『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「唯一神教というと、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教だよね。そして、キリスト教もイスラム教もユダ
ヤ教を母胎として出現している。」
「じゃ、ユダヤ教はどのようにして出現したの?」
「ユダヤ教については、前に少し話しをしたけれども、これから、マックス・ウェーバーの『古代ユダヤ
教』を私なりに理解した内容を話してみることにするね。」
「古代ユダヤ教が出現するまでは、世界中の宗教は皆、多神教だったんでしょ。なぜ、ユダヤ人だけ
が唯一神教を形成することが出来たの?」
「古代のセム系遊牧民と縄文人を比較してみると分かりやすいかも知れない。
縄文人は海で隔てられた列島内で生活し、他民族に侵攻される恐れもなく、安全は当たり前だった。
水も食糧も豊富で、セム系遊牧民から見れば、まるで楽園のような自然環境・社会環境で生活していた
んだ。そのような環境では、台風や地震などの自然災害を引きおこすと信じられた、怒れる諸精霊を宥
(なだ)める祭礼、つまり、人間が諸精霊に働き掛ける呪術を行ってさえいれば、諸精霊の怒りも消え、
自然災害も通り過ぎてしまうという宗教意識が自明のこととなる。
他方、セム系遊牧民の各部族は、メソポタミア地域という生き馬の目を抜くような厳しい社会環境にお
いて、他民族から差別を受けながら、乾燥した自然環境の中でわずかな草原を求めて、土地を所有す
る者の寄留民として生活していた。そのセム系遊牧民の部族の一部が、セム系民族・ヒクソスが支配し
ていた頃のエジプトに行って、比較的優遇されていたらしい。しかし、エジプト人によってヒクソスが追放
されてエジプト新王国が形成されると、エジプトにいたセム系遊牧民の末裔たちは、新王国によって奴
隷化されてしまう。」
「それで、モーセという指導者の下に、エジプトを脱出するんだよね。彼らは、もう、唯一神ヤハウェを
信仰していたの?」
「いや、彼らはそれぞれ自分の部族が信仰する神々を信じていたし、その頃のヤハウェは唯一神とは
考えられていなかったんだ。」
「モーセが信じていたヤハウェは、唯一神ではなかったの?」
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