『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「ところで、翔太は、映画やテレビで『忠臣蔵』を見たことはあるかい?」
「あるよ。吉良は憎たらしい爺さんで、大石たちは正義の忠臣として描かれているよね。」
「『忠臣蔵』を見て、吉良に感情移入する日本人は、まずいないよね。当時も、大石たちを悪人とし
て打ち首の処分にしたら、庶民の感情を逆なですることになるので、切腹という処分にせざるを得な
かったんだろうね。」
「佐藤直方は、なぜ打ち首にすべきと考えたの?」
「そもそも、この事件は喧嘩ではなく浅野内匠頭の一方的な暴力にすぎず、吉良上野介は赤穂浪
士たちにとって主君の仇ではない。そして、討ち入りの後、彼らは自主的に切腹すべきであったと、
直方は言っている。ところが、こういった考えは、当時の日本でも受け入れられず、佐藤直方はその
後、日本社会に影響を及ぼすことなく忘れ去られてしまう。」
「直方の他には、赤穂浪士たちの討ち入りを不義であると言った人はいなかったの?」
「荻生徂徠(おぎゅうそらい)は、『内匠頭は幕府に処罰されたのであって吉良に殺されたわけでは
ないから吉良上野介は赤穂浪士たちにとって君の仇ではない。したがって、赤穂浪士の行動は、同
情の憐れみを禁じ得ないものの義とは認められない』と言っている。こういった意見でさえ、当時の日
本社会では受け入れられなかった。」
「どうして、日本では、どんな外来の思想でも日本化されちゃうんだろうね。」
「我々日本人の多くは、特定の宗教を信じていないから、日本人の多くは無宗教だと思っているか
もしれないね。」
「そうだよね。どこかのお寺の檀家にはなっているけど、ほとんどの人は自分が仏教徒だとは思っ
ていないよね。」
「でも、私は、日本人は強力な宗教を信じている民族だと思っているんだ。」
「えっ、それはどういうことなの?」
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