後編


その後イルカと紅は、待ち合わせをした小さな家庭風仏料理の店に入った。イルカが、ここは鴨肉のポルト酒風味が美味しいといった。紅がお任せすると言うと、イルカは慣れた様子で料理とワインを注文した。
紅はその様子を見て、そういえばイルカは彼女持ちかもしれなかったのだ、という事実を思い出した。だが、そんなの関係無い、と紅は不敵な笑みを浮かべた。愛は争奪するものなのだ。特にイルカの様な男を巡っては、熾烈な争いがあることは当然と思う。自分からはあまり言い寄ったことの無い紅だったが、自信はあった。

だって私はミス木の葉!

だがそれは20歳の頃の話だ。それから7年も経っていることや、イルカよりも年上という都合の悪い事実には目を瞑ってしまう紅だった。運ばれてきたワインを楽しみながら、紅はさりげなくイルカに訊いた。

「イルカ先生って、こういう所に慣れてるのね...彼女と来るの?」
「彼女なんて、いませんよ。」
「嘘。もてると思うもの、イルカ先生。ねえ、白状しなさい。本当は凄く、もてるのでしょう?」
紅はそう言って妖艶な笑みを浮かべた。誤魔化すことを許さない微笑だった。

「...紅先生、今日は何かお話があるんじゃないですか?俺のことを聞いても、大しておもしろくありませんよ。」

やんわりとかわすイルカに、紅の心の炎はめらめらと燃え上がった。

やるわね、イルカ先生!でも絶対白状させてみせる!

紅は自分の服の裏に隠された、薬の包みをこっそりと取り出した。その正体は....自白剤。
目的のためには手段を選ばない紅だった。



格好よくても、所詮中忍のイルカは紅の卑劣な罠にすぐにひっかかった。隙を見てワインに混ぜられた薬に気付くことなく、それを飲み干した。そして今いい感じにその効果が現れ始めている。紅はごきゅりと喉を鳴らして、いよいよ本題に入った。

「イルカ先生、私の質問に正直に答えなさい。あなた、もてるんでしょう?」
「はい...」やっぱり!
「現在彼女いるの?」
「...いません。」えっ、いないの?よっしゃああああ!
「どんな女の子がタイプなの?」
「どんな女の子って....」イルカは言い淀んだ。そして次に衝撃の告白をした。
「紅先生みたいな人です...」

なにいいいぃぃぃ....!?

リンゴーンと愛の鐘が紅の頭上で高らかに鳴った。神様、ありがとう...!

「イルカ先生!私達、つきあいましょう!私もあなたがタイプだわ!」興奮して鼻息荒く詰寄る紅に、しかしイルカはあっさりと言った。

「駄目です...付き合っている人がいます...」

はあ!?なんじゃそりゃあ!?「だ、だって、さっき彼女いないって...」

うろたえる紅にイルカは止めを刺した。

「彼氏が、いるんです....。」

.....はい?

その時料理店の扉がバーンとものすごい勢いで吹っ飛んだと思うと、弾丸の如く黒い影が転がり込んできた。

「うわああああ〜〜〜ん!!イルカ先生っ!な、何してるんですか〜〜〜〜!?こ、恋人の俺を差し置いてっ!浮気、これは浮気ですね!?」

大泣きしながらイルカに縋りつくその人物は、なんとカカシではないか!!

紅は血の気がサーッと引いていくのを感じた。まずい、まずすぎる。カカシの恋人はイルカだったのか!今回のカカシは恋人に怖いほどマジだとこの前感じたばかりではないか!ああ、カカシのお手つきだったとは!こんないい男が!カカシの!いや、問題なのはそこではない。そのカカシの大切な恋人に....

く、薬盛っちゃった...

しかも近付いたらコロスみたいなこと、言ってなかったっけ?ど、どうしよう、ばれたら絶対殺される!!

カカシは尚もイルカを揺さぶっていた。

「イルカ先生はいつも女といちゃいちゃしてッ!俺より紅の方がいいんですね!?」
「いいえ。カカシ先生の方が好きですよ。」あっさり答えるイルカにカカシの顔がボッと赤くなる。
「イ、イルカ先生...?ど、どうしちゃったの?」いつもそんなこと言ってくれないのに....とカカシはしどもどした。
自白剤の効果がいい方向に向かっている、と紅は思った。

このどさくさに紛れて、とりあえずこの場から逃げよう。

そろりそろりと後退る。

カカシはさっきまでの剣幕は何処へやら。でれでれとした調子でイルカを質問攻めだ。

俺のこと、どれくらい好き?
どこが好き?どうすればもっと好きになってくれる?

それに素直に答えるイルカにカカシは甚くご満悦の様子だ。
ようやく入り口まで辿り着いた紅の、逃げ出そうとするその背中にカカシの冷ややかな声が届いた。

「次やったら、絶対殺すよ?」

こくこくと頷いて紅は脱兎のごとく逃げ出した。

あんなカカシに、あんな素敵な恋人が。
そして自分は振られんぼの上に、カカシに命まで脅されている。
しかもどう考えても、自分はカカシ以下の烙印を押されてしまった!!

うわあああ〜〜〜ん、カカシの馬鹿野郎〜〜〜〜!!

聞かれると怖いので、心の中で泣き叫びながらも、紅はリベンジを心に誓う。
その辺がカカシと同じ孔の狢なのだと、紅は気がつかないのであった。


           終り
           


ひいいいい〜〜〜!
何この話!?駄目カカシはいいとして、漢イルカではなくホストイルカの間違いでは...!?
しかも紅先生はこんなんじゃない〜〜〜!!(夕陽ダッシュ)
これが妹のリクでよかった!これでいいとしてくれ、妹よ。