『二度生まれの男・パウロ物語』
パウロは、『新約聖書』の一編である「ピリピ人への手紙」・「ガラテヤ人への手紙」の中で次のように
言っています。(『聖書』からの引用は日本聖書協会発行の『聖書』<1972年>に依拠しています)
「わたしは八日目に割礼を受けた者、イスラエルの民族に属する者、ベニヤミン族の出身、ヘブル人
の中のヘブル人、律法の上ではパリサイ人、熱心の点では教会の迫害者、律法の義については落ち度
のない者である。」(ピリ3・5−6)
「そして、同国人の中でわたしと同年輩の多くの者にまさってユダヤ教に精進し、先祖たちの言い伝
えに対して、だれよりもはるかに熱心であった。」(ガラ1・14)
パウロの両親は、ユダヤ教徒としての生き方を、幼いパウロに情熱を込めて教えたことと思われま
す。幼いパウロにとっては、ユダヤ教文化は選択しようのない唯一の自明の現実でした。そして、パウ
ロがユダヤ教文化を唯一の自明の現実として内面化していくことが、彼の両親のユダヤ教徒としてのア
イデンティティの維持に、かなりの貢献をしただろうと思われます。なぜなら、ヘレニズム文化の政治・経
済に適応しながら生活している彼の両親にとって、ユダヤ教徒としてのアイデンティティを維持すること
は、そう容易ではなかったからです。
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