『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「日本の天皇制においては、かつての騎馬民族国家と同じように、父系の血統による血統カリスマ

が支配の正当性の根拠となっている。

 それを確かなものにした人物は、前にもちょっと話したけれども、藤原不比等だと私は考えている。

藤原一族が天皇家の外戚として永遠に栄えていくためには、寄生先の天皇家が永遠に日本の王家

として存続していかなければならない。そこで、不比等は『日本書紀』において、天皇家の出自や卑

弥呼などを隠蔽し、天皇家の血筋が天照大神に連なる神聖な血統であるという神話を作り、天皇によ

る支配を正当化した。また、不比等は、先例のない、女性天皇である持統天皇から孫の軽皇子への

譲位を正当化するために、天照大神の孫の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の、いわゆる、天孫降臨とい

う神話を作った。」

 「でも、称徳天皇は、天皇の血筋ではない道鏡に天皇位を譲位しようとしたんでしょ。」

 「称徳天皇は、藤原氏が外戚として実権を振るう、当時の日本の政治のあり方を否定したかったの

だと思う。中国のように、徳のある者が王者として理想の政治をすべきだと考えたんだろうね。」

 「それは失敗したんだよね。」

 「そう。その失敗によって、天照大神に連なる血統カリスマによる支配の正当化が確立され、天皇

の権威が人々の心にも浸透していくことになった。

 しかし、中国では、徳のある者が支配者となるという王道政治は建前であり、前の王朝を軍事力で

倒した者が次の王者となり、新しい王朝を開いたというのが現実なんだ。ただ、それを正当化するた

めに、前の王朝の皇帝は徳を失ったために天命を失い、徳のある者が天命を受けて新しい王朝を開

くのだという易姓革命の考えを援用したにすぎない。」

 「日本の血統カリスマによる支配の正当化の定着が、封建制の成立とどう関わってくるの?」

 
     

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