2004年 秋季第1回山行 山行記

筆者 K・N (1年生)


10月23日
〈1日目〉

 「悪い、これって遅刻?」「いや、まだ15分前だよ」・・・まるで東○ラブストーリーの一幕のような会話が、1年生の男どもの間でなされた。それからまもなく、見慣れた黄色い電車が僕達の待つホームに滑り込んできた。いよいよ秋季第1回山行、鷹ノ巣山への出発である。

 人気のない西武線の車内はもう見慣れたもの。僕達のほかの乗客は2〜3人程度だ。Yなどはシートに横になり完全にリラックス状態。その後、西武の元オーナーT氏の批判合戦を繰り広げ話し疲れたところで拝島に到着した。それにしても西武線の中で西武批判を繰り広げるとは、今考えるとなかなか肝のすわったことをしていたものだ。

 青梅線では、1人の白人女性が僕らの前に座っていた。僕は最初、米軍基地のある福生の駅で降りるものと思っていたがどうやら福生駅をすぎても降りる気配がない。ついに青梅駅で僕達と同じように奥多摩行きの電車に乗り換えた。どうもおかしい。彼女は僕達の左側のシートに座っている。

 僕はYに尋ねた。すると「酒造所に行くんじゃないの?」との答え。どうやらこの近辺に観光名所となっている酒蔵があるらしい。それで、その酒蔵というのが何種類ものお酒を試飲できるらしく、日本酒好きの外国人にはたまらない隠れた名所とのこと。案の上彼女は途中の駅で下車し、奥多摩の緑のなかに姿を消していった。あの白人女性がいなくなった車内で僕は「一期一会」ということばをふと思い出した。

 さて、予定どおり氷川キャンプ場に到着。……した所まではよかったのだが、幕営地の川原におりてビックリこいた。一面に人、ひと、hito……「これじゃあ、テント張れないじゃん」とK先輩。近年アウトドアブームと言われているが、まさかここまでひどいとはまったくもって予想だにしなかった。しかしながらTとK先輩がよい場所を見つけてきて、この場は一件落着となった。

 夕食はチキンシチュー丼。これを聞いてさぞかしヘンな食べ物だと思う方もいるかもしれないが、これがいたって好評。食もどんどん進み、今回ばかりは残飯処理係のTもリストラといったところであろうか。なんといってもYがこの美味さに感動していた。「これはウマい」コールを連発していた。A先生も「やっぱり美味しいと食が進みますな。」と一言。

 午後8時になり、テントの中はみんな睡眠体勢に入った。僕は睡眠状態に入ろうとする脳ミソをふりしぼり、自分に言い聞かせた。「明日は、Yが何度もキツイと言っていた稲村岩尾根のいやらしい登りが待っている。しっかりと体を休めよう」……明日の行程のイメージを思い描いた後、僕は夢に落ちた。



10月24日 〈2日目〉

 携帯電話のバイブレーションの音が、機械的に僕達をたたき起こす。時計にふと目をやると午前4時、まだ外には漆黒の闇が広がっている。……今日の朝食はおしるこ、寒い朝に温かくて甘いおしるこは確実に僕達の体を暖めてくれた。

 さぁ、撤収作業も予定より早く終わりいざ出発。だが、途中ポリタンの給水で立ち寄った水場でそれは起きた。気が付くとYが顔を洗い始めているではないか! さすがにいつもにこやかなA先生も顔を苦くして「おーい、はやくしろよぉー」と言っている。やっと終わったかと自分もザックを背負い始めたとき、僕は神を見た。「おい、歯もみがくのかよ!!」……遅かった。Yはすでに朝日を浴びて気持ちよさそうに歯をシャカシャカと磨いている。もうここまでくると笑うしかない。ああ、神は偉大なり。

 さて、そんなこんなで奥多摩駅から始発のバスに乗車することに。車内では、学院の教師のネタで一同盛り上がる。それにしても不思議である。たいていの話のネタはある一定の時間を越えると盛り下がってしまうのだが、これに関してはどんなシチュエーションでも盛り上がれる。あえて例えるなら、このネタは「きゅうりのキューちゃん」のようなものなのだろう。(相当、無理矢理であるが・・・)

 登山口に到着。これより稲村岩にとりつきピーク、鷹ノ巣山を目指す。ところが最初の1本目で沢のコースどりに手間取ってしまった。どうやら度重なる台風で沢の流れが変わりコースも水の中になってしまったようだ。先を歩いていたオジサン登山者を見ると、わけのわからないガケのような所を登ってしまっている。

 なんとか窮地を切り抜けると稲村岩への急登が待っていた……が案外なんともなくクリア。あっという間に稲村岩尾根にたどり着いた。ここからは、Yとバカ話に花を咲かせていた。(内容はご想像にお任せします)するとA先生から鋭いツッコミが、「君ら、一応早稲田なんだからもっと知的な話はできないもんかなぁ。」「……」 それにしても、いつもよりもTのテンションが低い。そういえば「腹が痛い」なんていってたっけ。少々心配になりつつも山頂に到着。

 ……それにしても山頂は寒い。体感温度としてはマイナスである。しかも180度真っ白の大パノラマ。残念ながら今回もA先生のジンクスは解消されなかった。昼食はパンとコーンスープであるが、ここでもTの様子がおかしい。普段、残飯処理班であるはずの彼がなんとパンを残しているではないか! いつものTではない!! まぁ無理はない、なにしろあまりの寒さで僕のかぼちゃスープなんて飲み終わるころには冷スープになっていたのだから。

 写真撮影の儀をおえて、僕達はさっさとこの極寒の山頂から離れることとした。下っていくうちにTの調子もよくなってきたように見えたので一安心。約1時間30分後、僕達は六ツ石山の山頂にいた。展望がすこし開けていて、ぽかぽかと昼寝がしたいような、程よい日光が雲の隙間からさしている。

 そそくさと、残りの行程を攻めていく。途中、色づいた山々が長い行程の疲れを癒してくれる。……最後の下りで僕は足の爪に違和感を覚え、いったんパーティーに止めてもらった。結局なんともなっていなかったが、原因ははっきりしていた。前日に足の爪を切ってくるのを忘れたのだ。こんな初歩的なミスで行動を乱してしまい、自分自身、非常に反省した。

 僕達は長い行程を消化し、無事奥多摩駅に到着した。

 僕はときたま「なんで山なんかに登るんだろう」と自問自答することがある。しかしながら、まだその答えは出ていない。でも、こうして山に登って経験をつめば何らかのヒントがつかめるのではないかと思う。確かに今回の山行でも少しヒントを得た。
 僕達を乗せた電車は定刻どおり奥多摩駅を出発した。車窓を流れ行く奥多摩の山々は徐々に秋の様相を見せ始めている。自然は大きな時間を刻んでいるようだ。
 

《「稜線」第27号(2005年度)所載》

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