(12)


もう手に入らない。
手に入らないけど、手放すことはできない。

「来てたんですか。」帰宅したイルカが少し驚いた声を上げる。

手に入らないのなら、手放すことができないなら、いっそのこと。

カカシは返事をせずに乱暴にイルカを押し倒した。畳の上に叩きつけられるように押し倒されたイルカが、ウッと呻き声をあげた。きっと昨日つけた背中の傷が痛むのだろう。塞がりかけた傷がまた開いたのかもしれなかった。
カカシはそんなイルカに気を払わずに、イルカのズボンを下着ごと引き下げた。胸につくまで大きく膝を曲げさせると、まだ固いイルカのそこに強引に捩じ込んだ。

「あぁっ....!」

性急な結合にイルカの目に涙が浮かんだ。反射的に、逃げようと体がずり上がる。カカシは逃げるイルカの体を引き戻して、抉るようにぐっぐっと深く腰を突き入れた。解されていないそこはとてもきつく、カカシを拒むような動きを見せたが、カカシは構わずに、抉じ開けるように激しく腰を使った。イルカは苦しそうに、喘ぎとも呻きともいえない声を洩らしていた。痛みを逃がすかのように、ハッハッと忙しなく息を吐き出す。頬を涙が濡らしていた。カカシは自分の体を倒してイルカの涙を舐め取った。何度も何度も。イルカの瞳から零れ続ける涙を丁寧に舐め取った。その行為にイルカは酷く驚いたような顔をした。イルカの背中が当っているところを中心に、畳にじんわりと赤いものが滲んでいた。

非道いことをしてる、とカカシは思った。

「痛い?泣かないで。」

カカシの思い掛けない言葉に、イルカは目を見開いた。

本当は泣かせたいんじゃない。

「泣かないで。」

非道いことをしてる。泣かないで。
今、楽にしてあげるから。

俺から、解放してあげる。


カカシはイルカを突き上げながら、イルカの首にそうっと両手をかけた。イルカはハッとしてカカシを見つめた。

「俺を、殺すんですか....?」イルカが静に尋ねた。

カカシは答えずに手に少しずつ力を込めた。イルカの顔が苦痛に歪むのが見えた。

何をやっているんだ。こんなにじわじわとやっていてはイルカが苦しむ。
もっと一思いにやらなくては。

そう思うのにカカシは力を込めることができなかった。手が、震えて。どうしようもなく震えて。思わず手が緩んだ。その時震えるカカシの手に暖かいものが重ねられた。イルカの、手だった。
驚いてカカシがイルカを見ると、イルカが笑っていた。眉は苦しげに寄せられているのに、口の端で無理矢理、笑みを作っていた。

「...かな..い...で....」

イルカが掠れた声で言った。

「泣かな..い...で...くださ...い。」

泣かないでください。イルカはそう言ったのか。
泣いているのはイルカだ。俺じゃない。泣いているのは....。

イルカの頬にポツリと何かが落ちた。そのうちポツポツと沢山降って来て、イルカの頬はすっかり濡れてしまった。

さっき俺が舐め取ったのに。またこんなに濡れて。

カカシはイルカの頬を擦った。何遍も何遍も。イルカの顔がぼやけて見えない。今イルカはどんな顔をしているのだろう。

その時イルカが手を伸ばして、カカシの頬を拭った。優しく。そして言った。

「いいですよ...俺を、殺していいです。」


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