『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「私の恩師の佐々木斐夫(ささきあやお)先生から教わった考え方なんだ。佐々木先生と出会った

ことは、私の原体験となっている、と思う。ところで、パウロの話に戻ると、使途会議の後、キリスト教

の歴史において画期的な事件とされるアンテオケ事件が起きる。」

 「そのアンテオケ事件ってどんな事件なの?」

 「アンテオケ事件を説明する前に、アイデンティフィケーションについて、少し説明しておこう。人間

のアイデンティティや世界観、世界観と言っても哲学的な難しいものではなくて、その人が自明の現

実と思っている世界のことなんだけれども、そのアイデンティティや世界観は、母親など、その人にと

って重要な人物たちとの関係を通して形成されてきたものなので、大人になってからも、無自覚的

に、なにげない日常的なコミュニケーションによって確認作業をしていく必要があるんだ。それを、アイ

デンティフィケーションと言う。」

 「例えば、僕が爺ちゃんを『爺ちゃん』と呼びかけることなんかもそうなの?」

 「その通り。翔太に『爺ちゃん』と呼びかけられることによって、一人の孫を持つ祖父としての私の

アイデンティティの一面が現認される。そこで、アイデンティフィケーションが行われたということなん

だ。」

 「それが、パウロとどう関係するの?」


     

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