デジタル制御6chマスターボリュームの製作   最終更新 令和2年1月13日

マスターボリュームとは
 システム全体を音量制御する事ができるボリュームの事を言いますが、例えば、32ch入力音響調整卓が有ったとしますと、それぞれの入力を操作すれば、それでも音量が調整できますが、32ch全てを違うレベルに再調整するのは、大変な作業になります。32chは、個別に調整しておいて、そのバランスを保ったまま、フェーダー1本で音量操作ができるよう配慮されたのが、マスターボリュームです。マルチアンプシステムでは、音をそれぞれのスピーカーに合わせて帯域分割し、別々のパワーアンプで鳴らします。従来のアナログ時代は、プリアンプのボリュームを操作し、必要な音量を得ていました。デジタル音源は、DA変換で、ビットロスなくアナログ変換すれば、最高の音質となりますが、音源は、最大音量を送ってきます。その最大音量のまま、パワーアンプからスピーカーを鳴らせば、パワーアンプの出力は、飽和しきった値になり、スピーカーは、焼損します。
 フルビット時のデジタルチャンネルデバイダーの出力は、+22dBs〜+24dBsで、これに対して、パワーアンプの定格入力は、0dBs(0.775V)〜+4dBs(1.23V)です。アンプの定格入力は、最大出力での入力値なので、完全に過大入力となり、チャンデバ出力から、18dB〜24dB減衰させると、ようやく最大出力まで落ちますが、そこから更に、30dBほど絞り込んだ辺りが、常用音量となります。この音量ポイントで、如何に良質な音を出す事ができるかが、マスターボリュームの機能に求められます。

6連マスターボリューム

 チャンネルデバイダーは、簡易型2WAY 普及型3WAY 高級型4WAYというような分類になるかと思います。DCX2496や、VENU360などのデジタル3WAY機の出力をパワーアンプに接続する際の音量コントロールは、2ch x 3WAYの合計6連動するマスターボリュームが必要となります。

マルチアンプシステムの調整
 マルチアンプシステムでは、使用スピーカーの能率に応じて、微妙なレベルセッティングを行います。微妙になるのは、スピーカーがアンプのように完全フラットな周波数特性を持っていないからで、単純に、カタログデータの能率差で補正したぐらいでは、システムとして、最適な音のバランスを発揮できないからです。調整時の音量は、聴感がフラットに近い、85〜90dBが適切です。それ以下の音量では、低域の聴力感度不足により、低域を強調したセッティングになりやすく、ここをヒアリングだけでやると、適正音量時に、低音が出すぎる結果につながります。このような、聴感補正を積極的に行う、Y社のコンティニアスラウドネスコントロールは、非常に理に適ったものです。しかし、残念なことに、スピーカー自体が低音を強調し過ぎた製品が多く、それらと比較すると正しく調整されたマルチアンプシステムが、低音不足と評される事になります。マルチアンプシステムの低音は、非常に締まった低音で、時に過制動と言われますが、LCネットワークの低音とは、全く異なった音なのです。レコード芸術的な音を求めて、ブヨブヨの低音で満足するのか、生演奏に足を運んで、その音を再現するのか、折り合いを付けねばなりません。
 過制動気味の低音は、ウーハーの低域特性を見れば、当然理解出来ると思います。ウーハーのその下にサブウーハーを入れて、落ちっぱなしの低域を、よりフラットに近くすると、過制動な音でなく、大砲の発射音のような、音が出るようになります。と、そのように、非常に大切なレベルセッティングを崩さないで、音量を調整するには、チャンネル数の応じた多連ボリュームが不可欠となります。

モーター付き6連ボリューム2009/02/15
アナログボリュームからデジタル制御電子ボリュームへ
 現在、アルプス製6連ボリュームは、国内では入手できなくなりましたので、機械式ボリューム以外の方法を考慮してみました。そこで着目したのは、シリアルデータで動作する、IC化された電子ボリュームで、JRCのMUSES72320やテキサスのPGA2311PAです。最大減衰量、クロストーク特性、歪率、周波数特性等で、ロータリーボリュームに匹敵し、しかも、マルチアンプシステムで重要な、チャンネル間の偏差も非常に少なく、理想的な部品です。今のところ、AVアンプなどに内蔵されていますが、チャンネルデバイダの出力側で使用できる市販品は、今でも有りません。基板レベルでの頒布といった形態での入手となり、完成品が無いので、普通のオーディオ愛好家のレベルでは、手に負えません。自作マニアぐらいのレベルで手に負えるよう、以下に詳しく解説することとします。
 参考となる定格 Alps によれば、ロータリーボリュームでは、最大減衰量 70dB(5kΩ)〜100dB(100kΩ) 偏差3dB 高音質用で120dB 偏差2dB 参考資料 RMP_RK16.pdf(Alps)
            MUSES72320 最大減衰量 111.5dB ch間利得差 ±0.5〜1dB 31.5dB増幅可能 参考資料 MUSES72320_J.pdf(JRC)
            PGA2311PA  最大減衰量 95.5dB  Gain Error ±0.05dB   31.5dB増幅可能 参考資料 pga2311.pdf(Texas)

Stereo Audio Volume Control
 JRC MUSES72320は、電源電圧は、±18V、0.25dBステップ、1個\2,500で、外付けのOPアンプを使用します。性能だけで考え、簡単に製作できるのならMUSES72320を選択したいのですが、難易度が高そうであきらめました。
難易度が高いのは、SOPパッケージで半田付けがしにくい事と、コントローラーに、オーディオとは違った知識が必要という面からでしたが、平成25年11月現在で、秋月より、これをクリアしたキットが発売されており、期待ができそうです。金額的にもMUSES72320とコントローラーIC付きで1枚¥4,200です。可変ステップが2dBなので、精密さでは劣りますが、手軽に高性能なボリュームが製作できます。

PGA2311PAを選択
平成23年の製作で、実際に使用したのは、回路構成がシンプルな、Texas(Burr-Brown)PGA2311PAです。入手しやすく、DIPパッケージであったのも魅力でした。このICのファミリーは、PGA2310,PGA2311,PGA2320等があり、その中からPGA2311PAを選択したのは、入手のしやすさ、DIPパッケージ、残留雑音などの条件からです。電子ボリュームは、ロータリーボリュームのようなパッシブ素子ではなく、アクティブ素子なので、雑音を発生します。この雑音は、ボリュームを絞っていても、常にパワーアンプへ出力されていますので、できるだけ小さい方が望ましいです。
 残留雑音 MUSES72320 
1.26μV PGA2310 9.5μV PGA2311PA 2.5μV PGA2320 10.5μV
 というデーターシートの数値で、MUSES72320が最良なのですが、PGA2311PAでも、それほど劣ってはいません。
2310や、2320は、電源電圧が±15Vで、高い出力電圧にも対応できます。しかし、デジタルミキサー01V96V2から出力される、14Vrmsを扱う場合、39.5V(P-P)という電圧となり、効率100%としても、電源電圧±20Vが必要となります。これは、MUSES72320の絶対最大定格に匹敵します。ということは、MUSES72320といえども、過大入力を避ける為、入力アッテネータが必要ということになります。±15V、±5Vならば、なおさら必要で、動作電圧±5VというPGA2311PAを使用するにあたって、動作範囲の適正化は、最大の要点です。
接続するデジタル機器が、デジMAX(0dBFS)の出力の場合、
入力アッテネーターが無い電子ボリューム回路は、入力に起因する歪みが発生します

常用音量で、必要なレベル
 ここで注意すべき点は、マスターボリューム後のパワーアンプ定格入力が、それほど高い入力電圧を必要としない事です。販売店がハイパワーアンプの良さを強調するので、大半のユーザーは、そちらに流れますが、必要な聴取音量は、85〜90dBであり、ドーム型3WAYクラスの能率は、90dB/W at 1mです。アンプ出力1Wで必要なレベルに達します。1m離れての音量なので、もう少し上げるとしても、10Wも有れば十分です。アンプ出力がきりの良い100Wならば、すでに、-10dB余分となりますので、マスターボリュームは、最大に上げても、-10dBまでとなります。残りの-10〜0dBの範囲は、ただの余裕に過ぎず、そのアンプでは絶対に出さない出力域となります。
 
100Wアンプを使って、最大音量が、-10dBならば、常用域は、そこから-20dBした辺り、回転角で、半分に到達しない位置であり、電圧値としては、100mV前後です。


コントロールについて(以下はすでに絶版となっていますが、次システムへの参考にしてください)  令和2年現在でも製作できる6連ボリューム製作例は、こちらへ
 製作をするにあたって、検討したのは、コントロール性能です。ロータリーエンコーダーでぐるぐる回しながらコントロールするのか、旧来型のボリュームを回してコントロールするのか、まずはそこからのスタートです。赤外線リモコンにより、遠隔操作にもこだわりました。結局は、本体からはロータリーエンコーダー24ステップクリック付で行い、赤外線リモコンに対応し、現在の減衰量が分かるように、減衰量をLEDディスプレイで表示するという仕様です。
 購入した基板類と、マルツで購入したPGA2311PA
2011/06/22

PGA2311を使用する場合の注意点(ここがミソ)
 PGA2311PAは、定格電源電圧が±5Vと低く、定格上のノンクリップ入力は、2.5Vrmsまでです。ゲイン0dBの状態で、デジMAX0dBにおけるDCX2496の定格出力+22dBu(9.76Vrms)を受けるには、11.8dBのアッテネータが必要となります。これを備えておかないと、CDなどのデジタルソースDA変換出力の場合、入力オーバーでかえって歪みが増大します。カタログ定格によれば、ベリンガーなどでは、デジMAX0dB時は、+22dBuですが、YAMAHAなどでは、+24dBuとしていますので、更に2dB多く減衰させなければなりません。平成24年版では、PGA2311PAを低インピーダンスで駆動する為に、入力にマイナスゲインの差動増幅器を使用し、平衡入力かつ、シングルエンド出力に対応し、駆動インピーダンスを47Ωという低い値にしました。差動増幅器の利得-13.2dBで設計しました。

2011/06/23

コントローラーのコントロール範囲は、最低-96.0dB〜+31.5dBまで0.5dBステップとなっています。
参考までに、デジタルミキサーYAMAHA 01V96V2のマスターボリュームの場合 ∞、-138dB、-132dB、-126dB、-122dB、-120dB、-118dB、-116dB、-114dB、-112dB、-110dB、-108dB、-106dB、-104dB、-102dB、-100dB
-99dBから-78dBまで、1dBステップ、その次は-77.2dBというように順次ステップが小さくなり、0dB近辺では、0.05dBステップとという可変ステップ仕様となっています。

 使用中アンプのクリッピングポイント
2011/12/15

 PGA2311PAを使用した、6chマスターボリュームを0dBで使用した場合、125Hz 0dBのデジタル信号において、Lowチャンネル パワーアンプ部入力ボリュームは、8Ω負荷時、-9.8dBの位置で、クリップしました。公称インピーダンス8Ωというスピーカーが最も低いインピーダンスになるのは、100Hz〜800Hzまでのごく一部の領域だけで、それ以外の帯域でクリップする事は無くなります。ホーンスピーカーを使用した、MID、HIGHチャンネルでは、音量のバランスを取った場合、LOWより低くなりますので、こちらもクリップしなくなり、スピーカーの破損原因を減らすことになります。上のような100W級アンプでは、クリッピングポイントを確定するには、波形を見なくても、無負荷で28Vrmsとすれば良いでしょう。

デジタル制御電子ボリューム製作着手

 タカスのプリント基板 IC-701-74にPGA2311PAなどを組込みバラック状態でテストを行いました。メーカーデーターシートの回路図通りに組んだ場合、最初のPGA2311PAは設定通りに動作するが、チェーンしている、次段以降のPGA2311PAが出力しないでミュート状態で立ち上がり、ボリュームの設定値を一度だけでも変化させると、正常に出るという状態となりました。これでは電源投入時に必ずボリュームを操作しなければならず、不便であるので、制御している3線(CS SD SCLK)を完全に並列接続を行い、無事に連動動作することが確認できました。データーシートの回路図では、SDは、SDIに入力し、SDOから次のICのSDIへの接続を行うとなっていますが、それに従う必要はなかったようです。
使用したタカスのプリント基板 IC-701-74は、2.54mmピッチのユニバーサル基板で、DIPパッケージのICがそのままハンダ付けでき、電子回路試作に重宝しています。若松通商やマルツで入手できます。

タカスのプリント基板 IC-701-74 パターンと部品配置例


 上図は、実際に製作したOPA2134PA平衡入力仕様のボリューム用バッファアンプ2ch分の配置図で、3穴パターンに抵抗やコンデンサを配置し、パターン同士の連結は、0.65mmスズメッキ線で、誤配線時に抜きやすくする為、丸みをつけて接続します。部品だけ揃えれば、配置を決めずに、いきなり製作も可能で、数10年間愛用してきました。注意点は、アース部と電源部のパターンの距離が短いので、ハンダ屑などで短絡しやすいのと、鏝の温度に注意して、確実にハンダ付けをしないと、接触不良による、原因不明の故障が起きやすい事です。キットとは違い、誤製作時に、修理技術が無いとリカバリできません。

マスターボリューム背面のコネクタ類で、プロ音響で実績の高いノイトリック製キャノンコネクタを使用しています。ACは、AVアンプなどに見られる2Pではなく、プロ音響機器定番の3Pを使用し、電源コードの緩みや、抜けを防止しています。
XLRコネクタは、ITTのスモールフランジ F77シリーズならば、取付穴の加工がしやすく、自作向きですが、取付ネジが2.6φになります。

2011/07/14

 2011/07/24

パネル面 左からロック付き電源スイッチ、コントロールレベル表示、ミュート表示及び、手動ミュートスイッチ、ボリュームコントロール用ロータリーエンコーダー
赤外線リモコンは、SONYのTA-333ESJ用の物を使用し、モーメンタリー制御 2chで、ステップ単位のアップダウン、オルタネート制御 3chで、連続アップ、連続ダウン、ミュートを制御しています。ミュートは、電話が着信したときや、アンプの入力コネクタの差し替え時、便利に使えます。
6個並んで見えるカップリングのMUSEコンデンサは、LOW用2ch分は、超低域の位相特性を改善する為、DCから増幅できるように、後に直結としました。

製作結果
チャンネル間利得偏差 ±0.01dB以内 利得誤差 0.05dB以内(-15dB〜+11dB) 最大出力電圧 +10.84dBm 雑音出力-90dBm以下 という測定結果です。
周波数特性は、DC〜1MHzまでフラットです。デジタルマルチメーターの測定範囲を越えてフラットである事はオシロスコープで確認できます。100kHz矩形波も怪しい波形崩れは無く、減衰特性、クロストーク特性とも非の打ち所が有りません。。
音量を変えたときの定位の変化は皆無であり、クリックノイズ等も認められませんでした。オーケストラの定位が抜群に良くなり、各楽器の分離も申し分ありません。


 使用中のデジタル制御6ch電子VR 1号機 2011/09/05

電子ボリュームと機械式ボリュームの比較

アナログボリューム最終版、FET入力OPA2134PA(平衡入力)6chマスターVRの写真です。右側に、アルプス製モータードライブ式6連ボリュームが見えます。ケースは、タカチ電機工業 WS70-43-23B
 機械式ボリューム 最終製作品
2011/09/01

   抵抗値   出力値   使用帯域  電子VRの場合の偏差
 1 96.62kΩ -27.28dBm MID +0.003dB
 2 90.17kΩ -26.29dBm MID -0.009dB
 3 91.39kΩ -22.74dBm LOW +0.003dB
 4 84.46kΩ -22.05dBm LOW +0.001dB
 5 85.96kΩ -23.30dBm HIGH +0.001dB
 6 89.97kΩ -23.36dBm HIGH -0.0007dB

 上の表は、機械式ボリュームのユニット間の誤差(ギャングエラー)を測定したものです。+20.6dBmを入力し、約40dB以上絞り込んだ時の出力値です。抵抗値は、100kΩという定格値に対して、ボリューム抵抗値の実測で、84〜96kΩまでのバラツキがあります。少しは有るだろうと想定していた、連動誤差は、-40dB絞り込みでは、6dBにも達して予想を上回り、隣chへのクロストークが29dBと大きい事が判明しました。低音量域の誤差については、一番大きい出力chを低音用とし、一番小さい出力chをMID用とし、音量差をラウドネスコントロールの代用とすることにしました。クロストークは、電圧増幅を行うFETですので、誘導に強くなるように、ボリュームの前にも、バッファアンプを付加し、低いインピーダンスで、ボリュームを駆動するようにしました。なお、ボリューム前のバッファは、バランス−シングルエンドコンバータによる平衡入力とし、160kHzから上の帯域をCR1次フィルターを構成して、カットしています。こうした取り組みにもかかわらず、クロストークは、デジタル制御式より多く、連動誤差と共に、電子ボリュームの方が性能が良いという結果となりました。機械式ボリュームのクロストークは、矩形波の立ち上がり部分や、10kHzなどの高い周波数で顕著に観測されます。右端は、平衡入力対応に改造した電子ボリュームの実測値で、0dB1kHzでの値です。最悪値で-0.009dBとなっており、もはや精度に気を使う必要がありません。
下は、ボリュームをMINからMAXまで動かし、各チャンネルとの誤差をグラフにしたものですが、おおよそ、-20ポイント以上からは、実用になりそうですが、-20ポイントは、MAXから-30dB絞り込んだ所で、常用レベルに相当します。特性の安定する、中央より上は、音が大きくなりすぎ、使用できない領域です。


ボリューム位置による、クロストーク量
音響調整卓の動作点検で気がついていましたが、スライドボリュームでは、下の方から中点までの間で、高い周波数成分が漏れます。矩形波を通してみると、赤の部分では、立ち上がりの角が、かなり大きくなって波形が崩れます。
ロータリーボリュームでは、前段の出力回路の押さえが効くMINとMAX側はクロストークが少なくなりますが、よく使用するセンター付近では、かなり大きなクロストークがあります。電子ボリュームでも、同一チップ間で、10kHz以上の高い周波数でクロストークは起きますが、ごく僅かな量で、距離の離れた、チップ間では、ノイズレベル以下となります。

スライドVRの矩形波出力 2015/10/19
6連アナログボリュームのクロストークの周波数特性で、高い周波数ほど大きくなっています。


2号機を平衡入力に改造
 
 2号機を、次号機製作の為に、平衡入力に改造しました。 2012/10/10

平衡入力のICは、ナショナルセミコンダクタのLME49720を使用しましたが、製作のミソは、使用した抵抗で、F級金属皮膜抵抗を、デジタルマルチメーターの最後の桁まで合わせました。差動増幅器の性能を0.0005%という抵抗精度で、高CMRRを確保しました。基板は、ユニバーサル基板 ICB86G を使用し、千円台の制作費です。
基板配置図と回路図

回路利得は、実測で-12.5dBです。これにより、2.5Vrmsしか出力できないPGA2311PAを、デジMAXまで歪まないで制御できるようになります。
アッテネーター動作のシングルエンドコンバーター製作記事は、他に見当たりませんが、歪率、SN比とも、測定結果に問題は有りません。2.2kΩが10kΩになると、一般的な推奨回路と同じになりますが、当然、利得は上がります。
デジタルチャンネルデバイダーをフルスペックで使用するには、デジMAXで、ほぼ10Vの出力を、定格入力1.23Vのパワーアンプ間で、音質劣化無く減衰させる必要があります。


2012/10/11
 製作中の基板で、構造がよく解ると思います。入出力はピンヘッダに電線を直付けしています。パターン間のジャンパ線は0.6φスズメッキ線を使用します。何が何でもプリント基板でないと性能が出ないと考える必要はありません。このような基板でも、利得偏差0.001dB以内で、周波数特性も550kHz(-3dB)まで延びています。位相も100kHzまでフラットで、100kHz矩形波もきれいです。これがOPアンプ使用のメリットです。デカップリングの積層セラミックコンデンサは、音質を左右しません。むしろ、高周波特性を改善し、寄生振動による、音質劣化を防止します。

平衡−シングルエンドコンバーターについて
参考例としてよくあるのは、入力抵抗や、帰還抵抗の値を全て同じにした回路ですが、これですと、利得が0dBとして動作します。抵抗の比率を変えて、マイナスゲインを得る事が、参考例としては、滅多に見あたらないので、理論的に可能だとしても、誰もやっていないのかも知れないと思うと不安になります。でも、試作回路にて理論通りに動作する事が確認できましたので、製作を行い、約3年ほど経過しましたが、順調に動作しています。製作当初は、OPアンプをOPA2134として、製作したところ、矩形波の立ち上がりにリンギングが見られ、コンデンサを並列にして、リンギングを防ぐ事となりました。低歪み、低雑音のLME49720に換装したところ、コンデンサ無しでも、きれいな矩形波が通るようになり、そのまま使用する事となりました。
回路シミュレーションソフト 
TINA TI V9がテキサスインスツルメンツのサイトで、無償で入手できまして、早速、シングルエンドコンバーターを試してみました。実際に動いているものだから、シミュレータ上でも動作するのは当たり前なのですが、OPアンプをOPA2134としたら、過渡解析結果でもやはり、立ち上がりにリンギングが発生し、最低でも22pFのコンデンサが必要でした。実際には、100pFを使用して、ちょっとしたLPFとして動作させていたのは正解となりました。現在使用中の、LME49720は、ソフト上には無く、良く似ているLME49860が有り、こちらでも、無補償では、立ち上がりにリンギングが発生しました。実機のLME49720で、そんな波形は見ていないのですが、100pFを追加しました。手持ちの3台全てに、コンデンサを追加して、安定度を上げました。平成27年5月コンデンサ追加及び、残留雑音、SN比、歪率測定
2015/05/15
電子ボリューム0dB時の、残留雑音は、7μVで、SN比は、107dBとなりました。歪率特性は、1V出力時で、0.001%以下です。入力は、+20dBmとしました。


デジタル制御式電子ボリューム3号機
3号機を製作するにあたり、デジタル制御系をオリジナル仕様のフォトカプラで絶縁することとし、デジタル系の雑音低減を図ることにしました。結果は思わしくなく、ICの制御が、バラバラになり、当初1個だけが動作不良を起こしていたので、新品に交換しました。これで3個とも動作すると思っていたのが、当てが外れ、正常動作していた方2個が今度は動作不良となり、何かの拍子に破損させた可能性を考え、全て新品に交換してみました。これでも、動作不良は収まらず、原因を追及する事に。導き出した結論は、フォトカプラで絶縁する事で、パルス波形が鈍り、タイミングズレを起こしていたものと判明しました。そこで、従来どおり、2SC1815で、インバータ回路を組んだら、何事も無かったように動作しました。平成25年7月に、出力回路に抵抗を取り付ける小改造を行いました。これは、出力先にDCアンプが接続される場合、DC電位が不安定になる事を防止するために、5.6kΩを取付けて、直流域で、抵抗が無限大にならないようにしています。LOW出力は直結ですので、47Ωと等価で、パワーアンプから見れば、入力短絡とほぼ同じ条件となります。    回路図    PGA2311PA 6連制御基板 部品配置図

AVマルチリモコン

 使用したAVマルチリモコン AV-R900N オーム電機

 音量を連続でアップダウンするには、音量大小、0.5dBステップでのアップダウンは、チャンネル+−、ミュートは消音等のボタンを使用しました。システム全体の電源は、TOA製電源ディストリビュータPD-15に、ELPA LR-RCAという、照明レール用の学習リモコンを組込んで、上記リモコンの電源ボタンに対応させました。リモコン式コンセントは、送信部と受光部がセットで販売されていますが、他の赤外線リモコンで勝手に切れるという誤動作を起こしやすく、対応に困っていましたが、ELPA LR-RCAではそのようなことがなく、お薦めです。
ただし、製品の改造は、あくまでも自己責任でお願いします。

 電源ディストリビュータ TOA PD-15

イージーオペレーションの要、TOA製電源ディストリビュータPD-15です。3段階 x 5回路で、電源が入り、ミュートの無い機器のON−OFFでも、雑音が出ないようにセッティングできます。他に類似の機械がありますが最近の物は2段階が多いようです。このパネルに穴を開けてリモコンの受光部を組込み、AVマルチリモコンの電源ボタンの信号を学習させて使用しています。ですから、マルチリモコンの電源ボタンを押せば、11台の機器電源が3段階で立ち上がります。あとは、ボリュームと、ミュートの操作ということになります。


令和元年7月 追記
 6chマスターボリュームは、現在も3台動作中で、トラブル無く動いています。しかし、残念ながら、減衰量をデシベル表示できる、コントローラーは、一般的には、入手できない状態です。音量を、デシベルで把握する事は、音響従事者ならば、必須ですが、一般オーディオ愛好家には、おごそかな感じのする、ロータリーボリュームの方が有り難いのかなと思っています。故に、市場として形成されないという現状になっています。オーディオショップで、高級ケーブルを眺めるのは結構なんですが、ロータリーボリュームの高抵抗の炭素皮膜を通過している、音の電子が、抵抗体に激しくぶつかる様を想像したら、かわいそうに感じます。高抵抗、微弱電流の世界を経由してくる音が、低抵抗のケーブル通過で、どれほどの影響を受けるのだろうかと考えてしまいます。

 これから、製作を考えておられる方には、仕様が判りにくいのですが、ebayに、PGA2311 Remote Audio Pre Amp Kit DIY -- ver020309あたりで製作されると良いかと思います。写真で見る限り、入力3系統、赤外線リモコン付き、表示は、入力chと、減衰量で、0.5dBステップと推測します。$37.6プラス送料$7で入手できます。ebayでの、ダイレクトショッピングは、数点行いましたが、到着までに、数週間かかるのみで、日本国内で入手できない物も、世界中探せば、手に入ります。逆に、日本人が、この手のホビー用品が開発できなくなっていて、理系離れの深刻さも感じます。
 dB表示は、音量を把握する大切なパラメーターであり、デジタル音源が、0dBMAX基準なので、そのまま、VUメーターの代わりになり、表示値で、そのまま、音量が把握できます。ボリュームの回転角や、リモコンの数値では、dB直結で音量が把握できません。
 自作時の、表示窓の加工は、一工夫必要でしょうが、多連化するのは、PGA2311のピンに入っている4本線を慎重に並列で配線すれば、6連、8連は可能です。この手法で、現在も、3台の6chマスターボリュームが動作しています。

 並列にする、制御線 ACS BSDI ESCLK GMUTEです。 音量設定は、CS、SDI、SCLKですが、MUTEがあると、リスニング中の電話応答時などに、重宝します。もちろん、スピーカーの接続替えでも、アンプを切らなくても、MUTEすれば、無事故で作業できます。
回路図では、少し複雑になっていますが、コントローラーの仕様が、フォトカプラーであったのを、2SC1815のインバーターに換えたからです。PGA2311のデータシートで、チェーンするには、SDI〜SDOでとなっていますが、これをすると、使い勝手が悪くなり、普通に並列としました。

 電子ボリューム2ch分を平衡で使用する事は、原理上は可能でも、ゲインエラー±0.05dBによる、CMRRの低下は避けられません。0.05dBは、約0.6%に相当します。F級抵抗より誤差範囲は小さいものの、完全なノイズ除去を目指すには、無視できない値です。F級(±1%)では、51dB 参考資料 TI 社 jajb022.pd。チャンデバが平衡で、パワーアンプも平衡ならば、少しは存在意義も有りますが、コモンモードノイズの減少と、平衡アンプのノイズ上昇と天秤に掛ける必要があります。パワーアンプが、不平衡ならば、電子ボリュームの前で、不平衡にした方が、都合が良く、OPアンプが、バッファの役目もこなしますので、電子ボリュームに対し、理想的なドライブができます。電子ボリューム自体も、OPアンプで出力されていますので、低インピーダンス出力となり、不平衡ラインでも、ノイズを気にする必要がありません。

国内で入手できる、コントローラーPIC12F675とのセットにおける 回路図pic12f01.pdf  基板実装図pic12f02.pdf

 
共立エレショップで、2008年より販売されている、PGA2311PA+コントローラセット CTRL2311 \2,074が現在も入手できます。
これは、プログラミング済みコントロール用マイコンPIC12F675と電子ボリュームIC PGA2311PAとのセットで、2ch仕様です。解説pdfによれば、ロータリーボリューム、ロータリーエンコーダ、赤外線リモコン等の外部接点が使用できます。写真は、ロータリーボリューム仕様で6連動として製作しました。入力は、XLRコネクタで平衡入力です。出力はXLRコネクタなのですが、不平衡で、オーディオ用パワーアンプに適合しました。可変範囲は、PGA2311PAの仕様どおり、+31.5dBまで、0.5dBステップですが、0dB以上は、SNを悪化させるだけなので、別に半固定抵抗を付けて、0dBまでの範囲にしています。このコントローラセットは、LED表示がなく、調整値が読めないので、このような配慮をしました。ユバーサル基板の空き部分にまだPGA2311PAを組込可能で、さらに、8連、10連も可能です。連動誤差は、手持ちのチャンネルデバイダー経由、常用音量域で±0.01dB以内と、連動誤差が極めて少なくなっています。完全平衡ではないので、高級フルバランスアンプには、対応しませんが、そのようなアンプをお持ちのハイエンドマニアならば、DF-65が購入できる筈なので、このような作り物は必要ないでしょう。あくまでも自作能力の有る方を対象としています。パワーアンプは、是非とも、A級小出力アンプを製作してください。低雑音、低歪率さにきっと満足できると思います。解像度抜群の定位感が得られます。
 ツマミが付いているが制御用ボリュームで、これ1個で、6ch連動です 2019/12/16
 XLRコネクタによる、信頼性と、ミューティングや、停電検出などの機能も含めていますので、実用性が高い物です。DCX2496は、+22dB出力なので、平衡−シングルエンドコンバータをマイナスゲイン(-13dB)にしています。入力抵抗は、10kΩです。VENU360では、+4dB出力が選択できますので、入力抵抗は、2.2kΩとし、教科書どおり(0dB)の入力回路になります。ここの、2.2kΩ、10kΩは、CMRRに関係しますので、必ず抵抗値選別したものを使用します。絶対値が合わなくても、分圧比が重要なので、それを精密に合わせます。VRIC出力の直列抵抗47Ωも抵抗値を精密に合わせておくと良いです。抵抗は、1/4W金属被膜抵抗を秋月で100本単位で購入しました。停電検出は、簡単になるようAC100Vリレーで行いましたが、電源トランスの巻線が余っていますので、電子的に、停電時ミュートをかける事も可能で、工夫してみてください。

ユニバーサル基板での製作のこつ
キット化されたプリント基板での製作は、部品の差し間違いや、半田付け不良に注意すれば、無難に製作できます。しかし、ユニバーサル基板では、作り始めのハードルは低いのですが、配線ミスは必ず起きますので、段階を付けられる場合は、区切り毎に動作を確認するとトラブルが少なくなります。

ICソケット使用
電子ボリュームICは、ソケットを用いて、基板完成時は、2ch毎テストをすると、間違いが発見しやすくなります。2ch確認後、1個ICを追加して、4ch分完了、さらに、もう1個追加で6ch分というような段階で行うと良いでしょう。

定電圧電源
 定電圧電源は、別基板の方が、良いのですが、負荷無しで通電し、出力電圧を確認し、電源を切った状態でボリューム基板に接続しますが、片電源動作にならないように注意します。ユニバーサル基板に組み込んでも良いのですが、ヘンなループができて、ノイズが乗った場合、収拾が付かなくなります。ネットオークションにて、1000円ぐらいで、部品付きが入手できますが、性能的に何の問題もなく使用できますので、お奨めです。

電線半田付け
半田付け不良は、配線後に発見する事が大変困難ですし、動作不安定の原因にもなります。特に電線の直出し箇所は注意が必要で、一見半田も乗っており、電線を引っ張っても、抜けないのですが、実は半田付け不良となる場合があります。被覆が溶けない範囲で、半田が電線に十分吸い上がるまで、加熱をします。電線径は、0.3SQぐらいが、機械的強度があり、適しています。上の例では、
0.3SQ8芯ケーブルを多用しています。一発で製作が完了すれば、良いのですが、何度も基板の確認をしていると、細い線では知らぬ間に断線する事があります。
上の例では、ピンモールドに電線を半田付けしていますが、直出しの断線トラブルを避け、一見で、配線の良否を確認する為です。と同時に、半田付けが下手ならば、ここがお試し練習台になり、綺麗に仕上がる腕前なら、できあがる物の信頼性が高まります。絶縁チューブを入れておくと、完成検査時に、テスター棒や、プローブでの短絡事故が起こり難くなります。絶縁用熱収縮チューブは、誤配線を考慮して加熱しないで使用します。
ジャンパー線は、0.6〜0.65φスズメッキ線を使用し、基板の裏では、なるべくジャンパせず、視認しやすい表面でやっておくと、誤配線の確認がしやすくなります。メーカー基板のように、直線的にジャンパーしないで、ループ気味にすると、抜きやすくなります。

シールド線
シールド線の網部分は、ヒゲが出やすく、誤動作の原因とならないよう、絶縁用熱収縮チューブを被せます。配線には、ビニルテープを使用しないでください。巻いた時は良いのですが、後で、ベトベトになり、修理や改造時に収拾が付かなくなります。
シールド線は、製作の良否に直結しますので、良質で、仕上がりの良い物を使用します。オヤイデで、平河電線の音響卓配線用の
単芯HC-2L1 @\130、2芯HC-2L2 @\160を購入しています。

結束
配線の結束は、インシュロックより、ビニルひもが適しています。一巻購入すれば、一生分あり、1000円以下で入手できます。上の物は
大洋化成 1.0φビニール結束線、モノタロウで購入しています。振動でうるさく言うならば、しっかりと結束します。

以上の方法で製作すれば、数10年は、確実に使用できます。最近の複雑で、糸のように細いパターンを使用したメーカー製品のように、数年で壊れる事はありません。
タカスや、サンハヤトのユニバーサル基板は驚きの低価格、ロングな製品寿命です。
部品代はそんなに高く無いのですが、マルチシステムの完成度の高さからみれば、重要な機器であり、立派なケースに見合う価値があります。外観を決める、ケースや足(インシュレータ)は、奮発してください。


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