『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「鈴木正三は、本能寺の変の3年前、1579年(天正7年)に徳川家康の旗本の家に生まれており、
関ヶ原の戦い、大坂冬の陣・夏の陣に参戦している。そして、その後切腹覚悟、お家断絶覚悟で出
家している。旗本の出家は禁止されていたんだ。しかし、二代将軍・徳川秀忠の計らいにより特別、
出家が認められ家の存続も許された。曹洞宗(そうとうしゅう)の僧侶になった正三は執筆活動と布
教に努めた。また、彼はキリスト教の教義とも対峙し、『破切支丹(はきりしたん)』というキリスト教を
批判する著書を著している。彼は、キリスト教と対峙していくなかで、無自覚だった日本の伝統文化を
自覚するようになり、また、当然にキリスト教の影響も受けているんだ。」
「キリスト教の影響ってどんなところに表れているの?」
「キリスト教の三位一体説(さんみいったいせつ)の影響を受けていると考えられるのが、正三の
『月なる仏』『心なる仏』『医王なる仏』という考えなんだ。私は、日本人は昔から互いの人間性を信頼
し合い、性善説を信じてきた民族であると思う。だから、すべての人に仏性(ぶっしょう)が備わってお
り、すべての人が成仏(じょうぶつ)できるとした天台宗(てんだいしゅう)の考えが浸透することがで
きた。仏教やキリスト教など、宗教を信じていないという現代の日本人も、無自覚に性善説を信じてい
るという点では、信仰深い民族なのかもしれない。正三も、もちろんその伝統を受け継いでいる。『心
なる仏』という考えは、性善説を前提としている。」
「『月なる仏』『心なる仏』『医王なる仏』という考えをもっと詳しく説明してくれない?」
![]()
-135-