『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「まずは、一人一人が自分という存在を理解することだと思う。人間の『自己』とは、その人が自覚して
いるところの『自己』だけではなく、生まれてから現在までの生活体験のすべてが『自己』を形成してい
るんだ。それらを自分の宿命的出来事として受け入れ、自分の生育史をさかのぼることによってできる
だけ自覚するようにするんだ。人間は自分の生育史をなかったことにすることはできない。そこから自分
がどうありたいのか決断していくしかないんだ。
また、人間は、自分が生まれ落ちた社会の文化を吸収して自己形成してきたわけだから、自分が所
属する民族の文化がどのようにして形成されてきたのか、その歴史を知る必要があると思う。
そして、個人と社会とのダイナミックな相互作用によって、個人も社会も、より、その生を厚くする方向
に変わっていければ良いと、私は考えているんだ。」
「前に、爺ちゃんは、アイデンティフィケーションが重要だということを話してくれたよね。日本人は何ら
かの共同体内でそのアイデンティフィケーションをしてきたと思うんだけれども、地域共同体にしても、会
社にしても、家族にしても、それが弱まってきたと思う。そういった中で、日本人が自立していこうとする
のは、難しいんじゃない?」
「そうだね。だから、普段から自分の居場所を作っておくことが重要だと思う。趣味のサークルでも何
でも良い。お互い遠慮なくものが言えるサークルだといいね。そういった居場所が一つではなく複数あ
るといいと思うよ。
さて、明治の話に戻すと、伊藤博文は、二度三度と西欧に留学や視察に行っている。彼が西欧に行っ
て感じたことは、巨大な工業力と軍事力、そして西欧人一人一人の精神的な強さだったと思う。」
「伊藤は日本人も一人一人が強くならなければならないと思ったんでしょ。彼は、そのためにはどうす
ればいいと考えたの?」
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