2003年 夏合宿 山行記

筆者 K・I (2年生)


 
今年の夏合宿は、槍沢から槍ヶ岳、雲ノ平、薬師岳と縦走する計画だった。しかし梅雨明けが遅く7月山行が延期されたことで夏合宿の予備日が使えなくなった。また部員の体力不足もあり、これでは計画通りのコースを行くのは無理だろうということで、急遽難易度の低いコースに変更された。

7月27日
〈1日目〉

 早朝の八王子駅に集合。今日は歩行が無いので各駅停車でのんびり松本に向かう。と言っても集合が早くなるだけで松本到着は特急と殆ど変わらないのだが。前回のようなミスも無く、高尾ではKが無事に合流。上野原、甲斐大和、塩山と、これまでの山行で使った駅を通り、混んでいる特急に乗った先生方に優越感を抱きながらがらがらの車内で眠る。富士見でその先生方の乗った特急に抜かれ、1週間前恐ろしい忘れ物に気付いた茅野を過ぎ、遂に八王子から3時間40分かけて松本に到着した。

 ここで先生方と合流し、「歓迎 I様」と書かれたタクシーに乗りこむ。この運転手の声は体育科のある先生に本当に似ている。、皆笑いをこらえているようだった。

 12:15に新穂高温泉に到着。ここのキャンプ場は小川、芝生、木陰、美しい便所と良いキャンプ場の条件を全て備えている。その上、すぐ近くには無料の温泉まである。温泉は去年は登山客で混んでいたが、今回はがらがら、最高であった。その後も川遊びなどをして時間を潰す。

 夕食のポトフは2時間以上煮込んでいた甲斐があって素晴らしい出来だった。ワンゲルであんな柔らかい芋が食べられるなんて思わなかった。早めの就寝とする。



7月28日
〈2日目〉

 
今日が行動初日なので起床も早めに2:30としたのだが……、目が覚めたときは3:00であった。先が思いやられる。とにかく少しでも遅れを取り戻すべく朝食・撤収を早めに済ませ、何とか5分遅れの4:35に出発できた。

 今日のザック歩行は4時間半だけで急な登りも無い。しかもそのうち2時間は林道である。空は少し雲がかかっているが、おかげで暑さに悩まされることも無く順調に進む。例によって最初のペースは速いが、そのうち普通のペースになったので大丈夫だ。有名な滝谷ではドームも眺められた。

 幕営地の槍平には10:00に到着。ここも近くに川が流れており、水が豊富な良い所だ。天気は曇りのままなので、奥丸山へのピストンは無しとなった。しかし、このピストン中止が決まる前に皆がくつろぎの態勢に入ってしまったのは反省すべきだった。

 昼食のホットドッグはソーセージを茄でる本格派で、やはり味は魚肉ソーセージとは雲泥の差である。この日も夕飯までかなりの時間が余ったので川遊びをしたり、昼寝をしたりと平和で退屈な午後を過ごした。夕飯のカレーは水が多くスープのようになってしまったがまあ良い。明日はこの合宿のメインである槍ヶ岳登頂だ。天気の良くなるのを祈りつつ眠りに就いた。




7月29日
〈3日目〉

 今日こそはと何とか2:30に起き、温かくない茶漬けを食べ、4:20に出発。

 天気は曇り。途中の中ノ沢で水を補給して、またしばらく行くと次第に傾斜が急になり、森林限界を超えた。途中で下ってくる高校の団体にも幾つか会ったが、皆濡れた雨具やザックカバーを着けている。上の方は雨のようだ。

 6:55、千丈沢乗越分岐を通過。医療箱のようなものが置いてあり、なかなか親切だと思った。 そのうちとうとう雨が降りだし、雨具とザックカバーを着けることになった。なんてこった。

 ここから先がこの合宿で一番急な登りだったようだが、ゆっくりとしたペースだった上、日光を浴びて登るということが無かったので、それほどきついものでも無かったように思う。それでも展望の無い、それも雨の中の登りは嫌なものだ。晴れていれば雄大な景色と高山植物を眺めながら登れただろう。

 9:35に槍ヶ岳山荘に到着。槍は見えない。山荘の中で昼食のサンドイッチを食べるのだが、この雨で気分がなんとなく重い上、当たり前だがパンは潰れている。このとき隣の人が食べていた山荘の温かそうなカレーライスは輝いて見えた。こちらの飯に目を戻すと、コッヘルの中にシーチキンマヨネーズの液体部分だけが残っている。Tが飲み干してくれたので助かったが。

 10:35、槍ヶ岳のピストンに出発。急な岩場が続くと言うので緊張する。この緊張感はジェットコースターに乗る前のそれに似ていたような気がする。意外とあっけなく20分ほどで山頂に到着。晴れていれば絶景なのだろうが、360°真っ白である。それでも自分はもちろん殆どの部員にとって初めての3000m峰だ。気分は良かった。

 写真を撮ってしばらく休んだ後山荘に下り、そこの水は不味くないので明日の行動用の水を買って、殺生ヒュッテに下りた。

 設営を済ませ、夕飯まで時間があるのでテントの中でしばらく雑談をしていると、教テンからトランシーバーで槍が見えると知らされた(そんなの使わなくてもテントは隣だから普通に聞こえるんだけど……)。急いで外に出ると、霧が晴れて槍がきれいに聳え立っていた。感動して、これだけでも合宿に来た甲斐があったなどと言っていたが、まだこの時はもう一度槍に登れるなんて思っても見なかった。

 しかし、時間が経つにつれ空はどんどん晴れてゆく。そして、夕飯を食べながら先生方と相談したところ、明日の天気は悪く、登るなら今しかないということで、食べ終わってから槍ヘピストンする事になった。

 そして17:15に出発。槍ヶ岳山荘に着くと、西側も晴れていることがわかった。頂上の展望の期待が膨らむ。はやる気持ちを抑えて岩場を慎重に登り、18:00に槍の頂上に到着。今度こそ360°の大展望だった。穂高岳や去年登った笠ヶ岳、これから登る常念岳などが全て見渡せた。素晴らしい。時間が遅いからと諦めずにもう一度登ってきて本当に良かった。いつまでもいたかったが、ラジオの天気予報の時間もあり、15分ほどで出発。下りの途中では雷鳥の親子が見られ、更に良い思い出となった。テントに戻ると頂上付近にはガスがかかっており、ギリギリのときに登れたのだと思った。

 明日の天気はかなり悪いようだが、槍で展望が得られた以上、もう天気については文句は言うまい。今思えば、登りの雨も暑さをしのげたと言うことで、むしろ幸運だったのかもしれない。



筆者 T・N (2年生)

7月30日 〈4日目〉

 
この日は雨がとてもひどく、夜中は雨の音と風の音でよく眠ることができなかった。昨日から今日は停滞するという話まで持ち上がっていて、天気予報もほぼ確実に雨ということだったので、予想していなかった事態という訳でもないのだが……。

 眠れぬままに起床時刻の4時が来てしまった。朝飯を作り、食べている間に少し雨も落ち着いてきたようだったので、ヒュッテ西岳までは行くということになった。撤収を終え、僕達は出発した。僕は最初の1本は速い癖があり、今日の最初の1本も速かったらしい。登りはそんなこともないのだが、下りは速い。だから、そのギャップで体力を消耗してしまうらしい(人から言われて気づいたことだが)。確かにそのような傾向があると言われるのはもっともだなあと思うのだが、意識していないと結構そうなってしまう、気をつけなくては。

 雨は依然として降っていた。だが気温の方はそこまで低くなく、雨も冷たくなかったので、靴の中が濡れて気持ち悪かったこと以外は問題は無かった。ただ、東鎌尾根の道は楽な道ではなかった。途中崖を梯子を登っていったり、西岳に登る水俣乗越からの道は鎖もあったりしてかなり急だった。しかし、それも今日の短い行程を考えればさほど苦にはならなかった。

 そして、すぐにヒュッテ西岳に着いた。すぐに設営を開始して、昼飯にした。今日の昼飯はハンバーグサンドと果物缶と結構豪勢で、おいしかった。ただ、そのあとは雨も降ったり止んだりしていたし、風景もなく、時間も余っていたのでトランプをすることにした。1時間くらいして、F先生から声がかかった。「せっかく山に来たんだから、校外活動気分は抜け出して山でも眺めたらどうだ?」とのことなので、それはそうだと思い、テントの外に出てみると結構晴れていたことに気づいた。槍や穂高の頂上付近はまだガスがかかっていて、ちょっとものたりなかったが、確かに晴れている。設営時には濡れていた地面もカラカラに乾いていた。明日行く常念小屋もガスに隠れながらもうっすらとその赤い屋根の小屋が見え、明日はあそこまで行くのかとあらためて明日の行程の長さを実感した。

 時間は経ち、夕食も作り終えると、ガスは晴れ、槍の穂先以外ははっきりと見えた。夕日も沈むころになると槍の穂先のガスも晴れ、夕日が槍の穂先の横に沈んでいくのが見えた。この風景なら、去年笠ヶ岳から見た槍から昇る御来光の方が綺麗だと一人で思ったが、この風景もまんざら捨てたものではなく、なかなかすばらしかった。常念岳もはっきりと見え、その緩やかな丘のような形の山容が伺えた。

 言い忘れたが、ここのヒュッテ西岳のトイレはこの合宿の中では一番すばらしかった。特に小便用のトイレに書いてあった俳句(?)は「うまいっ!」と思った。機会があったら自分の目で確かめてもらいたい。




7月31日
〈5日目〉

 
昨日はとてもよく眠れた。起きてテントのファスナーを開け、ふと空を眺めると、空には満天の星が輝いていた。真っ黒な空が黄色に染まっていた。絶対に都会じゃ見ることのできない景色だった。

 朝飯を作り、さっさと撤収を終え、サブザックで西岳に登った。頂上には誰もおらず、まだ御来光も昇っていなかった。待つこと10分、東の雲海から放射線状のオレンジ色の光が見えてきた。御来光の優しい光がすみずみを照らしていく……、とてもすばらしかった。そこで写真を撮り、朝日も昇りきったので下山し、メインザックを背負って大天井岳へと出発した。

 1本目の途中「待て!」という強い言葉がしたので、ふと後ろに振り返ってみると、Kが! 滑落していたのだ! 「ズザザザザッ!」という滑り落ちる音とともにKは10メートルくらい滑落し、止まった。運良くそこの斜面は岩などはなく草も生えていて、少し急ではあるが危ない斜面ではなく、またKも綺麗に滑っていったので、たいした怪我などもなく本当に良かった。やはり、1本目のペースが速かったということも関係していただろう。ただ、トラバースしていく道は急ではなかったが、幅が狭く歩きづらかったこともあったと思う。

 稜線歩きは心地よく、槍はもちろんのこと次の目的地の大天井岳も見えて、昨日の風景とは打って変わって快晴だった。

 ビックリ平あたりに着いた時に、僕がとんでもないヘマをしてしまった。道なりに行くと行き止まりとなってしまった。ふと左を見ると道らしきものがあったので、横木があったにもかかわらず、そのままそっちに行ってしまった。だがその道はとても狭く、急で這松が道を思い切り邪魔していた。その上明らかに尾根から外れていたので、絶対この道は無いと思い戻ってみるとやっぱりあった、右に曲がる道があったのだ。確かに道を間違えたのはCLである僕の責任だが……、誰かに気づいて欲しかったというのが本心です……。これで随分体力を消耗してしまった。こんなバカなルートミスはもう二度としたくないと思った。

 無事大天荘まで着き、昼飯を作った。結構てきぱき準備することができた。晴れてはいたが、ガスっていて大天井岳に登っても展望は期待できそうになかったが、まあ近いからいいだろうということで登った。あっという間に着いた頂上は平凡なところで展望はそこそこだった。そこから大天荘まで戻り、メインザックを持って常念小屋に向かった。

 大天荘を先に出た僕らと同じ年頃くらいの高校生パーティを途中抜いて、緩やかなアップダウンの稜線のコースを少し急ぎ足で歩いた。エアリアのコースタイムには3時間と書いてあったが、僕達はそれを2本で常念小屋まで行った。

 常念小屋に着いてテントを設営することになったが、場所がとても狭くまた近くにトイレもあったためちょっと手間取ったが、なんとか設営することができた。一ノ俣の源流の水場へは行けなくなっているとのことなので、水を買い、飯を作った。テント場はかなり混み合っており、後からあのパーティも来たが張る場所が見つからず困っている様子だった。もう、常念小屋からはうっすらと下界が見えていて、下山したい気持ちを胸に今日は寝ることにした。




8月1日
〈6日目〉

 今日はいよいよ下山日だ。朝飯を作って、撤収を終え、出発した。天気はとてもよく、快晴だった。東の空の朝日を見ながら僕たちは常念岳に登り始めた。1本でも行けなくはなかったが、一応2本で行く事にした。1本目の小休止を取り、頂上へと向かうにつれ人がだんだん多くなっていった。前に大人数のパーティがいて抜かしたかったが、抜かすほどのスペースもなく、止まったり、歩いたり、ペースも一定ではなかったので少しうんざりしたが、そのまま頂上まで行った。

 頂上はとても混み合っていたので、三角点のある頂上ではなく、その先にあるちょっとしたスペースで僕たちは休むことにした。常念岳からの槍・穂高の眺めは最高だった! 槍・穂高の真東側に位置するのがこの常念岳なので、稜線がはっきりと見えた。最終日の締めくくりとしては最高の景色だろう。そこで長い30分くらいの休憩を取り、前常念岳へと向かった。

 下っているときに足に痛みが走った。靴擦れによるものだとはわかっていたがどうすることもできないので我慢して下っていった。前常念岳からも穂高は見え、なかなかの景色だった。岩の出た急な道が続いたが、次の1本で樹林帯になった。岩場にはまだ慣れてなく、ペースを速くして歩くことはまだ出来なかった。様々な経験を積み、慣れていきたいと思った。

 樹林帯からはぬかるんだ地面で、また道は急だったので、滑る人が続出した。疲労により集中力が落ちていることもあり、部員の表情は暗かった。途中昼食の時間になったが、なかなかよい場所が見つからず、やっと見つけたスペースもそこまで広くはなかったが、そこで昼食のプリッツを食べ、出発した。

 ここからはF先生がトップをやることになって、かなり速いペースで下っていった。最後の休憩場所でTが滑落してしまうというちょっとしたトラブルがあったが、そこまで落ちなかったので良かった。そこから三股へはあっという間で、とりあえずみんな無事に下山することができた。

 僕達の夏合宿は終わった。だけどまだ僕も2年生、これで全てが終わったという訳ではなく、来年もまた夏合宿がある。この夏合宿で学んだことを次に活かしていきたいと思う。



《「稜線」第25号(2003年度)所載》

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