『二度生まれの男・パウロ物語』
「<自己>とは、いわば、自己維持系的なものであって幼小児期に与えられた方向づけと特性とを忠
実に守っていこうとする傾向が強い。
<自己>が、意識の枠内への表出を認可するものは、両親その他の重要人物による承認不承認を
受けたことのある人格部分だけである。<自己>は、これ以外の人格部分は一切、その表現のために
意識を使用することを、いわば、拒絶する。それらを表現することと意識とは相容れない。それらは意識
に無視される。そのような衝動、欲望、欲求は<自己>との結合を断たれ、解離される(to be
disociated)。それらが表現される時にも、その表現を当人が意識することはない。」(31-32頁)
「過去の体験がもつ方向安定作用は何によるものであろうか。それは、過去の体験が<自己>の構
造すなわち<自己態勢>の構造の中に一旦組み込まれたならば、きわめて異質な体験、すなわち過
去の体験を修正する力を持つ新奇な体験を閉め出して、<自己>の中にはいって来ないようにするか
らである。<自己>が成長の方向を一定に保つのは、当人の意識の幅に対する<自己>の規制力も
さることながら、自分が主にとっている構えとは全く異質なものが意識にのぼりそうになると不安がたち
まち起こるために、体験に限界線が引かれるためでもある。」(33−34頁)
![]()
-9-