8月1日 〈4日目〉
黒部五郎小屋を出発する。先日も思ったが、すごい残雪である。先日転んでペンキがつき、赤くなったところが妙に痛々しい。今年はほんとに寒かったんだな、と妙な感心をしつつ歩く。去年の行程と大抵同じようなコースに安心して、ずんずんと進む。それにしても三俣山荘のあたりはどうしてこう、わかりにくいのだろうか。キャンプ場が変な風に広がっているため少し悩む。迷うワケはないがすっきりしない。
そして迎えるは4日目最大の山場(これしかないのだが)鷲羽のピストンである。いつも通りW先生が休憩している間に脱兎の如く駆け出す。ザックを置いたらとたんにうれしくなるのは若い証拠。それを追うK先生、1年生のことをおいていかんばかりの勢いである。実際にK先生はおいて行ってしまったが。駄目なリーダーである。3年生もW、U脱落。でも、どちらかというと遊んで遅れている節があるので容赦はしない。
コースタイムを若干縮めて山頂に到着。K先生の到着を待つため休憩時間を大幅にとる。残念なのはその間中ほとんど晴れなかったこと。完全にガスってしまっていて、苦労して登って展望がまったくなかった。悔しい限りである。だがもっと悔しいのは、下りてから急に晴れたこと。いつかもう一度行ってやると心に誓う。
その後、「鷲羽に登ったからいいか」という理由で双六岳を登らずに双六小屋へ。あれは、頂上が広がっていて、とてもいい山なので1年生は機会があったら行ってみると良い。私は大好きである。双六小屋は相変わらずきれいな小屋である。1年生感動である。さらに便所のあたりが改築されていてさらにきれいになっている。3年生感動である。池、水、土地と良いキャンプ場の3大条件(独断と偏見に基づく)に恵まれたここで一晩を明かす。
8月2日 〈5日目〉
双六小屋を出るときに嫌な予感はしてたのである。朝はガスが出るものなのだが、まったく晴れる様子もない。別に「2メートル先は……」の世界ではないのでそこまで心配はしなかったのだが。朝ごはんを食べても、テントをたたんでも晴れる気配はなく、なんとなく気落ちしたままで出発する。
なんとなく気落ちしていたのだが、一本目の休みでそんな気持ちも吹き飛ぶ。雷鳥である。それだけでこんなに元気になってしまうのは単純だとは思うが、奴らはそれだけ、いい奴なのである。現れると「おおぅ」と思ってしまうのだから仕方がない。
だが、天候はどんどん悪化していく。10メートルとはいわないが、あそこまで行こう、という目標がまったく見通せないくらいにガスが出てしまった。寒がりの人は雨具まで着るくらいである。そんな状態の中、恐ろしい提案がなされる。抜戸岳を越えた分岐で休憩中それはなされた。
Y・K「うる〜(Uの愛称)。今日がんばって歩いてわさび平小屋までいけば、明日1時間で帰れるよ?」
U「え、マジで?」
馬鹿二人である。だが、5日目くらいにもなると家が恋しくなるのか、それに追随する馬鹿多数。結局、天候不順とあまりにも馬鹿なので却下された。当たり前である。
結局笠ヶ岳山荘で泊まることとなった。テントを立て終えたころにぽつぽつと雨が降り始める。ファスナーの壊れたジャンボエスパースと格闘しつつ、気付いたら豪雨。これで、「Y・Kは雨を降らさない」伝説崩壊である。今年の1年生は凄い雨男がいるに違いない、と逆恨みしつつこの日は終わる。
8月3日 〈6日目〉
合宿最終日である。天候は晴れ。昨日の大雨が嘘のようである。最終日が晴れてうれしい反面、どうせなら5日目も晴れて欲しかったと思う気持ちもあった。とかく事故が起こりやすい最終日。下りメインのコースで昨日の雨。足場はかなり悪いであろう。今年はいったい何人が犠牲になるのか。誰も怪我をしないことを祈るばかりである。
朝、まず笠ヶ岳に登る。行程というよりはハイキング的な勢いで登る。頂上でご来光と行きたかったが、あえなく失敗。笠ヶ岳付近でご来光を拝む。その後山頂へ。最終日で行程も短めということもあり、のんびりとすごす。眼下に広がる雲海に馬鹿みたいにはしゃぐ。最終日でハイになっているだけかもしれないが、それほど気分のいい景色であった。
笠ヶ岳山荘を出て北上。抜戸岳付近の分岐点まで行き、1本入れる。昨日はまったくなかった周りの風景にうれしくなる。そこから杓子平への道は、傾斜こそ急な道だが、歩きやすく眺めもよく気分のいい道だった。杓子平で少し早いが1本。ここも、休みを入れたくなるくらい良いところなのである。このくらいの時間になると笠ヶ岳に雲が出始めた。朝出ていなくて本当によかったと感じる。
そこからの道はひたすら下った。最終日の掟、樹海の中を延々と歩く。あたり一面木である。ほかには岩しかない。そこをひたすら下る。コースタイム3時間を休憩1本で下る。1本目は普通に1時間程度で入れたが、そこから1時間30分程度ひたすら歩き続ける。休憩に向いた場所が無かったということもあるが、それ以上にリーダーの「もう少しっぽい」という判断のもと歩き続ける。1年生はかなり疲れていた。当たり前である。こんな悪い先輩になってはいけない。先生方はもっとお疲れのご様子である。若干、罪悪感を覚えつつ林道を歩く。ここまでくると生徒は馬鹿みたいに元気を取り戻す。そして車が入ってこられるゲート付近まで下って解散。みんな生きて帰ってこられた。素晴らしい。
これから各自解散後、ご飯を食べたりお風呂に入ったりいろいろだろう。みんな、怪我がなく済ますことが出来、1年生もつらかったろうが、無事に帰ってくることが出来た。これで合宿は終わりである。そう、久々の我が家が待っているのである。ゆっくりと、帰ろう。今度は特急で。
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