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陣痛だけでも考えるだけで恐怖なのに、「会陰切開」なんていう、とんでもないものが出てきてしまいましたね。
でも昨日の分にも書いたように、ふつうは麻酔無しで切っても縫っても、ほとんど痛くないものなんです。
傷の治りも思ったより早いですし、お産直後は膣の周辺も多少麻痺してますしね。
ところができた傷の如何によっては、こういう事態になる事もあるというお話をしましょう。

会陰切開の縫合をしてもらったあと、産婦(もう“妊婦”ではない)は分娩台に寝たまま、2時間程産後の経過を見ます。
何か急な事があった時、すぐに対処できるようにするためです。
出産でへとへとですから「さあ、一眠りしよう。」と思っても、今度はなかなか眠れませんよ。
陣痛の間にはあれだけ眠れたのにです。
「気持ちが高ぶってるからね、そういう人、多いよ。」と助産婦さんが教えてくれました。
しぼれる程に汗で濡れた病衣を、助産婦さんが寝たまま着替えさせてくれます。
咽が乾いたろうと、冷たいお茶も持ってきてくれます。
ただ、寝たまま飲ませてくれるのに、「なんだかこれってストローじゃなくって、何かに使うチューブ切ったヤツ?」
と思われるようなのを使うかもしれません。
でもここは病院ですからね、そこらへんは許してあげましょう。

2時間経つと病室に戻ります。
はいった時にはいっぱいだった病室が、お産をしている間に退院した人がいたらしく、一人分空いてました。そこに入ります。
おお、母も来てましたよ。用事は全部済んだのかしら?
ストレッチャーからベッドに移ってやれやれと一息ついたとたん、会陰部に「ブツッ!」という衝撃を感じました。
いや、実際音が聞こえたように思いました。
と同時に、魔法使いのように伸びた爪でぎっちり挟まれているような、物凄い痛みが襲ってきました。
冷や汗が出ます。身体が震えます。歯がガチガチいいます。
食いしばろうとする歯の間から、言葉にならない声がもれそうになります。
痛みのあまり、寝返りをうつ事も出来ません。
(なんだ、これは!?)と思いつつ、母に「・・・ごめん、看護婦さん、呼んで。傷が・・・・・。」と言うのが精一杯。
それ以上何か言おうとすると、悲鳴になりそうでした。
さっきの助産婦さんが鎮痛剤の坐薬を入れてくれましたが、何がどうなっているのか、まったくわかりません。

この病院では初産婦は約12時間、ベッドで安静にさせられます(経産婦は8時間です)。
その間に一度、看護婦さんが出血の様子をみながら患部の消毒をしに来てくれます。
そのとき尿道付近の筋肉や腹筋の戻り具合を見るために、
ベッドの上で便器におしっこをさせられます(経産婦にはありません。自分でトイレに行きます)が、
何度か試してみて自力で尿が出せないと、カテーテルで導尿ということになります。
出産の時間の関係で私が導尿を受けたのはもう真夜中になりかけていましたが(つまり、自力で出せなかったんです)、
終わってから消毒しようとして患部を見た看護婦さんが「!」と息を飲むのがわかりました。
(なになに?なんなの?どしたの?どうなってるの!?)と思っていると、
その看護婦さん(どうやら産科の婦長さんだったようです)が「これはひどい。」とおもむろに言いました。
「は?」
「痛まない?」
「痛むけど、さっき坐薬入れてもらったし、これは我慢するものでしょ?」
「いやいやいや、あんたくらい我慢強い人、見た事ない。
普通は明日になれば(回復を速めるのに産婦さんを)歩かせるんだけど、宝塚さんは歩かせないかもしれない。」
誉められたんだか呆れられたんだかよく分からない言葉を残し、看護婦さんはナースステーションに戻っていきました。

5日の午前0時を少しまわった頃でしょうか。別の看護婦さんが車椅子で私を迎えに来ました。
先生の診察があると言うのです。
「傷が痛くて座れないんですが・・・・・。」
「でも、座った方がいいよ。」
(“いいよ”って言ったって、どうやって座るよ。あ〜あ〜あ。)
おしりを半分浮かせるようにしてどうにかこうにか車椅子に座り、処置室へ。
そこにはG先生とそれまで会った事もない、半分インターンのような若い医者がいました。
(ああ、ほんの12時間前にはまだ大きなお腹でここに座ってたな。)などと感慨に耽りつつ診察台に乗り、足をひろげる私。
と、そこに若い医者に向かってG先生の声。「ほ〜ら、触診してごらん。」
「!!!!!!!!!!!!!!」
「触診」というのは読んで字のごとく、「患部に手で触って診察」することです。
患者に何の一言もなく夜の夜中に呼びつけて、
大学病院でもあるまいし、切開の傷のひどいのを若い見習い医者に「ほ〜ら、触診してごらん。」だ〜〜〜!?

(あっ、つつっ、ばかっ!触るなっ!アタシはモルモットじゃないんだよっ!なんでお前の教材なんかに!
痛い!診せて欲しかったらちゃんと頭下げて頼めよっ!っ痛ーーーーー!
大学病院でも”若い医者の教育のために御協力下さい”ってせめてはり紙があるだろうよっ!
たった一言だよ!それならちゃんと協力してやるのにっっっ!!!)

と心の中で叫んでも、およそ産婦人科の患者になった事のないこいつら、
いやいや、この人達には分かるはずもない
のでした。
目には見えない悔し涙を流していると、追い討ちをかけるようなG先生の言葉。
「宝塚さんさー、切開の傷、内出血して血腫ができてるんだよね。
看護婦さんに言っとくから、トイレの度に”リバシップ”取りにきてね。
それから様子を見て血腫がひどくなるようなら、もう一回縫い直すかもしれないから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
もう、返事をする気力も失せていました。

なんでこんなことになっちゃったんでしょうかね?次回、血腫がクライマックスを迎えます!・・・・たぶん。

(99/12/14)

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