『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「廃仏毀釈の嵐は2~3年で収まったのだけれども、仏像などの価値は低く見られたままだった。そこ

で、芸術的価値ありと見なされた仏像などが、かなり海外流出していた。そのような時、17歳で東京大

学を卒業して文部省に入省していた岡倉天心(おかくらてんしん)が、東京大学講師だったアーネスト

・フェノロサの通訳として、共に古都の日本美術調査を行った。その調査で天心が見たものは、西洋文

化崇拝の時代風潮の中で、古代日本人の心が表現された仏像などがうち捨てられたり、海外流出して

いる現状だった。天心はそれをくい止めようと文部省の上司に訴えて、改めて古美術の調査を行い海外

流出の防止に努めたんだ。

 そして、天心はフェノロサと共に東京美術学校(現・東京藝術大学)設立に尽力し初代校長になってい

る。彼は東京美術学校において、日本人の伝統的な心に根ざした日本美術の発展を促そうと努めたの

だけれども、美術においても西洋画を重視しようとする政府の方針に反発して、校長を辞任している。」

 「日本人の伝統的な心って何だろうね?」

 「前にも話した通り、日本人の心に深く根ざしているものは、縄文時代から通奏低音のように流れてい

る、互いの善良さを信じ合って心優しく生活していこうという和への志向だと、私は思う。」

 「聖徳太子が十七条の憲法で、それを明文化したというわけだよね。」

 「日本人は、その心優しき文化を今後も大切にしていくべきだと思う。ただし、その文化のマイナス面

も自覚しておかなければいけないと思うね。」

 「そのマイナス面ってどんなことなの?」


 
     

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