『二度生まれの男・パウロ物語』


 第一次的社会化のやり直しは、偉大なカリスマを必要とします。なぜなら、幼児にとっての父母は、か

けがいのない偉大なカリスマだからです。絶対的に信頼の置ける偉大なカリスマへの情緒的な依存に

よって、第一次的な社会化のやり直しが行われます。もし、たった一人で世界の再象徴化を行おうとす

るなら、正気の世界から遠く離れていく危険性が大です。イエス・キリストのメッセージを受容した異邦人

たちにとってのカリスマは、イエス・キリストその人でした。古い自分がイエスと共に死に、新しい自分が

イエスと共に生きるのだと解釈されました。また、それは、一人でではなく、集団でなされたのです。異

常な心理状態が伝染するということもあったでしょう。そして、新しい世界観の中に位置づけられた、イ

エスと共に生きる者という新しいアイデンティティーを獲得した彼らは、一人一人の主観的現実及び主

観的アイデンティティーを、その集団における相互のアイデンティフィケーションによって、主観的現実を

社会的現実に、彼らにとっては世界そのものにしていくのです。

 ユダヤ人の社会において、ユダヤ人キリスト教徒たちはマージナルな位置にいたわけですが、ギリシ

ア語を話すユダヤ人キリスト教徒たちは、さらにマージナルな位置にいました。そして、異邦人キリスト

教徒たちは、彼らよりもさらにマージナルな位置にいました。しかし、彼らは、ユダヤ教文化社会の枠組

みを突破するだけの力は持っていませんでした。その力を持ち、自らその枠組みを突破し、彼らをも突

破させたのが、パウロだったのです。

 
       

      
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