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ここで「助産婦さんは何をしているのか?」という疑問にお答えしましょう。
皆さんマタニティー雑誌で見て御承知のように、赤ちゃんというのは産道を回りながら降りてきます
丸くて大きな頭、平ベったい肩の部分とそれに続く丸いお腹で、
あの狭い骨盤と10センチ程もある産道を通って出てこなければいけないわけですからね。
赤ちゃんは自分の頭蓋骨の形を変えながら、お母さんの骨盤と自分のからだの向きをちゃんと合わせるようにして、
できるだけ無理の無いように降りてくる
のです。
ところが何といってもあの狭いスペースですからね、赤ちゃんも大変なワケです。

そこで助産婦さんは、赤ちゃんが降りてきやすいように産道をしっかり確保するのですね。
具体的にいいますと、陣痛があっていきんでいる時に、膣口をぐーっといろいろな方向に引っ張ってみたり、
会陰部をぎゅっと押してみたり
、あるいは人によっては失禁や脱糞をしたりすることもあるということなので、
その始末なんかもするわけです。

そしてもちろん、妊婦さんを励ましてくれます。
「おお、上手い上手い、その調子。」とか、「大丈夫、心配しなくても赤ちゃんは元気だよ。」とか、
「もうひと息だねー、もうちょっとでめんこい赤ちゃんに会えるよ。」とか。
こんなふうに励ましてくれる人がいればこそ、妊婦はあのお産のとてつもなく大きな力を出せるというものでしょう。

さて、この頃になるとそれまでの陣痛とは「格が違うぞ」と思わせるようなさらに強い痛みになってきていました。
自分でもだんだん慣れてきてしっかりいきめるようになってきてはいましたが、
赤ちゃんを押し出す力がどんどん「MAX」に近付いていくような感じなのです。必死の思いで
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
といきんだ後は、次の陣痛までの数十秒から1分くらいの間、
ウトウトというよりはほとんど「熟睡」に近い状態で眠っていました

そしてそんな陣痛が何度か続いたあと、
助産婦さんの連絡を受けて里帰りしてからずっとお世話になっていたG先生が、おもむろに登場。
「おお、もう少しだなー、宝塚さん。」などと呑気な声で話しかけてくれました。

それにしても浣腸も剃毛も、同じ女の看護婦さんがやってくれるからまだ我慢もできるというもの。
妊娠したかもしれないと思って産婦人科の門をくぐったその日から今までの妊婦検診で、
およそ赤ちゃんの時におむつを換えてもらう時ぐらいにしか父親にも見せた事が無いあの格好、
愛するダンナにすら見せた事が無いあの・・・・・いや、ダンナになら見せた事があるかもしれない、
それも何回も見せた事があるかもしれないあの格好
を、
ただ産婦人科医であるというだけの理由でそれまでまったく見も知らぬ男に見せなければいけないという悲しさ。
しかもただ見せるだけじゃなくて、膣に指を入れられたり、グリグリかき回されたり、
妊娠初期等はエコー診断のために端子を膣に入れられたり
と、
妊娠するまでは想像すら出来なかったあんなことやこんなことをされなければいけない・・・・・・。
それが必要なことだと分っているから黙っておとなしくしているけれど、
黙っているからといって、決して「平気」でいるわけではないんですよ。ねえ、皆さん。
患者は医者をある意味人間だと思ってはいけないんです。
そうじゃないと、恥ずかしさのあまり、ちゃんと診てもらえなくなっちゃいますからね。

とまあ、そんなことなど考えている余裕なんて、この時は無いんですけどね。
G先生といっしょに入ってきた若いもう一人の助産婦さんが、私の右隣についてくれました。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
何度目かの「MAX」な陣痛が終わった瞬間、会陰部に陣痛とは関係のない「ギチッ」という激しい衝撃を感じました
と同時に助産婦さんの「あら、切れないわ。」の声。再びギチッ、ギチッ。バチンッッッ!!
「!!!!!!!!!!!!!!!」
さすがに(悲鳴が出る!)と思ったその瞬間、G先生の「ほ〜ら見てごらん。赤ちゃんの頭が見えるよ。」の声。
一瞬叫ぶのも忘れて急いで目を向けると、赤ちゃんの後頭部が少し見えるじゃありませんか。
頭が出たのでもう力一杯いきんではいけません。そうしないと赤ちゃんが「スポーン!」と飛び出ちゃいますからね。
助産婦さんも「じゃあ、力抜いて。“はっ、はっ、はっ”」と力を抜いたリズムをとってくれます。
ところがここで若い方の助産婦さんが何を間違ったか「はい、いきんで。」と言ったものだから、
こちらも(あれ?)と思い、「(いきむのかいきまないのか)ど、どっち?」と聞いたんですよ。
そしたら今度はメインの助産婦さんの方が勘違いして、
「う〜〜〜〜ん、優しい顔してるから、女の子かな〜〜?」なんて間抜けな会話があってみたり。

「よ〜し、そろそろいくか。」とG先生の声がしました。
「は〜い、見てて、生まれるよ〜。」の言葉と同時に、
G先生が私のお腹の上に両手を置いて「ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜」と体重をかけました。
そのとたん、つるつるーっと赤ちゃんが出てきたのです。
「!!!」

マタニティー雑誌の記事や産婦人科の母親学級で見せられたお産のビデオでは、
生まれた瞬間の赤ちゃんというのは、結構胎脂が付いていたり血が付いていたりして、
御世辞にも実の親以外の人間には「かわいい」とか「きれい」とか思えるようなものではないなあという印象がありましたが、
今生まれてきたわが子には胎脂も血もほとんど付いていないように見えたうえ、
窓を背にしていたせいもあって後光すら放っているように見えました。
「やっと会えた。やっと会えた。やっと会えた。」
会陰切開の痛みもこの時は忘れて、赤ちゃんの泣き声を聞いていました。

やれやれ、やっと生まれましたね。赤ちゃんが出てきたんだからお産も終わりだ、と思うでしょ。
ところがそうじゃないんですよ。
ではこの後いったい何があったのか。人によってはこれからのほうがもっと大変というお話は、次でいたしましょう。

(99/12/12)

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