『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「渡来系弥生人の農耕文化は、穢(けが)れを忌み嫌う価値観が濃厚で、特に死や血を穢れとして忌

み嫌った。

 『古事記』の記述で、イザナギが死んだイザナミを追って黄泉(よみ)の国に行って、腐敗してウジが湧

いていたイザナミの姿を見て、この世に舞い戻ったとき、すぐに行ったことは清流での禊(みそ)ぎだっ

た。黄泉の国へ行って穢れてしまった自分を清流で清めたんだ。渡来系弥生人たちの清さを価値ある

こととし、穢れを嫌う価値観は日本文化のもう一つの核心と言えるだろうね。」

 「あと、日本文化が西洋文化やイスラム文化と決定的に異なる点が何かあるかな?」

 「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の神は基本的には同じ神だとされている。その神の特徴は、造物

主であるということなんだ。つまり、人間も神によって作られたものだと言うんだ。だから、人間が神をど

うこうするということはできない。神から与えられた律法をただ遵守するしかない存在が人間だ。

 一方、日本では、恵まれた環境世界のゆえにアニミズムの宗教世界で充分だった。人間が呪術で神

々を動かすことによって、自然災害などからの救済を探求するという方法が発達した。そして、呪術の

言葉そのものにも霊が宿っていると考えた。言霊(ことだま)だね。もう一つ、日本文化に特徴的なの

は、その言霊信仰なんだ。客観的・合理的な予測をしても、その予測通りの結果になった場合、それを

言った人に責任を求めるといった傾向があるよね。」

 「アメリカと戦争しても負けると予測したら、非国民と言われたというようなことだね。」

 「人間の本心は善であるとする性善説を自明の現実とする文化、集団内の和を第一とする価値観、清

さを価値あることとする考え、言霊信仰、それに、霊魂不滅の考えと、怨霊の祟りを恐れ、それを封じ込

めようとする傾向、それらが日本文化の核心的思想であると思う。」

 「分かった。じゃ、それらの日本文化の核心的思想によって、朱子学がどのように変容していった

の?」

 
     

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