『二度生まれの男・パウロ物語』
ここで再び、翻身直後のパウロに戻りましょう。翻身後の行動について、パウロは次のように言ってい
ます。
「ところが、母の体内にある時からわたしを聖別し、み恵みをもってわたしをお召しになったかたが、異
邦人の間に宣べ伝えさせるために、御子をわたしの内に啓示して下さった時、わたしは直ちに、血肉に
相談もせず、また先輩の使徒たちに会うためにイェルサレムにも上らず、アラビヤに出て行った。それ
から再びダマスコに帰った。
その後三年たってから、わたしはケパをたずねてイェルサレムに上り、彼のもとに十五日間、滞在し
た。しかし、主の兄弟ヤコブ以外には、ほかのどの使徒にも会わなかった。」(ガラ1・15−19)
ダマスコ途上で、イエスとの遭遇という原体験をもったパウロは、それ以前のパリサイ派ユダヤ教徒と
してのアイデンティティが崩壊してしまい、「イエスこそキリストである」というクレドーを形成したものの
彼の精神は混乱状態にあったに違いありません。アラビヤに出て行ったのは、一人になり、ダマスコ途
上での体験の意味を、「イエスこそキリストである」というクレドーに基づいて深く考え、彼の世界観・彼
の新しいアイデンティティ再構築のためのオリエンテーションを打ち立てるためだったのでしょう。
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