小 説 空手の記 (26) by あき よしき

この物語は作者の実体験に基づいてはいますが,フィクションです。

仕事の合間にこの前の組み手の光景が脳裏に
浮かんではきえた。
結局,相手の構えた左拳のさばきが問題なのだ,
と思った。
「ビィー」
ブザーがなって誰かのミスを示した。
はっと現実にかえった。
よしきのミスだった。
頭をたたきながら,次の作業に取り組んだ。
「よしきっ,なにぼけっとしてんだ。」
班長の大声が飛んできた。
はっと下を向いた。
「作業中にぼけっとするなよ。迷惑だ。」
きつい叱責の声がした。
となりの作業員たちは無言でよしきを見た。
「迷惑」
よしきは思った。
(現実との戦い,と道場での戦い。二つの世界
を生きているようだ。)
仕事が終わると体が重く,くたくただった。
だが,よしきは二つ目の戦いに目を向けた。
どちらも戦いなのだ。
よしきは自分に言い聞かせた。
「生き延びなければいけない」
自分が生きている,生き抜いていることの証が
ほしい,
そんな思いが,よしきを夜のランニングへと駆
り立てるのだった。
空手の練習に取り組むと,別な世界で自分が生
きている、と思えた。
星がまたたいていた。


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