『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「前に、古代ユダヤ人について話したよね。古代ユダヤ人は縄文人とは非常に対照的に、過酷な環

境世界で生きていたんだ。彼らが生き延びていくためには、強力な神観念を発展させていく必要があっ

たと考えられる。そのようにしてできた古代ユダヤ教の神観念を継承したのがキリスト教であり、イスラ

ム教なんだ。

 ところが、前にも話した通り、縄文人は非常に恵まれた環境世界で1万数千年も生活することができ

た。縄文中期は今よりもずっと温暖だったらしい。縄文遺跡はほとんど丘の上で見つかっている。温暖

だったために海水面が今よりも、ずっと高かったから、海のそばだった縄文集落が今では丘の上になっ

ているんだ。そのように温暖で、飲料水や食糧にも恵まれていた。それに、島国だったゆえに、外敵の

来襲といったこともなく、安全が当たり前であった。また、縄文時代の集落は、竪穴住居の配置や墓の

遺跡などから、平等な社会であったと考えられる。そして、縄文人の使っていた弓は、あくまで狩猟用で

あり、人を射るようには発達しなかったらしい。そのような社会では、強力な神観念を発展させる必要な

ど微塵もなかっただろうし、人間同士が争わない、心優しい文化が形成されていったと思われる。

 したがって、お互いの善良さを無自覚に信じ合う、性善説が前提になっている文化が形成されていっ

たと考えられるんだ。」

 「それが渡来系弥生人にも継承されたってことなの?」

 
     

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