スピーカーの上手な鳴らし方 続き 4
タイムアライメント調整 概要 ホーンツイーターを使用する場合の必須調整項目
ここで言うタイムアライメント調整とは、信号の電気的遅延を行い、複数のスピーカーから聴取位置へ音が同時に到達するように行う調整です。1個のスピーカーや、ステレオ再生時の2個のスピーカーでは、問題とはなりません。2WAY、3WAY化して、高音質を狙うマルチウェイスピーカーシステムでタイムアライメントによる問題が生じます。位相の問題とも混同されるのですが、位相の場合は、180°~ -180°という角度が対象で、タイムアライメントでは、ミリセコンドあるいは、長さが対象です。それでは、タイムアライメント調整をしていないマルチウェイスピーカーシステムでは、どのような不都合が生じるのかを以下に説明します。
TOA 380-SE内部 上がホーンスコーカー、下がホーンツイーターで、ドライバの後ろの位置が違っています。このスピーカーで正弦波1個だけの5kHzトーンバースト波を鳴らしてみます。
細かい反射波の中で、2つの大きな波があります。左側がツイーターで、中央がスコーカーの音です。原音とは、波形的にも、時間的にも異なる音となり、音道が長いホーンスピーカーの泣き所です。このような場合、消える音や、より強調される音が有ったりします。
電気信号での音の変化は、電線内部では非常に速いので、問題にはなりませんが、空気の波としての音は、気温15℃の場合ですと、音の速度は、340m/秒であり、100Hzの低音では、1波長が3.4m、1kHzでは、34cm、10kHzでは、34mmという長さです。それ故に、音源の位置が異なるマルチウェイスピーカーシステムでは、問題となる音の領域が発生します。それでは、2つの波が2分の1波長ずれた場合、どのような事になるのでしょうか。
2分の1波長ずれた場合は、最初と最後の半サイクルだけは出力があり、その途中は、プラスマイナスで打ち消しあい、ゼロになります。理論ではこうなるのですが、実際は、理想的な正弦波がスピーカーから再生できないことや、壁からの反射で、少しは音のエネルギーが残ります。だからといって、音が聞こえているからと無視されても困りますので、そういう方は、同じマイクを2本持ち、片方を逆相接続して、自分の声をヘッドホンでモニターしてみてください。うまく距離を合わせると全く音が無くなってしまいます。これがキャンセリングです。このように、タイムアライメントが整合されていないスピーカーシステムでは、うまく音が聞こえない音域が存在します。
今、仮に、振動板のズレが34mmあるとしたら、キャンセリングは、波長34x2=68mmの5kHzという周波数で起きる事となります。もし、キャンセリングが、クロスオーバー周波数付近に該当した場合、2つのスピーカーから同時に音が出ているので、コムフィルタリングも発生しますので、もっと複雑にディップが発生します。とにかく、音の時間差を無くすか、一つのスピーカーで聞くしかなく、マルチウェイでは、音の時間差を無くすしかありません。
傾斜の緩いLCネットワークを使用した、マルチウェイスピーカーでは、キャンセリングや、コムフィルタリングで、相当に特徴的音色のスピーカーになると思います。ブランドが確率している高級スピーカーでは、そのような癖も好意的な評価を受けるようですが、ホーンスピーカーシステムを使用する限り、6dB/octネットワークは論外であることを肝に銘じておく必要があります。同じ音を複数のスピーカーで鳴らさない事が、原音再生への近道です。
ヒアリングでは、整合していないスピーカーでは、頭を動かすと、音がふわふわと揺れるような感じで、スピーカーに対し、前後に動くと、波のように音が変化します。タイムアライメント整合した音は、前後左右に動いても音の変化は僅かです。トライアングルなどの持続的高音では、ぎらぎらと聞こえていたのが、澄み切った音になり、その楽器が鳴っている時でも、他の楽器音がはっきりと聞こえ、解像度が向上する様子がわかります。
タイムアライメントを整合した4WAYマルチシステム
上図は、トップページと重複しますが、タイムアライメント調整説明図で、380-SE内蔵のツイーターではなく、SPキャビネット上に乗せたスーパーツイーターを使用し、スコーカーから出た音(マゼンタ色)とツイーターから出た音(青色)が、それぞれの中間の高さで一致するようにしています。完全な同軸配置が取れませんので、緑色の範囲で最適エリアが生成されます。最適エリアは、ツイーターの遅延時間を微妙に調整すると、上下に動かす事も可能です。短いと上に、長いと下に移動します。
調整は、スコーカーの振動板が、リスニングポイントから遠くに有るので、一番遅く音が到達します。従って、スコーカーを基準にして遅延時間ゼロとし、リスナーに近くて音が早く到着するツイーターとウーハーに遅延をかけるようにします。DCX2496は、3WAY用で、そのままでは、4WAYシステムには使用できませんので、信号遅延が起きないアナログチャンネルデバイダで、LOW成分をさらに分割しています。もしも、LOW成分の分割にデジタル機を使用すると、デジタル機自体の余計な遅延が有り、各レンジ間の調整が用をなさなくなります。デジタル機では、必ず音が遅れますが、信号がリアルタイムなのは、アナログ機使用の最大メリットで、これをうまく利用して4WAY化しました。
遅延設定できないアナログチャンネルデバイダでは、15インチと18インチスピーカーは、4~10kHzトーンバースト波を鳴らして、同じ時間に音がくるように前後位置を調整しておきます(低音は波長が長いので、それほどシビアではありませんが)。実験では、厳密さを考え、全スピーカーのタイムアライメントの整合を行ったのですが、波長を考えれば、低い周波数では、それほど整合のメリットはありません。
シビアな設定が要求されるツイーター
低音では、厳密さは無いのですが、ツイーターでは、タイムアライメント整合の影響がモロに出ます。例えば、10kHz(波長34mm)でMFとHFがクロスする場合、17mm狂えば、キャンセルにより10kHzが弱くなってしまいます。
よく失敗するのが、コンデンサ1個でスーパーツイーターを増設する場合です。フィルターが甘いので、干渉する範囲が広くなり、より厳密なタイムアライメント調整が必要となります。タイムアライメントを無視した場合、元から有った高音と、増設したスーパーツイーターの高音が干渉して、複雑にピーク、ディップが生じ、結果として、高音域の雑音を際だたせてしまいます。リボンツイーターなどで、100kHzの音を狙っても、高いクロスオーバー周波数と、甘いフィルターでは、雑音を増やしているのと同じです。この事をよく考慮せず、安物だとか、材質のせいにし、音が悪いと信じてしまうユーザーが多いのに驚かされます。無謀な増設こそが失敗の原因です。音の元は、空気なので、タダであり、スピーカーの金額で、空気が変わる筈もありません。コンデンサの材質でも、そんなコロコロと音が変わることは有りません。マルチアンプで駆動しないと、ツイーターの正しい評価はできませんので、より高額なスピーカーに目をつける前に、アナログチャンネルデバイダーと、中古アンプを買い込み、正しくセッティングしてやれば、目の醒めるような美しい高音が味わえます。高級アッテネーターと、高級フィルムコンデンサの金額で、十分にマルチアンプ化予算がまかなえます。システムでは、安価な、FOSTEX T90Aを使用しました。
調整イメージ
ホーンスピーカーを使用して、タイムアライメントを整合するということは、例えば、赤緑青より白色を作る作業をイメージすると、大きく広がった赤色(ウーハ)に、それよりも狭い緑(スコーカー)を加え、最後は青(ツイーター)のスポットで白色ゾーン(リスニング最適エリア)を作り、大抵は独りしかいないリスナーがそこで聴くという考え方です。大型ヘッドホンを空間に構築すると表現しても良いでしょう。壁反射が少ないホーンスピーカーなので、録音に大きく依存した音が鑑賞できます。
白色域が、バランスしたリスニング最適エリアとなります。
WaveGeneによるトーンバースト波を使用したタイムアライメント調整
発振器ソフト WaveGene efuさん作
測定で使用するトーンバースト波は、普通の低周波発振器では出力できませんが、WaveGeneというフリーソフトを使用すれば、簡単にPCからUSBオーディオキャプチャを経由して出力することができます。
Wave1で、サイン波を選択し、周波数は、選択で指定するか、直接に数字を入力して行います。レベル指定も同じやり方です。Wave2と3は、使用しないので、出力chはOFFにしておきます。Wave1 出力chは、LR同時出しで、L+R ゲートの指定は、正弦波1つだけの場合は、1を指定します。2にすれば2つの正弦波が出ます。波と波の間隔は、100を指定していますが、MidとHighはこのくらい離れてないと、別の時間の波と区別がつきません。別の使い方として、Wave2のゲートにチェックを入れ、L+R出力を指定しすると、Wave1が、ONの間だけ、Wave2で指定した信号が出せますので、Wave1で500Hz、Wave2で5kHzなどとすれば、500Hz1波の間に、5kHzが10波あるような信号が作れ、2WAYシステムの性能テストに役立ちます。
5310Hz 1波 トーンバースト 間隔100 MIDとHIGHの調整で使用したファイルをFFT解析したものですが、かなりの周波数成分が含まれていることが判ります。それ故に、きれいなトーンバースト波が観測されたら、その周波数前後でも、特性が良好であるという証明にもなります。
測定システム
測定用マイクは、コンデンサマイクを使用します。感度の低いダイナミックマイクは、こういった測定には不向きです。ミキサーは、ファンタム電源を供給して、コンデンサマイクを動作させるのに必要です。01V96V2は、手持ちの関係で使用しました。マイクスタンドは、ショートブームタイプ K&M 25900(\4,800)を使用しました。測定時のマイクの高さは、ツィーターの高さです。
遅延掃引付きオシロスコープ
USBインターフェースUA-5の出力のうち片方は、オシロスコープでの同期用として使用します。A TRIGGER SOURCE CH-2 MODE AUTOとして、CH-2で、UA-5の出力波形が安定するように、トリガーレベルを調整します。そうして、CH-1にミキサーからのマイク出力を入れると、安定した波形が出ます。ただし、100波分も波の間隔をとりますと、目的の波が小さすぎて充分な観測ができません。そこで、H DISPLAY B掃引モード、ポテンショメーター(DELAY TIME MULT)を回して、後ろ(右)の方にある目的の波を表示させます。こうすることで、小さかった波も大きく表示して、タイムアライメント調整が容易にできます。COUPLING HF-REJとすると、トリガが安定してかかる場合もあります。
下は、PCから設定できるリモートソフトのShort Delay設定画面です。Optionから時間と長さの設定単位が選択できます。現在長さmmとなっています。
なお、電気的な遅延設定で、合わない場合は、スピーカーその物を前後に動かすのも一考です。特にクロスオーバーを10kHz以上にした場合など機械的な調整も併用します。10kHzの場合1周期が、100μsecとなり、20μsec単位のチャンネルデバイダーでは、5コマしかありませんので、最良点を電気的な遅延で、合わせる事は、不可能に近いでしょう。20コマぐらいあれば、十分に最良点を得られると思います。20μsec機が、20コマ調整となる周波数は、2500Hz以下となり、10kHzを調整するには、5μsec機が必要となります。
1.MIDとHIGH間のタイムアライメント調整 マイクが捉えた音の波形 6030Hz 1波トーンバーストで、間隔は、24波分の実際の波形です。
MID HIGHをそれぞれ単独鳴らし 左 MIDだけ鳴らした場合と 右 HIGHだけ鳴らした場合です。
左が適正値から20mm短く設定した場合で、右が20mm長くした場合です。僅か2cmでも、原波形と全く異なっています。
左 適正値 (266mm) 右 逆相
上の適正値では、きれいなトーンバースト波となっています。この値でも、信号を逆相にすると右の波形となります。この値から、20mmほど前後に動かしてみると、トーンバースト波は再現できなくなってしまいます。クロスオーバー周波数で設定を行うのは、MIDもHIGHも同じレベルで鳴るからです。適正値になっている場合、周波数を上下してみても、きれいな波形が連続して観測できます。僅か2cmの違いで、波形的には、見る影も無くなってしまいます。音としては、少し違っていても、聞こえているのすが、波形では一目瞭然です。又、測定マイクを前後左右に動かして、波形崩れの有無を調べるのも、良い確認法で、整合している場合は、同じ波形が観測でき、狂っていれば、場所により、波形が変化します。これが理解できると、スロープの甘いフィルターが使えなくなりますし、へたなマルチウェイよりも、フルレンジスピーカーの方がましな音が出るということが理解できるようになります。
2.LOWとMID間のタイムアライメント調整
MIDとHIGH間のタイムアライメント調整は、クロスオーバー周波数における、1波トーンバーストで調整できましたが、LOWとMID間において、同じ考えでは、波形が部屋の定常波により崩れやすく、観測が非常に難しくなります。最初は、それでも我慢して調整を行っていたのですが、あまりにも不正確でした。そこで、LOWのローパスフィルターを一時的にOFFにして、ウーハーからの5kHzのトーンバースト波と、MIDのトーンバースト波で調整する方法を行っていましたが、フィルターでの遅延が有り、調整後にフィルターを設定した時点で、ウーハーの音が遅れてしまい、どうも間違いのようでした。そこで、ウーハー領域の400Hz辺りのトーンバースト波でも、立ち上がりや、波が消える点、いわゆる不連続な所では、高い周波数成分が発生する事に着目しました。調整の概念は、ウーハー領域のトーンバースト波1波分が、ツイーターから出る、波形前後のチッチといってる音の間に来るように、ウーハーの到達時間を調整するということです。もしも、基本波の波形崩れが観測に耐えない場合は、ゲートを2にして、2波分で調整する方法もあります。2波分の場合、ツイーターの音は、2波分の始めと終わりで音が出ます。
400HzTB波のツイーター出力
UA-5のアナログ出力と、チャンネルデバイダー通過後のツイーターの音を表示しています。オシロスコープの掃引時間は、2msec/cmですので、音が消えてからの時間差は、10.4msecとなり、距離にして、3.54m(15℃)という観測結果となりました。実際の距離は2.5mほどで、約1mほど結果が異なりますが、それが、デジタル機内部での遅延で、レイテンシイと呼ばれるものです。下は、ウーハーからの音です。400Hzでは、反射波との干渉で、波形が崩れますので、周波数を波形が見やすい590Hzに変更しました。目盛り中央から始まり、1cmあたりで終わってしまうのですが、後方にまだ同じような波形が見えます。これが、反射波の正体で、原音に複雑に混じり合います。閉空間ならではの現象であり、無響室や、屋外でないと回避できません。
590Hzウーハーの音(ほぼ1cmぐらいの範囲が本来の音)
590HZの音は、スコーカーからもよく聞こえますので、スコーカーだけの音を拾ってみました。
590Hzスコーカーの音 原音より波の数が増えます
波の数が増えているのは、このページ始めのツイーターの波形と同じで、ハイパスフィルターを通過するとこのようになります。
下が、590Hzと2kHzをミックスした場合のスコーカーの音で、1cmあたり、約4個の正弦波が確認できます。相変わらず、後方に反射音が続いているのが、よくわかります。
590Hz+2kHzスコーカーの音
次は、590Hzと12.5kHzをミックス(一番上の左側)して、ツイーターだけを鳴らしました。中央の波形がそれですが、音が出た瞬間は、振幅が定常状態になっていない事がわかります。下は、拡大掃引での波形で21波ぐらいが、実際の音です。
590Hzの1周期は、1.695msecであり、その間に12500Hz(0.00008msec周期)は、21.12個というのが、計算結果で、実際の観測と同じです。
以上のオシロスコープによる観測で、L M H すべてのスピーカーの音の出始めが、目盛りの中央であることが確認でき、これでタイミングの一致を証明できました。
遅延時間データは、L が30mm M 0mm H 268mmとなりました。DCX2496には、オートアライン(AUTO-ALIGN)機能があり、各チャンネルから、測定音を出して、遅延時間を自動で設定する事ができます。この方法で有られた、設定値は、L 4mm M 0mm H 220mmでした。購入直後にこの機能をテストした時、スコーカー、ツイーター間が手動計測と大きく異なっており、今まで使用していませんでしたが、ライブ会場設営時の調整などで時間が限られる場合、オートアラインによる設定でも、実用上差し支えないと思います。ただし、固定設備では、手動計測は必須です。
結果で意外だったのは、ウーハーの遅延時間で、実際の振動板の距離と比較して遙かに短い遅延でした。
別のマルチチャンネルシステム LF DIATONE DS-700Z 27cmコーン密閉式 MF JBL 2445J+2380A HF FOSTEX
T90Aでは、LF 78mm MF 0mm HF 362mmとなりました。
山の数を読む調整が意味するもの
この調整の目的は、シンバルのリアルな響きの為です。良い音の代名詞として、JBLの金物の音という言われ方があります。リアルで分厚い音ですが、そのような音が、他のスピーカーで実現できるかどうかは、この調整にかかってきます。シンバルといえば、非常に高い周波数をイメージし、その為に、ツイーターを増設すると言っても過言ではないでしょう。しかし、ツイーターでは、そのような音は出ません。ほとんどノイズのような、シーという音しか聞こえません。ではその音はどこから出るのかですが、FFTでは、800Hzあたりが基本波です。基本の800Hzと、楽器らしさを伝える高い周波数成分を時間的に融合させる為に、位相という屁理屈よりも、実際に音を見て、確認しようとするのが、上での調整です。ツイーターらしさを強調する為に、8kHzが持ち上がったホーンスピーカーをよく見かけますが、JBLらしく鳴るのは、わかりますが、JBLを越えるサウンドにはなりません。
調整用3周波数合成のトーンバースト波のFFT実例 400Hz+2kHz+10kHz
WaveGene実際の設定
最新のWaveGeneにて、調整用信号を作ります。Wave1において、ゲートが設定されていますので、400Hzの一周期2.5msecだけゲートが開き、Wave2,3のゲートをチェックすると、2kHzなら5波、10kHzなら、25波が出力できます。一時的にあるWaveだけOFFにできますので、400HzをOFFにすると、先ほどの2.5msecだけの間、2kHzや、10kHzを出力できます。各レベルは、合成で波高が上がりますので、-10dBにしておけば良いでしょう。
3.15インチウーハー(LF)と18インチウーハー(SLF)間のタイムアライメント調整方法(機械的な位置調整)
4kHz~5kHzのトーンバースト波を同時に鳴らし、リスニングポイントで波形が最大になるようにします。
SPF材の上に設置した18インチウーハーを前後にスライドして、波形が最大になる所で、固定します。
CP18SNの後部に角材を当て、SPF材の上と、スピーカーBOXに木ねじで固定し、耐震補強も兼ねます。
リンクウィッツ-ライリーフィルター(L-R 24)
一般のオーディオマニアは、バタワース特性は馴染みがあってもリンクウィッツ-ライリーは馴染みが少ないと思いますが、リンクウィッツ-ライリーフィルターは、EV社チャンデバDX38にもプロオーディオの定番という記述があり、プロオーディオでは一般的なフィルターです。英語の堪能な方は、RaneNoteを参照すると、バタワースのようにピーク軸を作らないこのフィルタが、プロオーディオの定番という意味が理解できると思います。4次フィルターは、位相問題にうるさい方には、敬遠されがちですが、ホーンSP駆動では、このくらいのスロープ特性があると推奨帯域外の歪んだ音が聞こえなくなりますのでお薦めです。(スピーカーの極性は、24dB/octの場合、全て正相で接続します。クロスポイントは-6dBです。)
周波数特性調整(チャンネルバランス調整)
以上のタイムアライメント調整は、ここまで来れば完了です。その後で、オシロスコープで観測していた、マイクアンプ出力に交流電圧計を接続し、周波数特性の調整を行います。各スピーカーのレベル調整は、トップページにあるFM変調正弦波を使用すると正確に測定ができます。広い1オクターブ幅信号であっても、部屋の定常波の影響がありますので、極端にフラットな調整に追い込む事は、あまり得策では無いようです。それでも、0.1dB単位の精密な調整値が確認できますので、アマチュアには、心強い測定方法の筈です。もしも、強い高音に馴染めない方は、20kHzまでをフラットにしないで、ダラ下がりな調整値にされると結果が良いかもしれません。パワーアンプ左右の利得偏差は、普通0.1dB~0.5dBぐらいありますので、予めアンプ出力電圧を測定しておき、利得偏差分の補正をした状態で、周波数特性の調整を行います。
以上の調整は、タイムアライメントの調整には影響しませんので、周波数特性調整後に再びタイムアラメント調整をする必要はありません。
最近の2WAYスピーカーのトーンバースト特性
写真は 12cmコーン型+円形90°WGホーン RAMSA WS-N20 8Ω 120W 86dB/W クロスオーバー5kHzです。
オーディオ用SPでは、ツイーターは、バッフル面に取り付けられ製品が多いのですが、RAMSAのみならずTOA、YAMAHA等のプロ音響用SPでは、タイムアライメントを意識してか、ツイーター振動板を後方にずらした物が多くなっています。
手持ちの2WAYスピーカーの波形
5kHz 8kHz Pioneer S-UK3
5kHz 8kHz ONKYO D-N7
5kHz 8kHz DENON USC-M10E
5kHz 8kHz ONKYO MS-500
5kHz 8kHz SONY SS-CF3MDS
業務用2WAYスピーカー
5kHz 8kHz
RAMSA WS-N20 12cm+ドーム 2WAY 120W
5kHz 8kHz
RAMSA WS-N40 20cm+ドーム 2WAY 160W
5kHz 8kHz
TOA F-240G 16cm+3cmドーム 2AWY 150W
以下は、手持ちで、トーンバースト特性が良かったスピーカーです。
5kHz 8kHz
AR SRT170 オールコーン2WAY 同じタイプの大小の2WAYは、マッチングが良いようです。
5kHz 8kHz
TOA F-160G 13cm+3cmドーム 2WAY ツイーターが、後方にかなり下がっており、2WAYでは、かなり良好です。
5kHz 8kHz
TOA F-150G フルレンジ 時間的な破綻が無いのですが、後方の波が大きめです。
コーン型スピーカー同士の2WAYはかなり良いのですが、音がなくなっても、すぐに収束しません。フルレンジも同様に収束が悪いのがよくわかります。
この測定で気付いたのは、広い指向性の、ドーム型の2WAYスピーカーでも、トーンバースト特性が良いエリアは、決して広く無いことです。へたをすれば、ホーン型よりも、良好なエリアが少ない機種もあります。
リボンツイーター(プラナーツイーター)も、位相特性や、広い周波数特性が重宝されていますが、原理上、垂直方向には、最適エリアが狭いはずですが、ネット上では、まだそこまで踏み込んだ記述はありません。
USA Dayton Audio社のWEBサイトには、以下の記述があります。
• Wide
horizontal and narrow vertical dispersion patterns
• Perfect for use in line
arrays
メーカーサイトでは、指向性について、水平に広く、垂直に狭いとあり、ラインアレースピーカーでの使用に最適とあり、思ったとおりの記述ですが、アマチュアサイトでは、20kHz超の再生帯域に関する事が多くなっています。
実際のラインアレースピーカーのHF用は、圧倒的にコンプレッションドライバが多く使用されており、リボンツイーターは少数派のようです。
気温でも変化する最適タイムアライメント値
このように整合させたタイムアライメントでも、気温による音速変化の影響があります。気温変化が大きい屋外設備などでは、固定した遅延時間では使用できず、気温により、ベストマッチングさせる必要があります。もちろん室内でも、空調制御して、一定の室温で動作させた方が安定します。それでは、気温変化でどのような影響をうけるのかと言いますと、遅延時間のズレが、再生する周波数の半波長になると、複数のスピーカー間でのキャンセリングで、最も音圧が減少します。一例として、気温が0℃~30℃に変化した場合、10.8kHzにおいて、キャンセリングが最も強くなります。温度変化の中心15℃で調整すれば、20kHz以下の帯域では、キャンセリングが起きない事となりますが、高い周波数ほど、波形の劣化は起きます。この為、指向制御の甘いスピーカーの並列運転は注意が必要です。温度変化の激しい屋外では、ディレイに、外部温度センサーを取付て、遅延時間を自動制御するか、気温に応じてその都度手動設定しなければ、ベスト状態にはなりません。振動板の位置が、等しいマルチWAYスピーカーを使用すれば、この問題が起きないのは、言うまでもありませんが、ホーン型システムでは無理な注文でしょう。
タイムアライメント調整は、マルチスピーカーには、必須で、これが調整されてから、初めてスピーカーの音質を論じなければならないでしょう。それほどに劇的な音質変化を起こします。タイムアライメント調整を可能にするには、ショートディレイを内蔵した、デジタルチャンネルデバイダーで、マルチ駆動しなければ、スピーカー毎にディレイをかけることができません。デジタル機器の最大の恩恵として、今後、関係者の間から認識が広がる事は間違い無いと思います。当然ですが、CX3400はディレイがLOWしか設定できませんので、バイアンプ接続までです。
タイムアライメント調整により、振幅が増えますので、これにより、測定音圧値よりも、音が大きく感じられるようになります。又、当然立ち上がりも良くなりますので、打楽器の音の出る瞬間もよく聞こえ、しかも、余韻もしっかり残ります。音の強弱は、クラシックの生演奏を良く聴かれる方ならご存知のように、演奏の重要な構成要素なのですが、これもよく再現できるようになります。何と言っても、古い録音が、新鮮に聞こえてくるという不思議な体験もできます。
もうひとつのタイムアライメント
これは、スピーカーの設置場所までの距離差による、音波到達時間のズレなのですが、DCX2496では、これをロングディレイとして設定するようになっています。
つまり、ショートディレイ スピーカーユニット間の前後の食い違いを補正 mm単位
ロングディレイ スピーカー相互の設置場所により生ずる時間差を補正(サラウンドシステムや、カーオーディオ等) cm単位で200mまで
ロングディレイ設定において、便利な道具として、ホームセンターで販売されている測定器を紹介しておきます。メジャーで測れない場所で威力を発揮します。Y社講習会で、サラウンド設定の便利用品として紹介され、使用しています。0.1メートル単位で設定を行うAVアンプには充分な性能です。
サラウンドのタイムアライメントについては、スピーカー配置が詳細に規定されるなど、相当に奥が深いので、YAMAHAのプロオーディオ機器ダウンロード技術解説より、マルチチャンネルモニタリングチュートリアルブックレットを参照されると良いでしょう。
推奨ディレイピッチは、0.025msec以下が望ましいとか、コムフィルタリング解説とか、参考になることが一杯のっています。この本は、サラウンドバイブルとして関係者の間で知られています。一例として、0.04msecの再生ズレが12.5kHz帯のディップになるそうで、そのディップを20kHz以上の周波数にシフトするようにチャンネル間のディレイを調整するように述べられています。L-Acoustics SOUNDVISIONのマニュアルにも、コムフィルタリングが詳しく解説されています。こちらもL-Acoustics社ウェブサイトからダウンロード可能です。
スピーカーの上手な鳴らし方 結論
1.タイムアライメント問題の無いフルレンジスピーカーを使用するか、マルチウエイSPの振動板の位置を合わせる。
2.ホーン使用マルチウェイスピーカーは、タイムアライメント調整ができるようにマルチアンプ駆動。(1台のアンプでは、1つの時間軸でしか出力できないから)
3.マルチ駆動用アンプは、古くても良いが残留雑音(SN比110dB以上推奨)に注意。
4.大切なスピーカーを壊さないように、遅延タイプの電源ディストリビュータを使用。(マルチ駆動時は、SP過大入力による断線事故が多くなります。)
5.当然ですが、スピーカーとアンプ間にアッテネータなどの無用な抵抗を入れないこと。アンプ直結で、アンプ制動能力をフルに発揮。
6.マルチ駆動のレベル調整用音源は、ピンクノイズより、ワーブルトーンを推奨。 1オクターブ幅ワーブルトーンの作り方 を参照してください。
最初のリビング用 3WAY+1システム
もう1システムをリビング用として構築してみました。最初は、簡単なシステムとしたかったので、廉価版アナログ式チャンネルデバイダCX3400を使用してみました。CX3400は、3WAY用で、LOWだけに遅延がかけられます。可変幅は、2msecですので、気温15℃では、68cmまで対応します。中音ホーンは、ONKYO HM-450Aという拡散ホーンを使用しました。カットオフは450Hzですが、奥行きが短く小型です。CX3400ではM,Hに遅延がかけられないので、ホーン同士の振動板位置合わせをすると、図のようにかなり後方に下がります。テクニクスのリニアフェイズスピーカーと良く似た配置です。高音ホーンは、反射による干渉を防ぐ為と、指向角を考慮して、上にずらして置いています。下のスピーカーは、AR(アコースティックリサーチ) SRT170 16cmウーハ+コーン型ツイーターによる2WAYですが、改造して、ウーハだけに接続してあります。このSRT170は、1kHz付近まで特に荒れる所もなく、極めて平坦な特性なので使用しました。高音は、FOSTEX T90Aで、一度ダイヤフラムを飛ばした時に、修理期間用として、2本買い増した物です。構造はホームセンターで入手できる板厚18mmのホワイトパイン集成材を使用し、中音ホーンは、5mm厚の鉄製アングルと、2mm厚のLアングルで固定し、ドライバ部は、18mmの角材で支えています。RAMSA WS-9000やアルティックA7と比較しても、それより強固に取り付けています。アンプは、低音に、SANSUI AU-α607XR、中音、高音はYAMAHA MX-55 4ch駆動を使用しました。
ステレオ定位感は、スピーカー正面からみた音の中心軸は、確かに縦一直線なのですが、高音ホーンが後ろへ下がった分だけリスニングポイントから見たスピーカーの位置が、斜めとなり、定位感を損ねています。これを改善するには、中音と高音のホーン開口が同一面となるように、遅延をかけて使用するしかないでしょう。
LF用で使用したAR(アコースティックリサーチ)SRT170(16cmウーハ)では、100Hz以下が不足しますので、SONYのMFB方式30cmウーハ SA-WX90
を追加して2-1ステレオシステムとしました。スピーカーだけのスペースが取れないリビングでは、大きな18インチサブロースピーカーを2本も設置できませんので、5.1サラウンドのように、1本のサブウーハで済ますことにしました。これにより、リビングの液晶TVを含めてシアター化しました。AVアンプは、ソースの切換、ボリューム調整、サブウーハ出力の取り出しで使用しました。ホーンスピーカーならではの、明瞭な音と、ダイナミックスで、TVのスピーカーとは比較にならない高音質となり、家族の支持も得ました。SA-WX90は、近所のリサイクルショップで2010年12月9日\9,900で購入した物です。
MFB方式サブウーハ SONY SA-WX90 音圧特性
周波数を可変しているのか、ボリュームを変えているのか、よく判らない特性で、スピーカーに頼らず、外部の機器でフィルターをかけた方が良いでしょう。
DENON AVアンプ AVC-1620 周波数特性
AVアンプの周波数特性です。サブウーハ出力のフィルター傾斜は18dB/octなので、たぶん肩特性の一番良いバタワース特性と思われます。クロスオーバー周波数を切り替えて2回測定しています。センターチャンネルは、音声帯域用の12dB/octフィルターがかけられています。レベルは、-10dBという設定値を使用していますので、設定通りの出力であることがわかります。サブウーハーモードは、LFE+Mainの設定にしますと、2+1ステレオとして使用できます。AVアンプのサブウーハー出力クロスオーバー周波数は、40/60/80/100/120/150/200/250Hzから選択できます。現在は120Hzにて使用しています。なおメインチャンネルは、フラットで出力されていますので、サブウーハーの周波数設定による再生帯域変化はありません。フィルター傾斜値は、カタログや取扱説明書には、記載されていませんので、この実測結果を参考にしてください。
第2期のリビング用 3WAY+1システム
JBL2425J+2370A、DIATONE DS-700Z、DCX2496を加えてグレードアップしてみました。
上から レコードプレーヤーSL-6+P24C(楕円針換装) ビクター FM,MD,CDコンポ その下 6連デジタル制御ボリューム アナログチャンデバ CX3400 デジタルパッチベイ SRC2496 デジタルチャンデバ DCX2496 赤外線リモコン制御に改造した電源分配器PD-15です。その下は、低音用アンプ AU-α607XR 中音用アンプ AU-α607XR 高音用アンプ AU-α607MRです。他にAVアンプ DENON AVC-1620経由で、DVD-VHSプレーヤー、TV音声を、AU-α607XRのプリアンプ部LINEに入力しています。AU-α607XRのプリアンプ出力は、SRC2496で、アナログ入力を96kHz24ビットに変換後、DCX2496に入力しています。
初期のシステムと比較し、ホーンの開口部を揃えた事で、定位感が格段に向上しました。ONKYOのHM-450Aでは、中央のフィンにより、ツイーターとの合成音が、上下で異なり、不連続感があったのですが、フィンの無いJBLのホーンでは、その感じがなくなりました。あとは、密閉型のDS-700Zをフロアより上げて使用しているので、100Hzあたりの音圧が低下しているという不満だけとなりました。
現在のリビング用 3WAY+1システム
平成24年8月31日(最新) MIDを2インチスロートタイプJBL2445J+2380Aに交換、クロスオーバー周波数は、607Hz及び5080Hzとしました。2380Aホーンは、平らでなく、微妙に歪んでいるので、2mm厚のゴムシートを挟んで、5mm皿タッピングビスで、30mm
x 40mmの角材に取り付けています。2445Jは、角材に載せただけで、固定はしていません。巨大なフェライトマグネットは、ゴムのカバーがされていますので、変な共振音は出ていません。ツイータを下にしたのは、定位する高さが、ツイータの高さに来るからです。木材は、カット料金を含めても1000円でおつりがきました。木工用速乾ボンドと、木ねじで、組み立てています。文字どおり、シアターサウンドまでエスカレートしてしまいました。
DS-700Zオリジナルユニット同士のタイムアライメントは、ウーハーが最深部に有ることで、これが遅延ゼロの基準となり、スコーカーとツイーターに遅延をかけます。現在は上図のように設定しています。
JBL2445J+2380Aの組み合わせでは、重心が2445Jのマグネット部に有り、不用意な配置をすると、後ろにひっくり返る可能性があります。SPF材の横に当てた板は、地震時の横揺れを防止する目的で取付けました。格好悪いので、ベルト固定を考えています。このシステムの遅延設定は、LF
78mm MF 0mm HF 362mmとしています。
余談:フォステクス スーパーツイーターT90Aで20kHzまでフラットに
オーディオマニアがより繊細な音を求めて最初に改良したいと思うのは、ツイーターではないでしょうか。よりフラットで、可聴帯域外まで素直に伸びる周波数特性をイメージする場合、100kHzまで再生できるリボンツイーターなどに一度は憧れるのではないでしょうか。ご多分に漏れず、私の場合も、クリアな高音が出だしたところで、更に欲張り、オリジナルのホーンツイーターの再生特性が気になるようになりました。380-SEオリジナルのアルニコ磁石ホーンツイーターHT-371B-8を7970Hzクロスオーバーで駆動した時の音圧特性ですが、12kHz以上で減衰が大きくなっています。本当のところは、16kHzまで充分に再生できていますので、犬に命令する訳でもないので、音楽用途にはこれでも良いのですが、やはり20kHzまでフラットが願望として頭をもたげてきます。
HT-371B-8
そんな訳で、20kHzまでのフラット再生を目指し、価格的には2本で3万円ぐらいを目標とし、ツィータを探す事としました。Beyma(ベイマ) CP21/FがJBL2405似ということで、筆頭候補でしたが、アルミ1.5インチダイヤフラムという内容が、ミッドホーンのダイヤフラムと寸法における差が少ないという理由で見送りました。最終的に選択したのは、FOSTEX
T90Aというスーパーツイーターです。リングダイヤフラムが、超高域でのピストンモーションを可能にしたとの解説に惹かれての選択です。周波数特性 5kHz~35kHz
音圧 106dB/W 入力 50W 重量 800g という物で、クロスオーバー4.98kHzをL-R24フィルタで使用しています。アルミ削り出し円形ホーンで、中央にロケットのようなイコライザがあります。業界用語では、ミサイルと呼ぶそうですが、ミサイル同様、音が良く飛ぶそうです。小型スピーカーの高音部では、ドーム型が全盛なのですが、無駄な室内反射を減らして、録音ソースの音をクリアに聞こうとするなら、ホーン型は最適です。他社のホーンSPなどに対し、批判的に中央部の音がビーミーであるという表現が散見しますが、それは、タイムアライメントが合っていない状態での評価でしょう。
100円ショップで購入した車用の滑り止めシートを下敷きにしています。EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)製で、車内の小物がすべらないというふれ込みで100円ショップで販売されています。今までは、ケーブルに引っ張られてツイーターが後退して行ったのですが、この発泡ゴムシートで位置が安定しました。位置決めは、1波トーンバースト信号をスピーカーから出し、その前方2mぐらいのマイク(ECM8000)出力波形をオシロで観測して行いました。音圧特性は、期待どおりに、20kHzまで延ばす事ができました。2kHz以下は、自動車の走行音で測定中に3台ほど通過していきました。(なんせウサギ小屋なもんで) 平成21年3月13日測定
位相特性
T90A単体による位相特性(低域カット用 4.7μFコンデンサ接続)
DCカットコンデンサ
マルチアンプ駆動をする場合、コンデンサは使用しません。位相特性の測定だけコンデンサを使用したのは、スーパーツイーターの一般的な使用方法に準拠した為です。もちろんコンデンサが入れば、位相特性は、低域で減衰するに従い、90°ズレて行きます。コンデンサ無しでは、アンプからの直流による破損が想定され、とても危険なのですが、正しく接続されていれば、破損しません。4個あるT90Aは、今も健在です。1台だけ修理したのは、アンプ通電状態で、ピンプラグを接続した過大入力が原因です。アンプのDCオフセットが調整ズレで大きくなっていれば、アンプ通電時、パチッと雑音が出て、それで判断できます。同様に、スコーカーもコンデンサ無しで接続します。こうすることで、広い帯域で、正しく音が並ぶ筈で、アンプのNFBも有効に作用し、正しい波形で駆動されます。この結果、シンバルのような高い音と思われる楽器でも、基音である800Hzあたりの中音と、スティックが触れた瞬間の音が時間的にマッチングし、リアルさを増します。
4WAYシステム中での位相特性
高域の位相が微妙に違いますが、遅延時間の誤差によりこうなっており、少しツイータの位置を動かせば同一になります。ということは、やはりmm単位の調整が必要です。
Beyma CP22をシステムでテストする
当初、JBL2405似のBeyma CP21/Fを検討した事もあり、その流れで、気になっていたので、40°コニカルホーンのCP22を購入して、テストを行う事にしました。アルミ1.5インチダイヤフラムという仕様です。
FOSTEX T90Aよりも、少し開いた感じのホーンです。普段は88mmの隙間を、140mmに拡張して設置してみました。
トーンバースト波形で、T90Aと比べると、後ろに大きな山が2つあります。
CP22 T90A
後ろの波が多いのは、オーディオ系スピーカーの特徴であり、CP22は、こちらの方に属するようです。T90Aはそれよりも、トーンバーストの収束が速くなっています。T90Aは、。2つの波形から比較すると、CP22は、分厚い高音で、T90Aは線が細いという、聴感評価になろうかと思います。特に一般ユーザーでは、タイムアライメント整合が取れていなかったり、傾斜の緩いパッシブフィルターなので、複雑な音が聞こえます。価格が安く小型であっても、トーンバーストの収束が良いT90Aが、金物の音色の違いをよく表現してくれます。
位相歪みより時間歪み
位相歪という概念は、多くの方から述べられており、アンプやフィルターに関してその解説も多く有り、一般の認識は高いと思いますが、本章で述べた時間からのアプローチはまだまだマイナーです。時間歪みが存在すれば、位相歪みなどは、問題外と捉えるべきで、2つ以上のスピーカーから到達する時間が整合して、はじめて位相の事を考えるのが本筋だと思います。例えば、1msecの音のズレは、1kHzでは360度に相当しますが、100Hzでは、36度で位相問題の範囲ですが、10kHzでは、3600度すなわち10回転の位相ズレとなり、位相問題を飛び越えてしまいます。高域では、特にその影響が大きく、基本になる音の時間ズレを0にしないと、位相をリニアにする意味が無いと思います。
下の波形は、シンバルが打たれて音が鳴る瞬間です。同じ波形は2度と現れません。スピーカーは安物であろうが高級品であろうが、この瞬間、瞬間を再現できなければ、価値は失われます。デイブ・ブルーベック・カルテット TIME OUTより。
危険な聴覚最優先
ヒアリングのみで、音響機器を論ずるのは、最終目的が例えそうであっても、暴論でしょう。なぜならば、多くのマルチウェイスピーカーがタイムアライメント問題を不問としつつ、LCネットワークやレベル調整ボリュームを安易に用いています。スピーカー自身が、電気的に複雑な要素を持っているにもかかわらず、これらの問題に何の対策も講じなければ、不安定な鳴り方となっているはずで、スピーカーの音質がまちまちであるのは、ここにも原因が有ると言っても過言ではないでしょう。マルチアンプ駆動をした場合、録音ソースに音質が大きく依存するようになりました。ホーンスピーカーのように、奥行きの長いスピーカーを時間差ゼロで鳴らすには、パワード化して、SP内蔵アンプで遅延をかけるか、マルチアンプ構成にして、チャンネルデバイダやパワーアンプで遅延をかける必要があります。この時、時間差ゼロを確認するには、やはり、オシロスコープなどで、波形を直接に観測する方がより確実しょう。
市販スピーカーのマルチ駆動対応状況
それでは、マルチ駆動が、LCネットワークより良い音が出るとしても、それに適合したスピーカーが入手できるのかという点ですが、現状ではかなり制限を受けます。1990年以前の中古スピーカーならば、マルチ駆動端子があっても、今更そんな古い物に大金を投入できません。ダイヤトーン3WAY DS-700Zを入手しましたので、それを改造してみました。
マルチアンプ駆動へのSP改造方法 は別ページで開きます。
スピーカーの選定
マルチシステムで使用するスピーカーの組み合わせは非常に自由です。使用帯域で、奇数次高調波が少なくなるように、クロスオーバー周波数を決定します。ホーン型の場合、振幅の大きい低い周波数を欲張ると歪みが聞こえたりします。最低でも、常用レベルぐらいで、正弦波により、クロスオーバーから下の周波数における、歪みの有無を確認します。低音は、振幅が大きくなりますので、カットオフから下、1~2オクターブぐらいまでの範囲に留めてテストしてください。
ウーハーは、音の中心となりますので、15インチクラスのしっかりとしたエンクロージャーのスピーカーが好ましいと思います。4WAYでなく、3WAYの場合は、15インチでないと役不足になります。MIDホーンでは、エンクロージャーの必要がありません。ホーンの機種によっては、バッフル板に取り付けた方が良いものが有るかもしれません。ツイーターも同じ考え方で良いでしょう。各スピーカーは、調整値が狂わないよう、前後方向がしっかりと固定されている方が良いのですが、簡単に調整できるのなら、少々軟弱でも良いでしょう。スピーカーの定格インピーダンスについては、8Ωを中心としますが、16Ωでも問題ありません。スピーカーの歪みの少なさを、マルチシステムでは、確認できるようになるので、中高音は、ホーン型で統一した方が、よりいっそう歪みの少ない再生ができます。逆説的には、歪みの多いスピーカーは、マルチ化する意味が失われます。
スピーカー大量設置の疑問
近年の音響ホールが、ウォールスピーカーを大量に設置する例が多くありますが、スピーカーの数が少ないほど良い音質が望めるという基本を重視する必要があると思います。
左右スピーカーを同一音源で同時に鳴らした場合、低音域と、高音域では、合成量に差が出ます。4WAYマルチシステムのLR単体鳴らしと同時鳴らしの測定結果です。LR単独鳴らしでは、±1dB以内というフラットな状態ですが、LR同時鳴らしでは、2kHz以下が5~6dB上昇し、5kHzから上では上昇がありません。測定ポイントは、正三角形の頂点です。2本鳴らしでさえこれですので、4本、8本と増えれば、ますます低音ばかりが強調されると想像できます。それでは、4WAYマルチシステムは大量設置では無いのかと申しますと、帯域を分割して複数のスピーカーを使用するので、チャンネルあたりでは、1本のスピーカーと考えます。
従来の音響工学では、2本のスピーカーの合成音量は3dB上昇するとなっていますが、リスニングルームでは、6dBというのが、実測結果です。この現象をうまく説明している ネットワークの常識非常識 http://www.katch.ne.jp/~hasida/speaker/speaker6.htmを参照されると良いでしょう。音響ホールでの実測でも、単独鳴らしの場合と、各所SP同時鳴らしとの差は、5dB~8dBとなっています。
左右2本(シアン、マゼンタ)を同時にならすと、緑の値となり6dB上昇しています。一方高域では、それほどの上昇はなく、合成数が増えると、低音が増えてしまいます。
図中、LR共に5kHz~10kHzで一旦音圧が低下しています。これは、スコーカーのクロスオーバー周波数を高く取った(6kHz以上)為で、位相が乱れて、ツイーターとの合成がうまくいっていない事によります。この為、ツイーターで、クロス以下の音が歪まない限界まで周波数を下げた(4.98kHz)ところ、この落ち込みも減少しました。1インチスコーカーでさえこのように乱れるということで、2WAY構成のPA用スピーカーは、高域で、かなり苦しい音であることは、間違いないでしょう。
1oct幅FM波にて測定 緑 L+R マゼンタ L シアン R
ラインアレイシステムへの警鐘 : ラインアレイシステムは、線音源となりますので、点音源と比較して、残響時間周波数特性が異なり、屋内使用時は、大幅に残響時間が増加します。通常の建築物は、点音源に対して必要な吸音を行っていますので、線音源に対しては、非力です。減衰しない音が明瞭度が高いと錯覚しやすいのですが、余計な反射音を制御しないと、昭和50年頃の体育館音響となってしまいます。これを防止するには、スピーカーと対抗する壁に強力な吸音壁が必要になります。屋外使用時では、近隣騒音としての問題が生じないように運用しましょう。最近のシネマで、フロントにラインアレイスピーカーを使用し、吸音を強力に行った設置例を知りました。これなどは、英断といえるでしょう。
岐阜PAエンジニアリング 棚瀬 隆司 DCX2496実践的使用法はこちら
リスニングルーム用システム接続図 AVサラウンド環境を含む
メインシステムは、4WAYで、DCX2496とCX3400で構築しています。駆動アンプは、SNとクロストーク特性が良いのが条件で、AU-α607XRで統一しています。
センタースピーカーが1本であったのをTVの左右に2本配置し、スピーカーの陰になっていた6連デジタル制御ボリュームのレベル表示を見えるようにしました。
サラウンド時、AVアンプのプリアウト フロント信号を使用します。
サラウンドディレイ セットアップは、自動セットしないで、スピーカーまでの距離+デジタル系の遅れ分(距離換算0.6m+最大遅延時間)を直接入力します。
リビング用シアターシステム
ソース系をONKYO AVアンプ TX-NR616に集中させ、USBメディアや、インターネットラジオにも対応しました。FL FRのプリアウトをSRC2496で96kHz AES/EBUデジタルに変換し、DCX2496に送ります。
DCXの出力は、PGA2311PAによる電子ボリュームを経由して各アンプに入力されます。スピーカーは、DIATONEの27cmウーハーを共用し、SP A系統がオリジナル3WAY、SP
B系統がホーン3WAYです。
MFB式サブウーハ SONY SA-WX90は、CX3400の LOW SUMで鳴らしています。
次ページ ホーンスピーカー音圧特性とインピーダンス特性
トップページに戻ります