乳児期の赤ちゃんを,前かがみに支えて立たせてあげると,足を交互に動かし歩くような動作をします。この動作は自動歩行と呼ばれ

,一種の
本能的な反射行動です。しかし,人間の赤ちゃんは歩くことはできません。生まれてすぐ立ち上がり,歩くような動物と比べると

,未熟児として生まれてくると言ってもよいでしょう。したがって,母親が与える保育環境は,人間の赤ちゃんにとって
擬似子宮内環境

ようなものです。(必ずしも母親が保育するわけではありませんが,ここでは一応,母親としておきます。)歩くことができるようになる1歳

前後頃まで,母親が提供する擬似子宮内環境で生活することになるわけです。そして母親は,意識的にも無意識的にも,彼女が生きて

いるその時代の,彼女が所属する社会の
生活の仕方を身につけています。母親の保育活動を通しての母子相互作用によって,母と子

の間に
感情移入の絆が生じ,その感情移入の絆を通して,母親が身につけている生活の仕方(その社会の文化)が,生まれたばかり

の赤ちゃんにも伝達されるのです。つまり,赤ちゃんは,感情移入の絆を通して伝染してくる,不安の源泉である母親からの有害な情緒

を避けようとするために,その社会の文化が是認するパターンの鋳型にはめられていくのです。

                      

 過去に何度か,生後3ヶ月児の日米比較研究が行われていますが,生後3ヶ月にして,もう,日本とアメリカの赤ちゃんでは,かなりの

性格の違いを現しています。これは,単に,育児方法の違いだけから異なってくるわけではありません。母子の
感情移入の絆を通して,

母親が身につけている,彼女が所属している社会の基本的な
感情のパターン(感じ方)が赤ちゃんに伝わるのです。母親との信頼関係

を築くことにより,外界に対する信頼感を築き,それを基礎にして,母親などを通して,その社会の
生活の仕方文化)を学んでいきます。

 したがって,1歳前後に歩き始めるのは,本能によってではありません。そのころには,とっくに行動の仕方としての本能は消滅してい

ます。人間の場合,歩き方を初めとして,すべての生活の仕方は,
無数の多様な可能性の中から,彼の時代の彼が所属する社会の,

文化を学習
していくことによって身につけていくわけです。                                

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