小 説 三国史それから (3)-三顧の礼- by あき よしき

この物語は,フィクションです。

新しい幽州の刺史,カンという男が自分のところへ あいさつにくる、と聞いてオウキは驚きを覚えた。
中央から派遣される数々の役人を目にして来たが、 みな胸糞がわるくなるような連中だった。
横柄であり、人をよびつけ,饗宴をもとめ、袖の下 を強要してきた。オウキはなんども苦い思いを抱いた。
カンに対してもそのような思いが頭をもたげた。
「期待はしない。」
そう思った。
ところが,自分のような者のところへ、あいさつにくる、 というのだ。
オウキは少なからず心を動かされている自分を感じた。
カン丘倹という漢は,はたしてどんな顔をしているのか。
それまで,魏を頼りとしてきた自分の部族はなぜか, 同じ魏に通じていると思われる東川王に叩かれ続けていた。
隣国の宿命か。
しかし,それでも,魏という大国の奥に「ぬえ」 のようなものを感じた。
その事実がオウキに戸惑いをもたらしていた。
幽州刺史,カン丘倹。

一方、カン丘倹は自分の屋敷にあって,今回は自分 の方からあいさつすべきだと考えていた。
前の黄巾のときには、カンは若かった。
反乱を起こす民に臨んで、
「未開の民族、なにするものぞ。」
という思いがあった。
そういう思いを抱いて臨んだ戦の、結果は見るも無残な ものだった。
巫術者の群れに囲まれ,襲われ,散々に逃げ帰った。
生きているのが不思議に思われた。
洛陽に帰ったときの姿を思い浮かべると恥ずかしさに 身が縮んだ。そして当然のごとく,罰せられることを 覚悟していた。
しかし、うつむいて参内する彼に対し、戦に勝敗は つきものと明帝は励ました。
「漢の高祖,にしてからが,百戦にして百敗したでは ないか。近くには,蜀の劉備殿が手本としているでは ないか。」
明帝の言葉に,カン丘倹はは涙した。
感謝の念を覚えた。
その信頼に応えたいと思った。
自分を信頼のしてくれる明帝に、カンは自分の失敗を 隠す必要はなかった。
カンは自分の失敗を認め、反省を重ねていた。
カンは明帝の元で育っただけあって,素直だった。
---近くには,蜀の劉備殿が手本としているではないか--
良い見本と劉備を振り返った。
まことに,劉備殿は敗戦につぐ敗戦を重ねていたが, ついに,蜀を建国したではないか。
蜀の帝王,劉備玄徳。
カンは思った。
「私は聞いている,彼の信を桃園の結びを」
また、近くにあって、魏を苦しめている、諸葛亮孔明は 三顧の礼で迎えられた、埋もれた人材ではなかったか。
蜀の帝王,劉備は凡庸と伝えられたが、よく人材を求め、 掘り起こすことで魏に対抗していた。
また、魏の創始者,曹操にしてからが、よく人材を求め る姿は、よき道具を求めるがごとしと称賛されたのでは なかったか。
カンの頭の中で、魏の宮廷内で学んだことが、自分に足 らなかったことの反省点として浮かんでは消えていた。
ついに,カンはある結論を出した。
土着の首長であるオウキの元へあいさつに行くことにした。
「三顧の礼、それを実践するのだ。」
自分の進むべき道を知り,彼の顔はさわやかに,晴れわ たっていた。


  • 三国志それから 13

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