動物行動学者の日高敏隆は、「人間は、遺伝的に獲得する行動様式である<本能>を失った代わ

りに、<代理本能>を形成している」と言っている。その<代理本能>については、いろいろな学者

が、それぞれの観点からその現象についての表象を行っている。例えば、マックス・ウェーバーは、

<エートス>という言葉で表現している。哲学者で社会学者のアルフレッド・シュッツは<レリヴァンス

・ストラクチュア>(有意性構造)と言い、言語学者でソシュール研究者の丸山圭三郎は、「人間は、

自分が生まれた社会の文化にフェティッシュしている」と言っている。日本では、昔から「三つ子の魂

百までも」ということが言われている。

 いずれも、ある現象をそれぞれの観点から表象しているものである。その現象とは何であろうか。

 人間は、乳幼児期に養育者(両親などのその人にとっての重要人物)から、その社会の文化を刷り

込まれ、それが無自覚的なものとなり、その人の行動を支配することになる。それが<代理本能>で

あり、人間が自由意志で行動しているように思っていても、実は、その<代理本能>に動かされてい

ることが多いのである。すべての行動を、いちいち意識的に判断して行動することなど不可能であ

る。脳が疲れてパンクしてしまうだろう。<代理本能>のお陰で精神衛生が保たれていると言っても

いいのではないかと思う。ただ、自分がどのような<代理本能>を形成しているのか、ある程度自覚

しておくことは、これからは必要になるのではないかと思う。なぜなら、そうしないと、異質な<代理本

能>を形成している人との相互理解ができないからである。より狭くなった、この地球に住む、異質 

な文化圏に暮らす人たちが、協力して地球的問題を解決していくためには、相互理解が重要になる。

 したがって、<代理本能>の自覚・自分の社会の文化の相対化は喫緊の課題であると思う。


        (2021/4/15)

          

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