(2)
「んん....」
イルカは寝返りをうった。覚醒しない頭でぼんやり考える。
今何時だろう....久しぶりによく寝たなあ....
ん?よく寝た...?
「ええっ!?」そのことに驚いてイルカはガバッと身を起こした。
「み、見なかった....」あの夢を。
「やったーーー!!」イルカは嬉しさのあまり、意味もなく部屋の中をドタドタと走り回った。
よかった、本当によかった。やっぱり一時的なものだったんだな、そうだよな。今となっては心配しすぎていた自分が滑稽なくらいだ。
安心したら突然、空腹を覚えた。それに呼応するように腹の虫がぐうと鳴るから現金なものだ。そんな自分が可笑しくて、イルカはクスリと笑ってしまった。そういえばこの1週間、食事もまともにとっていなかったっけ。時計を見ると、22時過ぎ。6時間ほど眠っていたらしい。夕飯にはやや遅いが、まぁいいだろう。イルカは何か軽いものでも作ろうと、徐に冷蔵庫を開けた。中を物色しながら、もうあの夢を見る事もないんだろうな、と何とはなしに考える。大体あんな淫らな夢を連続して見る事自体が珍しいことなのだ。今思えばそれに動揺して神経過敏になっていた。それが返って悪い方向へ作用していたんだろう。イルカはすべてのことに合点がいったとばかりに、ウンウンと頷いた。
ふと、あの男の姿が脳裏に浮かぶ。
...そうか。もうあの男に会うことも無いんだな。
その傍ら、イルカは雑炊にしようと野菜を取り出し、慣れた手つきで刻んでいく。
なんかちょっと......それは淋しいかな.....
何気なくそんな言葉が浮かんで、イルカはドキリとした。
な、何考えてんだ、俺は!い、今のナシ!!
慌てて頭をぶんぶんと振り、不吉な考えを払拭する。
メシだメシ!メシにしよう!
空腹だとろくなことは考えない、と独りごちながらイルカは夕飯作りに没頭した。
しかし、それはとんだ杞憂だったことが即判明した。
イルカは一時的にでも感傷的な気分になっていた自分を激しく後悔する。いや後悔どころじゃない。そんな自分に反吐が出る。もう淫夢から開放されたとばかりに、あの後意気揚々と床に就いた。そうしたらこれだ。
「も....やめ....てくれっ....」
イルカの懇願も他所に、銀髪の男は執拗にイルカを愛撫し続ける。
男の手がイルカの可愛らしい乳首を捏ね繰り回し、舌が耳孔や首筋といったイルカの感じやすい部分を焦らすように舐め上げる。後ろから抱きすくめられる形で挿入されているそれは、イルカの中をじっくりと嬲るかのように、ぬっ、ぬっ、と緩慢に動いていた。
「や....はァッ.....ンッ、うクッ.....」
イルカは絶え間なくこぼれる自分の喘ぎ声を、随分と遠くに感じた。
意識が朦朧としている。あれだけ何度も蹂躙され吐精したのだから仕方が無い、と朦朧としながらも冷静に分析する。過ぎる快楽は苦痛だ。だが訴えたところでこの男は止めてくれまい。イルカは嘆息した。
「何溜め息ついてるんですか〜!?」
銀髪の男が気に食わないとばかりに、愛撫の手を止め、拗ねたような顔をする。
「気持ちよくな〜いですか?イルカ先セ?」
優しげに、子供をあやすかの口調で問いかける。
内心、何が気持ちよくないかだよ、この色欲魔人が!と毒づきながら、イルカは残りの力を振り絞って訴えた。
「も、限界なんです....お願いします!!勘弁してくださいっ....!」
イルカは米搗きバッタのように、形振り構わず必死にお願いした。そんなイルカの姿に男は感じ入った様子だった。
もしかして、気持ちが通じた...!?イルカの顔が期待にパアア、と輝く。
「そうですね〜。止めてあげたいけど、でも駄目です。どうせ夢なんだから何したって俺の勝手デショ。夢の中でくらい自由にさせて下サイ。」
ね?と銀髪の男は無情な微笑をニッコリとイルカに向けた。
なんて、悪魔的な微笑み。
「いーやーだー!!」イルカの絶叫がむなしく響き渡った。