『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「定恵と史は母親が違う。史の母親は安見児(やすみこ)といって、鎌足が中大兄皇子からもらい受
けた女性なんだ。そして当時、史は中大兄皇子の子ではないかと噂が立っていた。その噂が事実で
あるかどうかということは、あまり重要ではない。噂が立っていたということ自体が重要だった。史は
そのことを表には出さず、しかし、効果的に利用したに違いない。持統天皇も半ば以上にその噂を信
じていたと思う。その噂が事実であるとすれば、持統天皇と史は異母姉弟ということになる。当時、血
のつながりは非常に重要視されていたので、史が持統朝になって急に頭角を現していったのもうなず
ける。」
「安見児って、身分の高い人の娘だったの?」
「いいや、そうではなかったらしい。身分が高くなかったにもかかわらず中大兄皇子が一目惚れした
ぐらいだから、相当な美人だったんだろうね。だから、史もかなりの美男子だったと思う。」
「じゃ、鎌足は自分の手元で可愛がって育てたんだろうね。」
「いや、史は河内の飛鳥で、百済からの渡来人の子孫・田辺史大隅(たなべのふひとおおすみ)に
よって養育され、七歳頃に大隅と共に山科に移って勉学に励むことになる。そして、鎌足は史が十七
歳になるまで山科から離れないように大隅に厳命していた。」
「どうしてなの?」
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