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「ナルトの担当教官になりました、はたけカカシといいます。」ど〜も、と軽く会釈する。
その男の姿を目にした時、イルカは驚愕のあまり、「えぇっ!?」と叫び声をあげてしまった。驚愕したなんて言葉じゃ言い表せないくらいの衝撃が全身を走った。

に、似てる....!あの男に。

不気味なほど夢の中の男にそっくりだ。他には滅多に見ない、銀色の豊かな髪。青い硝子のような瞳。そして少し猫背気味の長身。
あの間延びした独特の喋り方まで同じというのは、一体どうしたことだろう。
イルカは返事をすることも忘れ、身を乗り出して男の顔をまじまじと眺めた。あの...?とカカシがたじろぐ。そんなカカシに気付いていない様子で、イルカは尚もカカシの顔を見つめ続ける。

いや、俺のはやとちりか?

何しろはたけカカシと名乗った男は、怪しくも顔の半分以上を覆面と額当てで隠していた。そのためほとんど顔が見えないのだ。似ている似ていないと論ずる以前の問題だった。共通の特徴を持っているので、ぱっと見、似て見えたんだろう。こうしてよくよく眺めてみると、そんなに似ていない気がするし。いや、似てない似てない。イルカは納得がいったとばかりに破顔一笑した。
それを間近で見ていたカカシがふと目を細めて、「そんなに俺の顔がおかしいですか〜?」と訊いてきた。
「えっ!?」イルカは我に返った。ようやく状況を把握して、まずいと冷や汗をかく。
初対面の、しかもナルトの指導教官で上忍であるこの男に対し、自分はなんて無礼な振る舞いを...!
「す、すみません!すみませんでした!あ、あの俺、ちょっとぼんやりしてたみたいで....」すみません、と最後のほうは消え入りそうな声で、イルカは頭を深深と下げて謝罪した。忍の世界は完全な階層社会で、上下間の礼節は特に重んじられているのだ。

俺が不興を買うくらいならいいが。

イルカの脳裏にナルトの笑顔が浮かぶ。

あの子に余波が及ぶことは避けたい。

イルカは下げた頭を上げられないままでいた。
あの中忍何をやらかしたんだ。上忍を怒らせたらしいぜ。受付所に居合わせた人々が事の次第に気付いて、ヒソヒソ声で言葉を交わすのが聞こえる。

その時イルカの下げられたままの頭がぐいっと持ち上げられた。カカシだった。カカシが両手にイルカの頭を挟んで上を向かせたのだ。
突然のことに驚いて、大きく見開いたイルカの目がカカシの目と合った、その瞬間、カカシが困ったような笑顔を浮かべた。

あ。

やっぱり、似てる。

あの、困った感じの顔が。

こんな状況下で性懲りもなく、イルカはボンヤリとを思った。

「何してるんですか?アナタは何もしてないでしょ。頭上げてください、イルカ先生。」優しげな声が降って来る。

あれ?

「俺の名前.....」イルカは思わず呟いた。言ったっけ。いや、まだ挨拶もしていないはず。

「ん?あぁ、名前ね!ナルトから聞いてます。一番好きな食べ物は、イルカ先生に奢ってもらった一楽のラーメン!ってね。」

「あ、あいつ、そんなつまらないことを....!す、すみません。」イルカがまた頭を下げそうになると、あ〜ソレやめてくださいよ〜と気の抜けた声がそれを制す。
なんだかよさそうな人だな、とイルカは思った。上忍なのに居丈高なところもなく、それどころか気さくで人好きのする感じだ。

いい先生でよかったな、ナルト。

「あの、今更なんですけど、やはりこういった事はきちんとしておいた方がいいと思うので、改めてご挨拶させていただきます。私はアカデミーでナルトの担任をしておりました、海野イルカと申します。よろしくお願いいたします、ハタケ上忍。」イルカがぺこりと頭を下げる。本日3回目だ。

「あ〜本当に真面目な方ですねえ、イルカ先生は。こちらこそよろしくお願いしますね!それから俺のことはカカシでいいですよ。」楽しげに言う
カカシを余所に、そういうわけにはいきません、とイルカが突っぱねる。じゃ、イルカ先生と同じで、カカシ先生が良いです、とカカシが食い下がるので、結局そういうことになってしまった。変な上忍、とイルカは密かに思った。

じゃあね、イルカ先生。またね。

カカシが軽やかな足取りで受付所を去って行く。その姿を、イルカは不思議な気持ちで見つめていた。あの夢が続いているような、不思議な気持ち。夢と現実の境界があやふやになっている。

やっぱり、似てる。

顔が見たいな。

イルカはそう思った。



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