『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』


 「それは、大きなテーマなので、やはり回り道して説明することにしよう。ユートピアに導く方法は、

理念型的に二つ考えられる。一つは、模範預言といって人々に模範を示す方法なんだ。」

 「そのやりかたでは、指導者について行く能力のない人は置いていかれちゃうよね。」

 「そう。だから、トピアを突破してユートピアを形成していくことはできない。もう一つは、古代ユダヤ

教の預言者たちに典型的に見られるものだけれども、使命預言といって、人々に真正面から向かい

合って、トピアの世界を否定し、ユートピアへ導こうという方法なんだ。」

 「そんなことをしたら、人々の怒りを買って、殺されてしまうんじゃないの?」

 「そうだね。人々はトピアの世界を自明の現実だと思っているし、その世界を否定したら人々の

自尊心まで傷つけてしまうことになるからね。だから、古代ユダヤ教の預言者たちは、預言者になる

ことから逃げようとするんだ。でも、神・ヤハウェは無理やり預言者にしてしまい、律法を守るという

神との契約の道に立ち帰るよう、私の言葉を人々に告げなさいと預言者に迫るんだ。そして、神・

ヤハウェは、トピアを超えた絶対神なので、神の言葉はトピアを突破する力を持っていたということな

んだ。」

 「ちょっと待って。さっき、爺ちゃんは、神を信じていないと言ったじゃない。神様って、やっぱりいた

の?」


     

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