「あの人,日本人じゃないね。」
よしきは師範にたずねた。別の支部に練習に行った
ときだった。
「ああ,ブラジル人だ。」
背,格好がよしきに似通っていた。しかし,ちちれた
髪と黒目がちの目,彫りの深い顔だちが違う人種であ
ることを物語っていた。
「フジムラ,こっちへ来い。」
「あ,はい。」
フジムラと呼ばれた男は近寄ってきた。
「こっちの人はよしき君だ。」
「よしきです,よろしく。」
「デ・ソーザ・フジムラです。」
ちょっとポルトガルなまりのある日本語でその男は
挨拶をかえした。
太いな,よしきは思った。ブラジルという国の名前
を聞くと広大なジャングル,アマゾンが目に浮かんだ。
―あの広い国から来た男,どんな運動神経を見せるの
だろう。今やっている基本の練習からはわからないな。
彼は迷った,そして一瞬恐怖を覚えた。
そこでは,普段練習している道場とは違い,多くの若者
が気合を発しているのだった。
また,別にひときわ目立つ若者がいた。
「師範,あの人は?」
「ああ,あれかあれは与田だ。もう一人うまい奴が
いるんだが,今日はきていないな。野村って言う奴
なんだけどな。」
さまざまな若者が汗を流すこの支部では,よしきは
自分が小さなものに思えるのだった。