小 説 空手の記 (20) by あき よしき

この物語は作者の実体験に基づいてはいますが,フィクションです。

「あの人,日本人じゃないね。」
よしきは師範にたずねた。別の支部に練習に行った
ときだった。
「ああ,ブラジル人だ。」
背,格好がよしきに似通っていた。しかし,ちちれた
髪と黒目がちの目,彫りの深い顔だちが違う人種であ
ることを物語っていた。
「フジムラ,こっちへ来い。」
「あ,はい。」
フジムラと呼ばれた男は近寄ってきた。
「こっちの人はよしき君だ。」
「よしきです,よろしく。」
「デ・ソーザ・フジムラです。」
ちょっとポルトガルなまりのある日本語でその男は
挨拶をかえした。
太いな,よしきは思った。ブラジルという国の名前
を聞くと広大なジャングル,アマゾンが目に浮かんだ。
―あの広い国から来た男,どんな運動神経を見せるの
だろう。今やっている基本の練習からはわからないな。
彼は迷った,そして一瞬恐怖を覚えた。
そこでは,普段練習している道場とは違い,多くの若者
が気合を発しているのだった。
また,別にひときわ目立つ若者がいた。
「師範,あの人は?」
「ああ,あれかあれは与田だ。もう一人うまい奴が
いるんだが,今日はきていないな。野村って言う奴
なんだけどな。」
さまざまな若者が汗を流すこの支部では,よしきは
自分が小さなものに思えるのだった。


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