、それ以外は"ut"「~するように」やnē「~しないように」などの接続詞で始まる<目的を表す副詞節(Adverbial clauses of purpose)>で目的を表現します。この副詞節の中では接続法を使いますが、副詞節の中の動詞は現在または未来に関することを表現している場合は、反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、過去に関することを表現している場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。
結果を表す副詞節(Adverbial clauses of result)
"ut"で始まる副詞節には結果を表す場合があります。この副詞節の中では接続法を使いますが、副詞節の中の動詞は現在に関することを表現している場合は、反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、過去に関することを表現している場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]または反実法第1非過去[接続法現在完了]を使います。反実法第2非現在[接続法未完了]と反実法第1非過去[接続法現在完了]との区別はあまりありませんが、強いて挙げれば、反実法第2非現在[接続法未完了]は主節と従属節との間の論理的関係を強調するときに使い、反実法第1非過去[接続法現在完了]は実際に起きた結果を強調するときに使います。
理由を表す副詞節(Adverbial clauses of reason)
"cum"「~なので」で理由を表したり、「~だけれども」の意味で使われる場合(一般には"quamquam"や"quamvīs"を使います)に反実法[接続法]を使います。「~のとき」の意味で"cum"の後に来る定形動詞は、主節の定形動詞が一次時制か、二次時制かによって反実法での時制を変化させます。主節の定形動詞が一次時制(現在形・現在完了形[完了相現在時制]・未来形・未来完了形)の場合、cum節以下の定形動詞は主節の動詞と同時点を表す場合は反実法第1非現在[接続法現在]、主節の動詞より過去を表す場合には反実法第1非過去[接続法現在完了]を使います。また、主節の動詞が二次時制(未完了形・現在完了形[単回遂行相過去時制]・過去完了形)の場合、cum節以下の定形動詞は主節の動詞と同時点を表す場合は反実法第2非現在[接続法未完了]、主節の動詞より過去を表す場合には反実法第2非過去[接続法過去完了]を使います。主節の動詞が現在完了形の場合、一次時制の場合と二次時制の場合(「歴史的完了」と呼ぶことがあります)がありますので、注意が必要です。
願望話法(Wish Discourse)
<願望話法(Wish Discourse)>は、「将来発生する事象に対する希望」を表す場合は、反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、「現在発生している事象に対する希望」を表す場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。さらに、「過去に発生した事象に対する希望」を表す場合は、反実法第2非過去[接続法過去完了]を使います。
要求話法(Request Discourse)
<要求話法(Request Discourse)>は、反実法第1非現在[接続法現在]を使って、聞き手[情報受信者]に対する要求だけでなく、第三者に対する命令を表すことができます。命令法で表現できるのは、聞き手に対する要求だけですが、反実法[接続法]ではさらに広い範囲の表現が可能です。「~しましょう」という勧誘や奨励を意味する場合は、第1人称複数形を使います。また、通常の命令形と同じような内容であれば、第2人称単数形や複数形を使います。さらに第三者に対する命令や禁止を表すには、第3人称単数形や複数形を使います。
可能性を表す話法(Potential Discourse)
<可能性を表す話法(Potential Discourse)>は、起きる可能性のある(または起きる可能性のあった)行動や状態を表します。「現在や未来に起きる可能性のある行動や状態」を表す場合は、反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、「過去に起きる可能性のあった行動や状態」を表す場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。
熟考疑問を表す話法(Deliberative Discourse)
<熟考疑問を表す話法(Deliberative Discourse)>は、疑問文の中だけで使われ、「~するべきなのか?」とか「~すべきだったのか?」という意味を表します。「~するべきなのか?」を表すには反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、「~すべきだったのか?」を表す場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。
譲歩を表す話法(Concessive Discourse)
<譲歩を表す話法(Concessive Discourse)>は、「~ではあるが」とか「~であることは認めるが」という意味を表します。「~であるが、~であることは認めるが」を表すには反実法第1非現在[接続法現在]を使います。また、「~であったが、~であったことは認めるが」を表す場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。
非現実話法(Fictive Discourse)
<非現実話法(Fictive Discourse)>は、一般に非現実的な仮定を示す<条件節>と非現実的な結論を示す<帰結節>の2つで使われます。未来に起きうることに反する非現実的な仮定や非現実的な結論を表す場合は、反実法第1非現在[接続法現在]を使用し、現在の事実に反する非現実的な仮定や非現実的な結論を表す場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使用し、過去の事実に反する非現実的な仮定や非現実的な結論を表す場合は、反実法第2非過去[接続法過去完了]を使用します。
間接話法(Indirect Discourse)
ラテン語では、一般的な間接文は節(clause)を使用するのではなく、主題や補語を対格に、定形動詞を不定形(伝統的なラテン文法の説明では<不定法>といいます)にして、表現します。このとき不定形の相(Aspect)はそれぞれもともとの定形動詞の時制に合わせて以下のように変化します。もともとの定形動詞が現在形の場合は現在不定形に、もともとの定形動詞が未完了形や現在完了形の場合は完了不定形、もともとの定形動詞が未来形の場合は未来不定形にそれぞれ変化させます。また、目的語は多くの場合もともと対格ですので、主題や補語が変化した対格と区別しにくい場合があります。
これに対し、間接文が疑問文の場合は、反実法[接続法]を使います。不特定関係詞]を使った疑問文の場合は、そのまま不特定関係詞]で始まる間接文にし、一般疑問文の場合は、先頭の語に"-ne"を付けたり、"num"を先頭にした間接文にしたりします。
この場合の、間接文となる従属節の時制は、理由を表す副詞節(Adverbial clauses of reason)と同様に主節の定形動詞が一次時制か、二次時制かによって反実法での時制を変化させます。主節の定形動詞が一次時制(現在形・現在完了形[完了相現在時制]・未来形・未来完了形)の場合、従属節の定形動詞は主節の動詞と同時点を表す場合は反実法第1非現在[接続法現在]、主節の動詞より過去を表す場合には反実法第1非過去[接続法現在完了]、主節の動詞より未来を表す場合にはsumの反実法第1非現在[接続法現在]+未来分詞を使います。また、主節の動詞が二次時制(未完了形・現在完了形[単回遂行相過去時制]・過去完了形)の場合、従属節の定形動詞は主節の動詞と同時点を表す場合は反実法第2非現在[接続法未完了]、主節の動詞より過去を表す場合には反実法第2非過去[接続法過去完了]、主節の動詞より未来を表す場合にはsumの反実法第2非現在[接続法未完了]+未来分詞を使います。主節の動詞が現在完了形の場合、一次時制の場合と二次時制の場合(「歴史的完了」と呼ぶことがあります)がありますので、注意が必要です。
また、間接文が命令文の場合は、"ut"や"nē"で始まる反実法[接続法]を使います。間接命令文の定形動詞は反実法第1非現在[接続法現在]の使うのが一般的ですが、従属節の定形動詞が過去を表している場合は、反実法第2非現在[接続法未完了]を使います。
<間接話法>での反実法[接続法]は<表現対象を事実であるとも、事実でないとも表明しない>ことを表しています。定形動詞の階層構造には必ず<法(Mood)>が含まれますので、<反実法[接続法]>でなければ、(命令法もありますが、)一般には<事実法[直説法]>ということになってしまいます。このため、間接文の内容をもし仮に<事実法[直説法]>で表現した場合、<伝達されたものかどうかにかかわらず、話し手がその内容を事実であると思う>ということになってしまいます。言い換えれば、間接文の内容について話し手が責任を取らなければならなくなってしまうのです。こうした事態を避けるために間接文の内容は<反実法[接続法]>で表現することになります。
主節が1次時称の場合、つまり現在形・未来形・現在完了形[完了相現在時称]・未来完了形の場合に、主節と同時の場合は接続法第1非現在[現在形]、主節の時制より以前の場合には接続法第1非過去[現在完了形]、主節の時制より以後の場合は、未来分詞+sumの接続法第1非現在形[現在形]を使います。また、主節が2次時称、つまり未完了形・現在完了形[単回遂行相過去時制]・過去完了形の場合に、主節と同時の場合は接続法第2非現在[未完了形]、主節の時制より以前の場合には接続法第2非過去[過去完了形]、主節の時制より以後の場合は、未来分詞+sumの接続法第2非現在形[未完了形]を使います。
反実法[接続法]の話法と形式との対応
英語の反実法[接続法](Fictive Mood/Subjunctive Mood)の話法と形式との関係は以下のように整理することができます。
反実法[接続法]の話法 | 用法1 | 用法2 | 第1非現在 | 第1非過去 | 第2非現在 | 第2非過去 |
目的を表す副詞節 | 現在または未来に関すること | 〇 | ||||
過去に関すること | 〇 | |||||
結果を表す副詞節 | 現在に関すること | 〇 | ||||
過去に関すること | 〇 | 〇 | ||||
理由を表す副詞節 | 主節の定形動詞が一次時制 | 従属節の定形動詞が主節の動詞と同時点 | 〇 | |||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも過去 | 〇 | 主節の定形動詞が二次時制 | 従属節の定形動詞が主節の動詞と同時点 | 〇 | ||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも過去 | 〇 | |||||
願望話法 | 将来発生する事象に対する希望 | 〇 | ||||
現在発生している事象に対する希望 | 〇 | |||||
過去に発生した事象に対する希望 | 〇 | |||||
要求話法 | 聞き手や第三者に対する命令・勧誘など | 〇 | ||||
可能性を表す話法 | 現在や未来に起きる可能性のある行動や状態 | 〇 | ||||
過去に起きる可能性のあった行動や状態 | 〇 | |||||
熟考疑問を表す話法 | ~するべきなのか? | 〇 | ||||
~すべきだったのか? | 〇 | |||||
譲歩を表す話法 | ~ではあるが ~であることは認めるが |
〇 | ||||
~であったが ~であったことは認めるが |
〇 | |||||
非現実話法 | 未来に起きうることに反する非現実的な仮定や非現実的な結論 | 〇 | ||||
現在の事実に反する非現実的な仮定や非現実的な結論 | 〇 | |||||
過去の事実に反する非現実的な仮定や非現実的な結論 | 〇 | |||||
間接話法(間接疑問文) | 主節の定形動詞が一次時制 | 従属節の定形動詞が主節の動詞と同時点 | 〇 | |||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも過去 | 〇 | |||||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも未来 | sumの第1非現在+未来分詞 | |||||
主節の定形動詞が二次時制 | 従属節の定形動詞が主節の動詞と同時点 | 〇 | ||||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも過去 | 〇 | |||||
従属節の定形動詞が主節の動詞よりも未来 | sumの第2非現在+未来分詞 | |||||
間接話法(間接命令文) | 一般的な用法 | 〇 | ||||
従属節の定形動詞が過去を表している場合 | 〇 |