小 説 空手の記 (27) 「石橋 」 by あき よしき

この物語は作者の実体験に基づいてはいますが,フィクションです。

夜の街を数分走り抜けると,やがて街の東側を
流れる小さな川に到達する。
その土手をよしきは走った。
暗くて何も見えない道だが,不思議とよしきの
目にははっきりと見えた。
やがて,小さな,石でできている橋に到達した。
そして,黒い川の水に向かって,欄干を越える
ように蹴りの練習をした。
明日の仕事のことを考えると多くはできない。
大学生ならいざ知らず,仕事への責任が彼を留
まらせた。
それでも,日常の惨めな自分が消え去るまでに
は至らなかった。
ミスをして班長に怒鳴られる自分。仕事上での
つらい思いが彼を叩きのめした。
自分は何か違った者であるはずだった。
「なんで・・」と思った。
自分に挑戦していればそんな思いは消える,と
思った。
「人生の戦いを戦い抜くのは誰でもない。」
と思った。
勝利を自分で戦い取れるのはここだ,と思った。
欄干の上にとびのり,歩いてみた。
恐怖が背中を走った。
しかし,この欄干上でバランスがとれるならば,
そこには自分に打ち勝つ強い自分がいるはずだ。
よしきは目の前に続く一筋の道を見ていた。


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