中編


「ねえ、カカシ。あんた、最近彼女ができたでしょう?」紅が単刀直入に尋ねた。

「え。なんで?」

カカシは途端に挙動不審になった。視線は泳ぎ捲り、もじもじと体をくねらせる。ベストの端っこを指先で揉み洗いするように弄るカカシを、紅は鬱陶しいと思った。会話を続ける気力が萎えそうになるのを叱咤しながら、紅は言った。

「あんた最近格好良くなったもん。素敵な彼女ができた証拠よ。」

素敵な彼女、とカカシは小さく自分で繰り返し、顔をだらしなく緩めた。

「うん、そう。とても素敵な人だ〜よ。俺には勿体無いっていうか。とっても可愛くてね、優しくて、料理が上手で....(延々)」

予想外に惚気話を長々と続けるカカシに、紅は内心ケッと唾を吐いていた。

他人の惚気話ほど、おもしろくないものはないんだっつーの!

「もう分かったから、カカシ。今度私に、その素敵な人を紹介してちょうだいよ。」

紅が引き攣った笑顔で、カカシの機関銃トークにようやく口を挟むと、カカシの眼光が突然鋭くなった。

「駄目駄目!そうはいかないよ、紅。あの人にお前は近づけさせない....」

何故かカカシの背後に青白いチャクラがゴオッと立ち昇った。

ちょっと、何なの?怖いよ、この人。

紅はカカシの殺気に血の気が引いた。こんな狂人を相手にしている場合ではなかった、と紅は後悔した。

そうよ、カカシの親しい人に訊けばいいのよ!

そんな人いるのか、と思うのだが紅には心当たりがあった。

あの中忍先生に訊いてみよう。






紅は小洒落た家庭風仏料理の店の前にいた。心当たりの中忍先生、海野イルカと待ち合わせなのだ。
アカデミーの前で待ち合わせでもいいではないか、と紅は思うのだが、イルカが、このことは内緒にしたいので、と声を潜めていったのだ。

は〜ん、この中忍にも恋人がいるのね。

紅はピンと来た。こんなもっさりとした男まで恋愛を謳歌している、と思うと紅の心はささくれ立つのであった。

でも、今は取りあえず、カカシのことよ!

紅が苛々とイルカを待っていると(といっても紅が早く来すぎただけで、イルカは遅れていないのだが)、紅先生、と自分を呼ぶ声がしたので紅は振りかえった。

するとそこには。

「....え?イルカ...先生...なの?」紅はドキンと胸の高鳴りを感じた。

そこに立っているイルカは受付所で会うイルカとは全く違っていた。
解かれた黒髪が艶やかな光を放って、流れるように肩に垂れていた。
その長い髪はイルカの顔に陰影を作り、イルカの表情を繊細で深いものにしていた。
しかも忍服で来るだろうと思っていたイルカは、私服姿でやってきた。
またその服がとても似合っているのだ。サファリカラーのジャケットとズボンをルーズに着こなすイルカはとても決まっている。
ややもすれば、だらしの無い印象になってしまうのに、イルカは洗練された雰囲気を醸すことに成功している。
ガッチリとした男らしい肩幅と、その着こなしとが相俟って、イルカに何とも言えない男の色気を感じた。

か、格好良い....!

決してハンサムではないけれど、女好きのするタイプだ。紅は忍服で来た自分をとても恥ずかしく思った。

い、いや〜〜〜〜!!私、なんでこんな格好で来ちゃったの!?

「どうかしましたか、紅先生。」

イルカが気遣わしげに紅を見つめる。

「え...えぇ。イルカ先生が私服で来るなら、私も私服で来ればよかったな〜と思って。」

イルカに見つめられて紅はどぎまぎした。イルカは紅の言葉に目を細めると、ふわりと笑顔を浮かべて言った。

「紅先生はどんな格好でも素敵ですから、大丈夫ですよ。」

なんちゅう歯の浮く台詞なんだ!と紅は思いながらも、ポ〜ッとしていた。
紅は最早カカシのことなんて頭の中に無かった。目の前にぶらさがった自分の幸運に我を見失い始めていた。

...メルヘ〜〜〜ンゲットオォォ〜〜〜!!!!

紅は心の中でガッツポーズを決めた。

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