『爺(じっ)ちゃんからの直伝・文化社会学の極意』
「ごく単純な動物ということで、森の中に棲むダニと比較してみることにしよう。ユクスキュルの
著作・『生物から見た世界』に詳しく載っているのだけれども、このダニは目も耳もない。そして、
交尾後のメスのダニは、森の中の灌木の小枝の先まで進むと、そこにぶら下がって動物が下を
通るのをずっと待ち続けるんだよ。」
「目も耳もないのに、どうして動物が来たと分かるの?」
「どうしてだと思う?」
「臭いかな?」
「その通り。哺乳類の動物は人間も含めて、身体から酪酸という物質を出していて、その酪酸の
臭いという刺激に反応して落下するんだ。つまり、酪酸の臭いという特定の刺激が落下を命じる信号
として作用するんだね。」
「それは誰かから教わったの?」
「いい質問だね。それは親から教わったわけではなく、動物の血を吸う行動、地面に落下して卵を
産む行動などすべての行動が、それぞれ特定の刺激に対する特定の反応としての行動なんだ。こう
いう行動の仕方を、普通なんて言う?」
「本能かな?」
「その通りだね。ダニは百パーセント本能、つまり、遺伝的に獲得した行動の仕方だけで生きている
んだ。」
「人間にも本能はあるの?」
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