マルチ駆動対応方法                                                    

マルチ駆動こそがスピーカーを鳴らす究極の方法で、音質向上への効果も大きいのですが、肝心のスピーカーが入手できなければ意味がありません。
そこで、現在入手可能スピーカーの公表データから、具体的にどのような機種がマルチ駆動可能か調べてみました。


製品本来でバイアンプに対応している機種の例 30cmウーハ以上のプロ用スピーカー
 
EAW LA325
 
Electro Voice FRX+940 PX2122 Xw12A Xw15A
 
JBL PROFESSIONAL 3632 3678 4632 5672BI AC2212 AM4212 AM4215 AM4315 AM6212 AM6215
 
L-Acoustics 12XT 115XT HiQ ARCS
 
Martin Audio H3+ AM3
 
PEAVEY IMPULSE 1015 QW2F QW4F SP2 SP3 SP4 SP6
 
TOA SR-A12L SR-A18 SR-S4
 
Turbosound TXD-15M
 
YAMAHA IF2112 IF2115

スピーカーユニット自身でバイアアンプに対応している製品(コアキシャル2WAY)
 SICA(Italy) Z005060(8') Z006780(10') Z007851(12')
 Beyma(Spain) 8XC20(8') 10XC25(10') 12XC30(12') 8BX(8') 12KX(12') 15KX(15') 12XA30Nd(12') 15XA38Nd(15')

ピュアオーディオ製品
 JBL Project k2 S9900 S9800 S5800 EVEREST DD6600 S4600 4348 4338 4318

3chマルチ駆動(トライアンプ)対応スピーカー
 
JBL PROFESSIONAL 3632T 4632T AM6315 AM6312 AM6340
 
Turbosound TA-500

プロ用製品は種類も多く、オーディオ用途にも転用可能な製品もあるかと思います。ただし、外観は決して良くないので、家庭用には不向きです。家庭用としてなら、全盛期のスピーカーの中古品を改造するのが手っ取り早いと思います。参考として、購入価格の安い、ダイヤトーンDS-700Zを改造してみましたので、参考にされると良いでしょう。

安価な15インチ2WAY JRX115
プロ用製品は、保守が簡単になるようにユニットの脱着も容易ですので、バイアンプに対応していない製品などでも改造で対応できます。
改造した場合は、メーカー保証の対象でなくなり、自己責任で行う事になります。安価な大口径製品としては、JBL-ProのJRX115などが代表格といえます。
コンプレッションドライバに、チタンダイヤフラムと磁性流体を用いた本格的な仕様です。2WAYですので、ホーンツイータを乗せて3WAYにする事もマルチ駆動ならば簡単にできます。

この製品は、ノイトリックのスピコン(NL-4)が入力として用意されていますので、並列のTRSプラグの配線を捨ててバイアンプ用に改造するにもスマートにできそうです。
NL-4は、1+ 1- 2+ 2-というようにピンに番号が付けられています。
バイアンプ接続に使用する場合は、ノイトリックのカタログによれば、
                      1+ 1- 側 LF SPケーブル4S6 赤 赤クリア
                      2+ 2- 側 HF SPケーブル4S6 白 白クリア
とするのが一般的ですが、スピーカケーブルの色使いについて、明確な規定は有りません。電気工事が、黒ホット、白アースで使用していますので、弱電工事でも当初の白先番が、電気工事ルールに準拠するように、色先に代わり、カナレの推奨もそのように最近になって変更となりました。それ以外の4芯ケーブルで、ホームセンターで入手できる物は、黒 白 赤 緑の4色物が多いのですが、こちらは、
クシアミと覚え、黒1+ 白1- 赤2+ 緑2-で結線すると良いでしょう。

スピコンの紹介
ノイトリックスピコン NL4
NL-4の実物ですが、左がレセプタクル右がプラグです。
レセプタクルの旧式のものは、コの字に見える金属板が無く、不完全な使用を繰り返すとプラグが正常に挿入されていても全く導通が無いという故障を起こします。使用する時は、完全な位置まで差し込んでから右に回してロックさせます。抜くときは
必ずレバーを手前に引いてから左に回します。

NL4 プラグの各パーツ写真
レセプタクル裏側に、電極が4個と 1+ 2+という文字が読み取れます。電極のメッキが銀らしく、すぐに黒っぽくなってきますので、自家用でしたら付属の圧着端子よりハンダ付けが良いでしょう。実測では、どんな圧着よりも低抵抗です。プロ現場では、ファストンコネクタの緩み事故が多く報告されています。又、プラグ側ケーブルに4S6を使用すると、接触不良による加熱事故が報告されています。販売目的や工事の場合は、一回り太い4S8を使用すると良いでしょう。
自家用の場合は、電線を折り返して線径を増やしてからネジ止めという方法も有ります。ホームセンターで入手できる多芯ケーブルの場合、線径は1.25SQ以上を使用してください。内部の電極間隔が狭いので、雑な端末処理をすると、短絡をして、アンプを壊してしまいますので、気を付けて下さい。

3WAYスピーカーの場合8Pのスピコンを使用すると良いでしょう。3ch分の接続をワンタッチで脱着できとても便利で、プロ現場でも活躍しています。8Pですので、4回線までのスピーカーケーブルが接続できます。
 
右は、DS-700Z用に製作したレセプタクル 
NL8MPR+3mmアルミ板(チャコールグレー塗装)と、プラグ NL8FCです。電気的性能は、電流30A、接触抵抗3mΩ以下となっています。以前音響ホールで使用していた、XLR-4Pの10A 5mΩ以下と比較しても、十分高性能です。


下は自家用SPにホーンツィータを乗せて3WAYマルチ駆動をしている例です。JRX115のようなSR用(サウンドリインフォースメント)スピーカーでは、おおむね16kHzまでという特性が多く、ピュアオーディオ用途への転用には、二の足を踏みますが、ピュアオーディオ製品で15インチウーハー付きのスピーカーシステムの場合、2本合計で確実に100万円は超えますので、SR用スピーカーにホーンツィータをプラスしての3WAY化は、メリットが大きいと言えます。又、大音圧で使用するスピーカーが荒削りの音という評価を受けやすいのですが、家庭内で使用する場合、プロ現場よりも音圧が下がりますので、歪みの点では有利ですし、特性はオーディオスピーカーよりも、入力に忠実です。オーディオスピーカーは、想定される聴取レベルが低いので、低音が大きく出るように設計されている物が多いです。SR用スピーカーでは、0.1W程度のパワーで充分な音量となります。スピーカーボックスの容積も大きくて頑丈な為、実音に近い低音が期待できます。
JRX115のホーンは、磁性流体使用で1.6kHzのクロスオーバー周波数となっています。これに、写真のフォステクススーパーツィータT90Aを7kHzでクロスして使用すれば、50Hz〜35kHz程度の再生レンジのスピーカーシステムが、2本で10万円を切って完成してしまいます。写真では、滑り止めシートを用いて、スピーカーの前部に設置し、DCX2496で遅延時間として250mmを設定しています。ロングスロートタイプのMIDホーンとの間ではこのような遅延時間が必要です。



中級3WAYスピーカー DIATONE DS-700Zをマルチアンプ駆動対応してみました。


DIATONE DS-700Z 発売1992年 2011年1月オークションにて2本\23,000+送料で購入

オーディオ全盛期の頃の製品で、定価¥65,000(1本)という、中級品です。防磁型 6Ω 27cmコーン+10cmコーン+2.5cmドームによる密閉式3WAYで、入力200W 能率91dB/W 寸法は 360(W)x690(H)x300(H)とやや縦長です。
コーンの有効半径から求めた第一共振峰周波数は、27cmウーハ 第一共振峰 1108Hz 10cmスコーカー 第一共振峰 3086Hzであり、クロスオーバー周波数600Hzであるウーハは、ピストン運動領域のみで駆動されているのに対し、同4500Hzであるスコーカーでは、ピストン運動をしていいない帯域も受け持っています。音質を悪化させる、3WAYにお決まりの、ミッド、ハイ用のレベルボリュームは無く、シンプルなネットワークを使用しています。電気工事的な、圧着スリーブを用いた配線にて、接続の低抵抗化を図っています。2kHz以上の中高域のフラットさは格別で、全帯域で、歪み感の少ない音となっており、かなり良品の部類に入ります。80dB以下の一般的な聴取レベルに対応し、豊かな低音が得られるような音であり、ヒアリングを重視した製品作りがここにも反映されています。
1kHz付近に特徴的な盛り上がりが有り、明瞭な中音となっています。欠点としては、エッジの経年硬化が指摘されています。そこで、実験的に、エッジの軟化を試みる事にしました。といって、いきなりビスコロイドの除去を行うような積極的な方法ではなく、超低周波5〜10Hzを用いて、電気的な運動を行って効果を調べる事にしました。約6時間ほど、1W程度の電力でコーンを動かし、その後インピーダンスを測定して、過去のデータとの違いを比べて見ました。ネットで指摘されている、低音の量的増加や、最低共振周波数の低下は全くありませんでした。エッジが軟らかくなったとしても、エッジに起因する歪みが少なくなるのが真実ではないかと思います。100Hzを中心とする特定帯域の音圧増加は、ピストンモーション領域であるので、スピーカーの構造上、考えられず、エッジを仮に軟化したとしても、音圧にならない超低音域の振幅が少しだけ増加するだけと考えるのが適当ではないでしょうか。他にも、15インチウーハ、18インチウーハでも同様なエージングを長時間行い、そのインピーダンス特性を測定して、変化が無いことを確認しました。


ユニット単独と総合インピーダンス特性
 
緑色 LF マゼンタ MF シアン HF 白 ネットワーク込み全帯域

DS-700Z各SPユニット端子の入力電圧周波数特性

これが、LCネットワーク使用時に、実際にスピーカーに加わる電圧で、理想とはかなり違う特性です。
下図のように、スピーカーではなく6Ωの抵抗を負荷にした場合は、スムーズな変化をします。



下は、DS-700Zの実測周波数特性です。
 
 左は、フロアーに設置した場合で、右はラックの上に載せた場合で、フロアーから46cm上です。200Hzから下の特性がまるで別物です。このスピーカーは、指向性がワイドなので、部屋の反射の影響を受けます。良く言えば、部屋に溶け込むような音で、スピーカーの外側に音像がある場合もあります。低域特性は、別売のスピーカースタンドを使用した場合フラットになりそうな高さという感じです。畳の場合は、直置きで良いでしょう。自然な発声にこだわったダイヤトーンらしい厚みのある中音域で、又、3kHz以上のフラットさは特筆ものです。正弦波を鳴らした場合、どの帯域にても、きれいな波形を確認しました。100Hz以下の波形もきれいで、破綻無くなだらかに減衰する密閉式の特長が現れています。音量を変えても豊かな響きはそのままで、気軽に高品位な音を求めるなら、この道もありといったところで、ホームオーディオには、このレベルでも問題無いでしょう。

それでは、実際にマルチ駆動ができるように改造をしてみます。このスピーカーは、裏側のネジを外しても、裏蓋は取れませんので、ターミナル部の4本のネジを外して内部に手が届くようにします。次に、表面よりスピーカーユニットを止めている六角ネジを外します。ツィータを外して、接続されている端子も外します。スコーカーは、ファストン端子をそのまま使用するのなら、あえて外す必要はありません。樹脂製密閉キャビネットに収納されているので、線の交換はしない方が良いです。ウーハは、ネジ8本で頑丈に取り付けられており、製造後だいぶ年数が経っていますので、バッフルに張り付いてしまっており、バッフルから剥がすような感じで慎重に外します。


LCネットワークは、背面と底面に取り付けられ、太い線でウーハに接続されています。入力端子マイナス側からウーハまで5.6mΩという低抵抗ですが、プラス側は、コイルが入るので、404.3mΩで、折角の太い線もプラス側には無用の長物となっています。Mid、やHighに使用している電線は、24.3mΩですから、相当な低抵抗で問題ありません。各スピーカーユニットは、マグネットが2個付いており、防磁仕様であることがわかります。ウーハは、ダイキャストフレームで、単品売りのユニットと見まごうばかりです。コーン紙裏側には、四隅にガムテープ様の物が貼られていますが、これに関しての説明はどこにも無く、これがウエイトなのか補強なのかはっきりしませんが、慣性制御領域を増やす工夫と見た方が自然でしょう。下は、ノイトリックの8Pスピコンを3mm厚アルミパネルに取付て、実際に接続している写真です。SPケーブルはLF用に、4S8を使用し、他は4S6を使用しています。結線は、3WAYの規格が有りませんし、自家用でもありますので、1+、1−がLF、2+、2−がMF、3+、3−がHFで4+、4−はノンコネクションとしています。
 
ノイトリック8Pスピコンでワンタッチ接続しています。 各スピーカーの遅延時間は、ウーハが一番遅いので、これを基準とし、
ミッドは78mm ハイは、88mmを設定し、25HzにBUT-18のハイパスフィルターを設定し、クロスオーバーは、607Hz、4470Hzで、LR-24特性を使用しました。
ウーハの波形ですが、ダンピングが良くなっているのが判ります。音質的には、低音がクリアになり、迫力という点では、後退しますが、低音域の音階の聞き取りは非常に楽になります。古いダイヤトーンが、現代の高級2WAYスピーカーと同じようなクリアな音が楽しめるようになりました。


マルチ駆動した場合の1オクターブ幅FM波による周波数特性は、各アンプのレベルを調整することにより、よりフラットにでき、イコライザで補正する必要が無くなります。


 マルチ駆動に使用するアンプは中古アンプでも問題は有りません。1990年代は、現代のアンプと比較しても、非常に特性の良いアンプが多く、宝の山と言えます。中古価格は、おおむね5万円以下です。現在のオーディオ用アンプが、パワー部がデジタル化され、各社右へ倣え状況で、ユーザーには、選択の余地が無いようですが、中古アンプの活用も一考に値すると思います。デジタルアンプの場合は、メーカーや、評論家の良いことずくめの言い分だけを聞かず、スピーカー制動に関して複雑な要素を持つと思いますので、良く吟味する必要があります。プロオーディオ用は、ファン付きが主流ですので、それらは家庭用としては不向きです。
デジタルパワーアンプでは、懸念したとおり、スピーカーラインからのスプリアスが多く発生し、フルパワーでピンクノイズを鳴らした保守点検で、防災アンプが誤動作して、エラー警報を発してしまいました。監視カメラ映像も乱れてしまいました。普段は、レベルを絞って運用しますので、それほど頻繁に障害が発生しませんが、こうしたノイズ障害もあります。

お詫び:
このページで以前に推奨したB社A500は、購入してみたのですが、SPミューティングリレーが無く、機器の電源ON時に他の機器の立ち上がりノイズで出てしまいます。A500のみでは、ミュートが効きノイズが出ないのですが、システム中で使用すると、遅れて動作する機器のノイズが直接スピーカーから出てしまいます。1kHzの出力は正常なのですが、4kHz以上では、明らかなスイッチングノイズがあり(歪率換算で0.3%以上)、メーカーに、充分な対応が期待できないので返品しましたので、推奨は取り消しとさせてもらいます。アナログアンプファンには、1990年代のビンテージアンプの購入をお勧めします。


トップページに戻る