「なぜ戦争を止められなかったのか」という設問は、暗に、ヒトラーのような戦争を遂行しようとする

者がいて、それを止められなかったということを意味しているが、日本の場合は、そのようなことでは

なかったと思う。日本の場合は、そのようになってしまったと言った方が実情に近いのではないかと

思う。では、なぜそのようになってしまったのか。その核心は、リアリズムの喪失にあったに違いな

い。軍人、政治家、国民の大半がリアリズムを喪失していた。その主な原因は、天皇のイメージや

大日本帝国のイメージに自分の自我を同一化し、夜郎自大的に自我を肥大させてしまったために、

現実が見えなくなってしまったのである。いや、現実を見ようともしなくなってしまったのである。

 そのようなことは、オウム真理教の事件でも見られた。最高学府で自然科学を学んだ青年が、全く

リアリズムを失っていた。教祖や教祖が唱えるイデオロギーと同一化し、そこに救いを見いだしてい

たからである。

 そのようなことは、なにも宗教団体に限ったことではない。何らかのイデオロギーを絶対化し、つま

り、そこで思考停止し、そのイデオロギーを奉る団体に自分の自我を同一化した場合、同じようなこと

になる。民主的な社会とは、自分がよって立つところを相対化し、他の立場も容認しながら共生する

社会であると思う。そして、日本が、ある一つのイデオロギーが強制される社会になることだけは防

がなければならないと思う。


        (2021/7/2)

          

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