小 説 空手の記 (28) 「暗闇 」 by あき よしき

この物語は作者の実体験に基づいてはいますが,フィクションです。

よしきは,今日も道場へと向かった。
暗い道を走った。
「仕事を終えた重い体でなお,走るのか。」
自分に対して,ときおり,疑問が湧いた。
「馬鹿だ。」
よしきは思わずつぶやいた。
しかし,昔,誰かが,著作の中で書いた。
「スポーツは走ることなり。」
その言葉がよしきの頭にこびりついていた。
なにかしら成果が得られたわけでもないのにむやみ
にその言葉を信じた。
現実から逃げている,と言われればそれまでだが,
数十分と走っているとやがて,別世界にいる自分
に気がついた。
次第に自信が湧いてきた。
どこまでも走れるような気がした。
流れ落ちる汗が,快く感じた。
闇に向かって,突きを入れた。二発三発と入れた。
「はっはっ」
弾む声にもならない気合と共に,空気が下腹部に
入ってきた。
それが,下半身の新しい推進力となるような気が
した。
「俺は,俺だ。」
よしきは闇に向かって叫んでいた。


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