Sunshine
前編
はたけカカシとつきあい出して早三ヶ月。
日に何度も繰り返される質問に、イルカは辟易していた。
「おまえ、もうカカシさんとヤッたのかよ?」
毎度のことながら、無遠慮で下世話な物言いにイルカの頭は沸騰寸前だ。
里の上忍の中でも指折りの実力を誇る、はたけカカシ。色事の方面でもその実力は里屈指だと専らの評判で、浮いた噂の絶えない人でもあった。そんな彼が夢中になっている人物が、万年中忍で浮いた噂のひとつもない海野イルカだという事実が、人々の好奇を激しく掻きたてているようなのだ。恥を知れ、と内心罵りながらイルカは素っ気無く答える。
「カカシさんとは、そんな関係じゃないよ。」
「なんだ、別れたのか。」
「そうじゃなくて、」
「捨てられたのか?」
「....あのなァ....。」
埒があかない。本当に嫌になる。執拗な質問攻勢を持ち前の処世術でかわしきる頃には、イルカはへとへとになっているのだった。しかも最近は頓に興味本位の輩が増えたような気がする。気のせいだろうか。
なんだかなあ、とイルカは情けなくなる。それでもカカシと別れようという気持ちには全くならない。
それが一番厄介なところだとイルカは思った。
「ねえ、好きですよ?」イルカ先生。
3ヶ月前、そう言ってきたのはカカシのほうだった。まだ初夏も間もない、よく晴れた日のことだった。
爽やかな陽気に誘われて、アカデミーの裏庭の木陰で弁当を食べていた時の話だ。
カカシが遠くの渡り廊下を歩いているのが見えた。あの猫背でよくわかった。
最近忙しくてナルトに会っていないけど、うまくやっているのかな。そんな考えが浮かんで、少し遠いとは思ったが、構わずにカカシに手を振った。
カカシせんせーい!
聞こえなかったかな、もう一度。そう思って口を開きかけた時、カカシがこちらを向いて歩いてくるのが見えた。
それを見たイルカは、呼び止めた俺がカカシ先生の方に行かねば!と少し慌てて立ち上がろうとした。カカシは歩きながら、そのままでいいですよ、というような手の仕草をして、イルカの動きを制した。
「コンニチハ、イルカ先生。」
イルカのところまでやってくると、カカシはイルカの傍らにストンと腰を下ろした。
「こちらでお弁当ですか。おいしそうですね。イルカ先生のお手製ですか?」カカシがイルカの手元を覗きこむ。
弁当はイルカが毎朝作っているもので、男の料理といった感じの無骨なシロモノだ。しかも今日の弁当は朝寝坊して大急ぎでこしらえたもので、いつもよりとりわけワイルドなできだった。ああ、いつもはもうちょっとましなのに、どうしてこんな時に限って、とイルカは急に恥ずかしくなった。と、その時カカシの手が焦げた卵焼きを一切れ、ヒョイと摘み上げて、あっという間もなく口の中に放りこんでしまった。もぐもぐと動く口をイルカは茫然と見つめた。
「すごく、おいしいです〜。」
邪気なく笑うカカシにつられ、イルカの顔も自然とほころんだ。いつもカカシはこうしてイルカの気分をほっこりと優しい気持ちにさせてくれる。上忍という厳しい世界に身を置く人なのに荒んでいない。不思議な人だ、とイルカは思った。
いつもはもうちょっとましなんですけど、と弁当のことを言い訳しながら、ナルトは最近どうですかと訊いてみる。
返事を待って、じーっとカカシを見つめていると、カカシも言葉もなくじーっとイルカを見つめ返す。沈黙に不安を感じ、もしやナルトの身に何か良くないことが、とイルカが身を乗り出して訊こうとすると、溜息混じりにカカシが「あ〜、」と呟いた。
「う〜ん、もう少しの間夢見させてほしかったんですけど。イルカ先生はつれないですね〜!」
恨みがましく紡がれる言葉に、訳のわからないイルカは目を白黒させた。
「ナルトは元気にやってますよ。でも、その話はもう少し後にしませんか。今日はとても気持ちのいい天気だし、イルカ先生ともう少しこうしていたい気分なんです。」
「はァ.....。」こうしてって、どんなだよと思いつつ、イルカが曖昧に頷いたのを見て、カカシはクッと笑った。
「な、なんですか?」その笑いの意味がわからず問い掛けると、「わかっていないでしょう、イルカ先生。」と意味ありげな答えが返ってきた。
何を、とイルカが続けるよりも早く、カカシが言った。
「ねえ、好きですよ?」イルカ先生。
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