よしきの拳の方が速かった。
デソーザの面包に自分の拳が食い込んでいる
のが見えた。
「やめっ」
「上段突き、有効。」
よしきの勝ちが宣せられた。
しかし、彼の体はがくがくと震えた。
震えがどこから来るのか分からなかった。
勝手に膝が震えていた。
デソーザの拳は痛かった。
自分の勝ちは練習の成果と思った。だが、
真ん中を取られて動けなかった自分に腹が
立った。
(なぜ、圧されてしまったのだろう。)
(なぜ、師範は中段突きを採ってくれなかっ
たのか。)
うらみがましく思った。
(よく見ていなかったんじゃないか。)
そうまで思った。
膝が震えていた。
技では勝ったのに圧されていた自分があった。
中央を占められて,角に寄せられていく自分
の姿が,あった。
挽回をと苦しむ自分がいた。
そして,勝負が終わった今,勝手に震えて
いる自分に気がついて
「あれっ?」
とよしきは、ひとりつぶやいた。
よしきはうらめしそうに師範を見たが、その
顔からは何もつかめなかった。
しかし、「勝った」という喜びが心の奥から
湧いてくるのも事実だった。
岩のような体から繰り出される突きを、うまく
くよけることができた,と思った。
突きを入れたときの快感が湧き上がってきた。
公園での練習が生きた,と思った。
練習はやっている、という自信があった。