『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「ここで、また回り道して説明することにするね。まず、アメリカの精神医学者ハリイ・スタック・サリヴァ

ンのパーソナリティ理論の概要を紹介しよう。

 彼は、人間のパーソナリティは<自己>からだけ成るものではなく、抑制・抑圧・解離という<自己>

の機能によって意識の枠外に追いやられた諸体験も、<自己>と共にパーソナリティを構成する一部

分であると言っている。

 また、彼は、<自己>とは一個の固定的実体ではなく、対人的過程が集合してつくる一つの図形(か

たち)であると言っている。この考えにしたがって、古代イスラエルの預言者の行動を見てみよう。

 古代イスラエルの預言者は、多分、幼少期にヤハウェについて、ヤハウェが与えた律法について、親

や周りの人たちから聞いていたと思う。しかし、ヤハウェそのものは<自己>に統合できるものではな

いので、抑制・抑圧・解離という<自己>の機能によって、意識の枠外の領域に追いやられていたに違

いない。何らかの原因により、この抑制・抑圧・解離という<自己>の機能が弱まったとき、意識の枠

外へと追いやられていた体験が意識へと昇ってくるのだと考えられる。そして、預言者たちは、意識の

枠外から聞こえてきた声を神・ヤハウェの声であると信じた。だから、その神の声をイスラエルの民に届

ける使命があると思った。当時の人々は、それらの現象を、神・ヤハウェのルーアッハ(霊)がその人間

に降(くだ)ったのだと考えたんだ。」

 「じゃ、どうして預言者は迫害されたの?偽予言者とでも思われたの?本物の預言者か偽予言者か

はどうやって見分けたの?」

 
     

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