『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「石田梅岩が鈴木正三の著書を読んでいたという確証はないんだけれども、梅岩の考え方は、構
造的に正三の考え方と非常に類似しているし、梅岩の弟子の手島堵庵(てじまとあん)が、後に正三
の著作に序文を付して出版していることからも、梅岩と正三は思想的に極めて近く、梅岩が正三の著
作から大きな影響を受けていたことは間違いないと思う。」
「じゃ、梅岩の考えを教えて。」
「梅岩の思想は、基本的には正三の世界観と同じで、宇宙の秩序と内心の秩序と社会の秩序は一
致しているし一致させねばならないという考えなんだ。正三は禅宗の僧侶で、宇宙の基本を『一仏』と
し、その功徳の力を『月なる仏』『心なる仏』『医王なる仏』とし、修行によってそれらを一致させなけれ
ばならないとした。梅岩はその考え方を継承しながらも、儒教的な表現で自分の考えを表した。梅岩
は、宇宙の基本を『善(宇宙の継続的秩序)』とし、その三つの現れを『天』『性(本性)』『薬』とした。
梅岩の場合も、人間の本性は、本来、善であるとする日本の伝統的文化である性善説が前提になっ
ている。正三と違うのは、仏教的な宗教性がなくなり、病んだ心を癒やしてくれるものを『薬』と呼び、
仏教でも神道でも『薬』として役に立つものが真理であり、『薬』は自ら処方して使うものであるとして
いる。」
「キリスト教徒でもないのに結婚式を教会で挙げたり、クリスマスを祝ったり、神社にお参りに行った
り、葬式をお寺で行ったりといった、現代日本人の行動はそこが源流なのかな?」
「そうかもしれないね。それから、正三も梅岩も生活の基本は『正直』であると言っている。
梅岩は、商人にとっての『正直』は売り先への誠実さであり、奉仕に明けて奉仕に暮れなさいと言っ
ている。そして、『倹約第一』を掲げ、結果としての利潤は正当であるとした。アメリカの社会学者ロバ
ート・ニーリー・ベラーは、これをカルヴァン主義商業倫理の日本版と見なし、日本の産業革命成功の
原動力と考えたんだ。」
「梅岩の思想はすぐに普及したの?」
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