(3)

「お前、いよいよ飛ばされるらしいじゃないか。」

暗部の同僚が揶揄するような口調でカカシに話しかけた。

「何のこと?」

カカシは抑揚のない声で返しながらも、僅かに眉を顰める。思い当たる節があったからだ。

「この前編成された征伐隊の正式メンバーが決まったんだよ。」男が意地の悪い笑みを浮かべる。

「カカシよ、いよいよ里もお前を見限ったんだ。純血種だろうと何だろうと、イカレた奴は要らねえんだと....」

男の言葉が終らぬうちに、カカシは男の口を切り裂いた。切り取られた舌先がぴちゃりと音を立て床に落ちる。
男は音も無く、激痛に身体を翻打って昏倒した。
その様子に驚いた周囲の人々が、慌てて仲裁に入る。

「もうやめろ、カカシ!何やってんだ!?」

「別に。煩かったから。」大騒ぎするほどのことじゃないデショ。

何事も無かったかのように答えて、カカシはその場を後にした。

背後から聞こえてくる救護を呼ぶ慌しい声が耳に障った。
今この瞬間。皆あの男のことを気にかけ、助けようと一生懸命だ。
それなのに。
カカシを追ってくる者は誰もいない。咎める者も。カカシを気にかけるものは誰もいないのだ。良くも悪くも。
カカシはどんなことをしても罪に問われることは無かった。処罰を受けたことは1度も無い。
カカシは木の葉の忍の中でも特別だった。忍として特別な「純血種」なのだ。
「純血種」、それは優秀な忍の精子と卵子を人工授精することによって産まれてきた者を指す。
慢性的な忍の不足を補うため、また忍としての一定の質を保つため。
そうした名目の元にこのシステムは実験的に導入された。
産まれてきたものは木の葉の里の上層部が管理育成し、小さい頃から忍の極意を叩きこまれる。
このシステムはある程度の成功を見せ、カカシの誕生によってその成果は一気に花開いた。かのように見えた。
始めのうち上層部は最高傑作を作り出したことに酔いしれた。
結果カカシは6歳で一部隊を統率する中忍となった。異例中の異例だった。

だが、すぐにカカシには欠陥があることが判明した。
例えどんなに優れていても、それは致命的だったと言えよう。
それが露見したのは、ある任務の最中、手負いの仲間をカカシが殺したことを部下が直訴したからだった。
驚いた上層部がカカシに問い質すと、カカシは無表情に答えた。

「だって、怪我して動けなくて、足手まといだったから。」でも任務は遂行したデショ?

慌てた上層部が後から何度も教え込んでも、遂にカカシには分からなかった。

何故皆そんなことで騒ぐのか。命は奪うものと教えられたのに、奪ってはいけないと今更言う。どこが違うと言うのか。

その違いがカカシには分からなかったのだ。

そのうちカカシは孤立し、皆腫れ物に触るようにカカシを扱うようになった。
それでもずば抜けた才能を捨てるに忍びず、木の葉は今日までカカシを辛抱強く飼い慣らしてきたのであった。


それも限界というわけか。

カカシは薄く笑った。征伐隊については知っていた。大国に組みさずに勢力を成す不穏分子を叩いて回るのだという。遠大な任務だった。出立すれば帰還はいつとも覚束無い。生きて帰れる確率も極めて低いだろう。

それについてカカシは特に何の感慨も無かったが、イルカのことを残していくことが気がかりだった。

あれから何回もイルカを陵辱したが、カカシが期待したようにイルカの瞳が濁ることは無かった。
それどころか、以前よりも一層激しくぎらぎらした目でカカシを射抜く。
それがカカシを興奮させると同時に苛立たせていた。

まだまだイルカの中を侵していないのに。
まだまだイルカは堕ちてきてくれないのに。

どうしようかなあ、とカカシはひとりごちた。


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