『二度生まれの男・パウロ物語』


 「幼児期、小児期において、母親という重要な意味をもつ相手が登場し、それと機能的な相互作用が

行われることを話したが、まことに母親とは満足感の源泉であり、<文化への同化>を行わせる役割

の人でもある。しかしまた同時に不安と安全喪失の源泉でもある。」(48頁)

 「自らの体験によってか、あるいは発達途上の諸段階における重要人物からの影響によってか、いず

れにせよその意識から強力で永続的な<動機付け機構>(motivational systems)を相当数解離する

ようにと求められるならば、その人は将来精神障害になる危険がかなりある。その人が発達途上で必

ず通過しなければならない対人的な場のどれかにおいて必ず不適応を起こすだろう。なぜ必ず不適応

を起こすかといえば、その人の活動が二つに分裂しているため、すなわち意識の枠内にある活動と枠

外にある活動とに分かれてしまったためである。」(61頁)

 「対人的なかかわり合いをもとうとする心理的諸傾向より成る一つの系統(システム)が<自己>から

解離できないほど多量のエネルギーを含み
――しかも葛藤や不安がつづく――ならば、<自己態勢>

は、<再象徴化>(象徴づけのやり直し、resymbolization)という過程によっておおよその安全を得る

という手に出ることがある。」(163−164頁)

 「《<自己>の外に解離した系統を<自己>の中に受容する》ということは、結局、人格に大幅の変

化を生じることであり、それは今後自分が存在のより所とする対人的な場の種類も大きく変わることを

意味する。これはただ大変化というだけではない。この変化がどの方向にどの程度起こるかはまったく

予見できる見込みがない。つまるところ、この変化に耐えられるかどうかを当人が予見できない。その

中には重大な葛藤が含まれている可能性がきわめて大きい。」(165頁)

 以上、サリヴァンのパーソナリティ理論の概要を紹介してみましたが、これから、この理論に沿って、

パウロが熱心なユダヤ教徒からキリスト教徒へと翻身した体験を理解していこうと思います。



        

      
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