『二度生まれの男・パウロ物語』
乳幼児のパウロにとって、母親の存在と彼女が主観的に構成している世界観は、現実そのものでし
た。そして、パウロは、母親との情緒的な絆を通して彼女と一体化し、、感情のパターンをはじめとし
て、ユダヤ人の世界観の原型が彼の精神の基底に刻み込まれつつありました。そして、そのユダヤ人
の世界観は、パウロにとって、いくつかある世界観の中の一つとしてではなく、たった一つだけの自明
の現実そのものとして立ち現れたのです。
パウロの母親にとって、最も重要な存在は、ユダヤ人の神・ヤハウェでした。彼女の意識は強く神の
方を向いており、神によるアイデンティフィケーション(現認)が、彼女のアイデンティティ維持にとって、
最も重要な事柄でした。そのような彼女の意識の在り方(有意性構造)が、幼子のパウロの心の奥底に
しっかりと写し取られたのです。また、母親からの肯定的なまなざしによって、心の安定にとって最も重
要な、外界への基礎的な信頼感が形成されていきました。
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